読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

真夏の夜の夢 4

伝次郎は、ビフテキを十皿は、食べたでしょうか。
いい加減、お腹も膨れてきました。
伝次郎「うぅ、もう食えねぇだ!いや〜食った、食った。おら一生分の肉を、一晩で平らげただ。もう肉なんて、見るのもごめんだべ!しかし人間っちゅうのは、不思議なもんだべな…。こんなに食っても、明日の朝目が覚めりゃ、またすっかりお腹が空いて、腹一杯飯が食いたくなるんだから…、おや何だべ?」
ホールの正面に、女性達がずらりと、並びました。
どの女性も、目の覚めるような、とびきりの美人ばかりです。
そしてどの女性も、体のラインがはっきり見てわかる、色とりどりの衣装を身に付けていました。
蛇が、出て来て言いました。
蛇「それでは皆様、今夜のお相手を、お選び下さい!この者共は、我らの主ルシファー様の、娘達です。どの娘も、この娘も、極上の美女ばかり。その上この娘達は、皆あらゆる喜ばしい技を身につけていて、皆様を天上の喜びへと、導く事でしょう!」
男達は、いそいそと前へ出て行き、娘達に手を引かれて、ホールから退出して行きました。
最後に伝次郎と、マスクで顔を覆い、ローブで体を覆い隠した娘だけが、取り残されました。
蛇「伝次郎様、ようございましたな。あの娘は、極上の中の極上に、ございますよ。さあさあ、あの娘にお声をかけてご覧なさい。骨の髄まで蕩けるような、お楽しみがまっていますよ。」
しかし伝次郎は、何の興味も無さそうに、いいました。
伝次郎「ふぁ〜、おら、女はいんね。それより、眠くなっちまっただよ。寝床は、どこだい?」
伝次郎は、部屋でぐっすりと、寝てしまいました。
伝次郎は、夢を見ました。
お母さんの、夢です。
お母さんは夢の中で、何か繕い物をしていました。
母「伝次郎は、元気でやっているだろうか?兵隊にとられるのは、名誉な事とはいえ、母としては、身の引き裂かれる思いだ…。しかし、愚痴を言う事など、出来ない。どの母親だって、自分のお腹を痛めて子供を産んだ事があるなら、思いは皆おなじなのだから。」
伝次郎は、叫びました。
伝次郎「おっ母、おっ母、おら、帰ってきただよ!おらだ、伝次郎だ!」
母「おや、伝次郎、よく帰ってきたね。うちには、何にもないけど、お前のために取っておいた、白いお米がある。これと、おみおつけと、ほら、お前の大好きなぬか漬け、これしかないが、上がるかい?」
伝次郎は、大きな口を開けて、バリバリとぬか漬けを、食べました。
伝次郎「やっぱり、おらのおっ母のぬか漬けは、世界で一番美味いべ!」
伝次郎は、そこで目を覚ましました。
次の晩も、その次の晩も、毎晩毎晩ご馳走が、続きました。
ビーフシチューにすき焼き、しゃぶしゃぶにフカヒレ、キャビアが山の様に盛られている夜も、ありました。
しかし伝次郎は、少しずつ飽きてきたのです。
伝次郎「ご馳走も、最初こそありがたいと思っただが…、正直、もう飽きたべ。おら、毎晩夢に見る、おっ母のぬか漬けが、食いたくて食いたくて、仕方ねぇだよ。でもなぁ…、ここを出たって、家には帰れねぇ。戦場が、あのひもじい思いが、待ってるだけだで。それも、何だか無性に億劫だ…。はあ、どうしたもんだべか。」
一方ルシファーは、業を煮やしていました。
ルシファー「おい、蛇よ!どうなっているのか、あの伝次郎とかいう者は?ただの一度も、我が娘達を、抱かんではないか!我が娘達を抱き、快楽の限りを尽くしてこそ、その魂も堕落し、我が手中に落ちるというものを。蛇よ、なんとかせい。何とかして、あのうすのろの頭に、性の悦びを吹き込んでやるのだ!」
蛇「お任せ下さい、ルシファー様。この蛇めの薬棚に、よく効くと評判の媚薬がございます。地獄のお歴々も、この薬を使って、楽しまれておるのですよ。ただ一つ、欠点がございますが、それは効きすぎて、お相手の女性が、一人では務まらない、そういった逸品に、ございます。ヒッヒッヒ…。」