真夏の夜の夢 7

翌朝伝次郎は、ルシファーの部屋へと、向かいました。

伝次郎「おい、ルシファー!出てくるだ。」

その剣幕に、蛇が驚いて出てきました。

蛇「どうなさいました、伝次郎様!?」

伝次郎「お前みたいな下っ端にゃ、用はねぇだ。さっさと、ルシファーを出すだよ!おらは、この館から出て行くだ。」

蛇「えっ!?何かご不満でも、ございましたでしょうか?ははぁ…、さては昨日の娘が、何かやらかしてございますな!申し訳ございません。私めの方から、きつ〜く…。」

伝次郎は、大声で怒鳴りつけました。

伝次郎「この青びょうたん、ゴチャゴチャうるさいだな!邪魔を、するでねぇ。邪魔すると…、こいつがみえねぇだか!」

伝次郎は、担いでいた小銃の、銃口を蛇に向けました。

蛇は、青ざめて叫びました。

蛇「ひぇ〜、伝次郎様!どうか、どうかそんな物騒な物は、お納め下さい。この蛇は、非暴力主義の平和主義者に、ございますですよ!私、暴力や争いごとといえば、大嫌い。平和の内に、愛し合ってこそ…、うひゃあ!」

伝次郎の小銃が、ズドンと火を吹き、蛇の足元に、小さな穴が開きました。

伝次郎「わかっただか?」

蛇「はいはい、わかりましてございますぅ〜。それではルシファー様の、おな〜り〜!」

ルシファーは、伝次郎に背を向けて、壁にかかっている絵画を、眺めていました。

ルシファー「美しい絵だと思わんか、伝次郎殿。この絵は、天国と地上、それに地獄が三枚の衝立に、それぞれ描かれている。天国や地上など、下らんものだ。どうだ、この地獄の活き活きとした様を!人は、一人でも多く、地獄に堕ちるべきなのだ。それが人間にとっての、真の幸福なのだよ…。ところで。」

ルシファーは、伝次郎の方を振り返り、言いました。

「どうされた、伝次郎殿?そなたの勇気、力、そういった物は来るべき戦いに備えて、取っておいていただきたいものだ。伝次郎殿、わかるかな?私はへりくだって、お願いをしているのだよ。その誠が、あなたに伝わらぬはずが、無いのだが…。」

伝次郎は、きっぱりといいました。

伝次郎「よく聞くだ、ルシファー。おらはこの館から、出て行く。その為なら、どんな手段でも、使うだよ。」

ルシファー「所詮は、豚だな…。つまらん事を!」

ルシファーは、右手の人差し指を、高々と掲げました。

すると、どうでしょう。

伝次郎の体は、金縛りに合った様に、動かなくなりました。

ルシファー「どうされた、伝次郎殿?体の具合が、悪いように見受けるが。ククク…、貴様は、私の出した食べ物を食べた。違うか?私の力を受けた者は、もはや私に抗うことは、出来ぬ。しかし…。」

伝次郎は、体中の力を振り絞り、小銃を構えました。そして、ズドンと発射しました。

銃弾は狙い違わず、ルシファーの眉間を捉えましたが、額の宝石に当たって、砕け散りました。

ルシファー「貴様はまだ、我が娘を抱いておらんからな…。この責任は、蛇に取らせるとしよう。」

伝次郎「何てこった!銃が、効かねぇのけ?かったい、体だんべぇ…。

何だ!うぐぐ、うぐ…。」

伝次郎はいつの間にか、背後に忍び寄っていた蛇に、眠り薬を嗅がされ、意識を失いました。

蛇「ルシファー様、これで私の失敗を、帳消しにして、頂けますよね?」

ルシファーは、憮然として叫びました。

ルシファー「図々しい奴め!そもそもが、貴様の不始末であろうが!まあ…、いい。この伝次郎とかいう豚にも、最近気に入った娘が、おるそうだな?今宵も、その娘を差し向けよ。この豚、朴念仁ぶってはいるが、所詮、男は男。一皮むけば、中身は同じよ、ハーハッハッハ!」