クリスマスの奇跡 5

向こうから、鍬を担いだ庄助が歩いてくる。

庄助「いやぁ、今日も1日くたびれた。田んぼを耕すのも容易じゃない。何しろ田んぼというやつは、まるで生き物のようで、よくよく見定めてから、あっちへ一鍬、こっちへ一鍬といれなけりゃ、すぐに死んでしまって、使い物にならなくなってしまう。しかし、それはともかく、今日もおっかさんの、うまい飯が食える。体がヘトヘトに疲れているから、なお一層うまいというものだ。」

庄助、お春の方を見ながら。

庄助「おや、誰だ、誰だ?この、誰もが疲れた体を引きずって、家路を急ぐ時間に、村の方からバタバタと、こちらへ走ってくる奴は?みたところ、女のようだが…。」

お春、庄助に気付く。

お春「庄助さん!」

庄助も、気付く。

庄助「おお、お春じゃないか。どうした、血相を変えて。結婚式は明日に迫っているんだぞ?日もくれるというのに、慌ててどこへ行くんだ?」

お春、しばらく黙り。

お春「私は、あなたとは結婚しません。」

庄助、びっくりして。

庄助「おい、どうしたんだ。一体、気でも狂ったのか?」

お春、暗く押し殺す様に。

お春「私とあなたの結婚は、親同士が勝手に決めた事。私が望んだことでは、ありません。もしかするとあなたにだって、他にいい人がいるのでは、ありませんか?」

庄助、驚いて。

庄助「何を言い出すんだ、急に。俺が、女遊びや色恋沙汰に、現を抜かすような、そんな軽薄な男ではない事は、村中の誰もが知っている。、もし、俺が思いを寄せている女がいるとすれば、それは他でもない、お前のことだ。」

お春、客席に向かって。

お春「かつての私であれば、あの朴訥な物言いに、胸がときめいた事だろう。しかし今、私は新三さんへの想いに燃えている。この人と、どれどけ話しをしたって始まらない。新三さんの元へ、急がなければ。」

お春キッパリと。

お春「私は、嫌です。あなたなんて、顔も見たくない。」

お春、走り去る。

庄助、お春の背中に向かって。

庄助「お春!お春!戻ってこい、もうじき暗くなるぞ!」