お春、得意げに。
お春「じゃあ私に、ヴィト⚪︎のバッグを下さい。でなければ、コー⚪︎でもいいわ。」
キリスト、面食らって。
キリスト「ええ!?お前はおばあさんなのに、そんな物を欲しがるのかい?」
お春、すましながら。
お春「あら、何もわかってらっしゃらないのね。女というのはね、いくつになっても女なの。それにね、おばあさん、おばあさんって、言わないでくれる?私にはね、お春っていう立派な名前があるの。失礼しちゃうわ。」
キリスト、情けなそうに。
キリスト「さっきはつい、お金を出すなんて言ってしまったが…。クリスマスに、ヴィ⚪︎ンのバッグを贈るなんて、その辺の若造じゃないんだからなぁ…。」
お春、ツンとして。
お春「神様なのに、願いを選り好みしますの?ケチな神様ね。じゃあ、いいですわ。ウンとまけて、と⚪︎屋の羊羹を下さいな。私は、甘い物が大好きですし、今日はずいぶん疲れました。甘い物を食べて、疲れを取りたいと思います。」
キリスト、慌てて。
キリスト「いかん、いかん。そんな事を祈ったら、天にいるお父様に何を言われるか、わからない。大体おかしいだろう?私が、天にまします我らの神よ、この者に美味しい⚪︎ら屋の羊羹をお授けください、なんて祈ったら。値段の高い安いじゃ、ないんだよな。そういうのは、お店に行けば買えるんだから。もっと神様にしか出来ないような、そんな願いを頼むよ。」
お春、困って。
お春「異国の神様って、ずいぶん注文が多いのね。」
お春、悩んで。
お春「そうだ!私には、果たしたい思いがあるのだった。しかし、庄助さんを亡くしたばかりだというのに、そんな事を願っても、果たして赦されるものだろうか?」
キリスト、威厳を取り戻して。
キリスト「どんな願いでも、いい。
私が祈れば、それはたちまち叶うのだから。」
お春、心に決めて。
お春「では、キリスト様。私を、若い頃に戻してください。私には、思い残した事があるのです。それを、何としても取り戻したい。」
キリスト、考え深い表情で、少し間を置き。
キリスト「よし、わかった。とりあえず、今晩は寝なさい。そうして明日、目が覚めたら、お前は若い自分に、戻っている。でも、その事で何が起ころうとも、お前は自分で、その責を負わねばならない。わかっているね?」
お春、決意は固い。
お春「どんな事が起ころうとも、決して後悔は致しません。」
キリスト「よかろう、じゃあ寝なさい。」
キリスト、退場する。
お春、床に着く。