翌朝伝次郎は、再びルシファーの部屋へと、向かいました。
伝次郎「ルシファー!お前に、用があるだ。大人しく、出てくるだよ!」
蛇がおどおどと、姿を見せました。
蛇「また、あなた様でございますか…。はいはい、ルシファー様でしょ?言っておきますが、もう止めませんよ。どっちにしたって、後で酷い目に合うのは、私なんだから…。ああ、嫌になる。ルシファー様のおなーりー!」
ルシファーは、部屋の中央に、仁王立ちしておりました。
ルシファー「貴様は、見た目だけでなく、心まで豚に成り下がったのだな…。もう間も無く、命を落とすというところを、救ってやった恩を忘れおって。犬ですら、一度飯をやれば、忘れまいというに…!畜生以下だな、伝次郎!」
伝次郎「何とでも、ほざくがいいだ。おらには、もう明日という日はねぇ。それで、何を怖がるって、言うんだか?」
ルシファーは、怒りに顔を引きつらせながら、大声で怒鳴りつけました。
ルシファー「覚悟は、出来ているようだな。いいだろう。この寛大な私も、いい加減愛想が尽きた。この剣で切り刻んでやる。その後で、今日の晩餐に、お前の肉を供してやろう!」
ルシファーは、今度も指を振り上げました。
そして間を置かずに、伝次郎目掛けて、突進しました。
伝次郎は、必死に体を動かしながらも、落ち着いて言いました。
伝次郎「まあこんな物は、もうわかってることだんべ…。いいか、ルシファー。同じネタを、延々使い回しているとどうなるか、思い知るだよ。」
伝次郎は懐から、小さな薬の瓶を、取り出しました。
そしてそれを、向かってくるルシファー目掛け、投げつけました。
ルシファー「伝次郎!その減らず口、二度と叩けん様に、してやる!」
伝次郎「覚悟するだよ。」
伝次郎は落ち着いて、正確に薬瓶を、小銃で撃ち抜きました。
ぱりんと音を立てて、薬瓶は割れ、中の液体が、ルシファーの全身に掛かりました。
ルシファー「ぎゃあああ!く、苦しい!何だこれは、一体私の身に、何が起こったというのだあ!」
蛇は、キョトンとして言いました。
蛇「おい、ありゃあ、おれの毒だ…。こりゃあ、不味いな。」
伝次郎は、苦しんでのたうちまわるルシファーを見下ろし、こう言いました。
伝次郎「そうだんべ…、ルシファー。お前が、顎でこき使っていた、あの蛇の毒だで。」
ルシファーは、苦しみました。
それは、憐れに見えるほどでした。
ルシファー「ぐわぁぁ…。私の、私の美しい顔が!肉体が!溶けて、崩れて…。蛇!蛇よ!何とかせよ!貴様の毒だ、この私の体を癒せ!」
蛇「いや〜、それがこの毒に効く薬は、無いもんで…。へぇ、あっしが今まで、地獄のお歴々に、こき使われてきた、その苦味を抽出したもんですから、キリスト様でもちよっと、お救いすること、適いませんなあ…。」
伝次郎「わかっか、ルシファー?お前は、お前がバカにしていて、相手にしていなかった物によって、倒されるだ…。世の中っちゅうのは、因果なものだべ…。」
ルシファー「許さん、許さんぞ伝次郎!憶えておけ、この借りはきっと返す。お前が例え死んだとしても、私は貴様の魂を、どこまでも追いかけてやる!そして、必ずや地獄のくびきに、繋ぎ止めてやるぞ!」
そう言い残し、ルシファーは飛び去りました。
伝次郎は、涼し気に言いました。
伝次郎「おう、おう。負け犬の遠吠えとは、この事だで。さて、まだ後始末がのこってるべ…。」
蛇「えっ、何?あっしの事で、ごさんすかい?いやあ、あっしはあのルシファーに、言いように使われていただけで…、いえね、これでこの俺様が地獄の王だなんて、これっぽっちも思っちゃいねぇ訳ですよ。そうでさぁね、これから故郷に帰って、両親と畑でも耕して…、ぎゃあ!」
伝次郎は、蛇の亡骸と残らされました。
しかし館には、ルシファーの力が失われた事で、異変が起きていたのです。