キリストの地獄巡り

天国にいるキリストの耳に、ペトロからある報告が、届きました。

それは、人間界で暴れていた、ルシファーが人間に傷付けられ、地獄に潜んだ、というものでした。

ペトロは、勢いこんで言いました。

ペトロ「キリスト様、これはチャンスです!この、千載一遇のチャンスを捉え、ルシファーを滅ぼしてしまいましょう。」

キリストは、穏やかに言いました。

キリスト「うん、そうだな…。よし私は、ちょっと地獄へ行ってくる。このワインの湧く皮袋と、チーズは…、まあ、要らんか。後、ルシファーが吸うだろう?叩くと煙草の増える、煙草入れは、どこだったかな?おい、マグダレーナ!」

マグダレーナは、キリストの前に、膝間付きました。

マグダレーナ「なんでございましょう、キリスト様。」

キリスト「あの、何と言ったっけ…?ああ、そう。バァルだ。バァルゼバブから、取り上げたあの、煙草入れ。あれは、どうした?」

マグダレーナ「ああ、あれなら、キリスト様のお部屋の、大きな戸棚に…。いえね、私としても、お耳に入れたくはないんですが、ヨハネが、はい、福音史家のヨハネです。あの煙草入れから、いつも煙草をくすねては、吸うようになってしまって…。」

キリストは、口うるさい女だ、と心の中では思いつつも、穏やかな顔を崩さずに、言いました。

キリスト「うん、まあそれは、今はいい。それに煙草くらい、何でもない。人間達の嫌煙ブームに、乗せられちゃいかんよ。ワインが私の血だとするなら、煙草は私の、涙だからね。煙草を吸うのは、人と労苦を分かち合う事だ…。話が逸れたな。じゃあ、それを取ってきておくれ。」

ペトロは、キリストの煮え切らない態度に、イライラしながら、叫びました。

ペトロ「どうするおつもりですか!?キリスト様。ルシファーを、倒すのではないのですか?そのおつもりでしたら、このペトロ!地上に生きている、桃太郎や、坂田金時達、義に厚い勇者達を、すぐに呼び集めますぞ!そうそう、ルシファーを傷つけた、伝次郎という者の魂も、この天国に到着しております。そうだ、キリスト様に次ぐ地位にある、守護者コノン様は、今どこにいらっしゃるのです?」

キリストは、ボンヤリ答えました。

キリスト「また、旅に出ている…。あの男は天国に三日といた事が、ないからな。この前、絵葉書が届いたよ。一緒に肩を組んでいたのは、どうもインドの哲学者らしいが…。そのうち、戻ってくるだろう。」

ペトロは、顔をしかめました。

ペトロ「そんな事では、困ります!あの方が、天国の最高司令官なのですから…。」

キリストは、表情を崩さず言いました。

キリスト「うん、一応準備はしておいてくれ。もちろん天使達もな。どうなるか、わからんから。ああ、そうだ。呼び集めたら、ワインぐらい飲ませてやれよ。いいのが、あったろう?お前はそういう事を、すぐ忘れるから。後、お春さんは呼ぶな。戦えないし、私は苦手だ。」

ペトロは満足したように頷き、頭を下げました。

ペトロ「かしこまりました。では早速、準備に取り掛かりたいと、思います。」

マグダレーナ「お持ち致しました。」

キリストは、煙草入れを懐にしまうと、玉座の方を振り返り、挨拶しました。

キリスト「ありがとう、マグダレーナ。じゃあ、お父様。行ってきます。」

誰もいない玉座から、声だけが響きました。

お父様「行っておいで、息子よ。あまり、遅くなるなよ。」

キリスト「わかりました。」

キリストが、天からゆっくり地上に降りていくと、少し大人になったアベルが、羊を追い立てているのが、見えました。

キリスト「ほう、うまいもんだ。あいつも、立派になった。早く奥さんを、もらうといい…。」

キリストは、地の果てに降り立ち、大地の裂け目から、地獄に降りて行きました。

門番「何者だ、お前は!」

キリストは、平然と答えました。

キリスト「私は、キリストだ。イエス・キリスト。お前さん達、どんなに教養がないか知らないが、私の顔ぐらい知っているだろう?」

門番は動揺しながら、ヒソヒソと相談し始めました。

門番「おい、そういえばこいつ、本当にそうだぞ!?よし、ひっ捕らえて、ルシファー様の前に引っ立てよう!そうすれば、大層な褒美が頂けるぞ!」

キリストは、門番に捕まって、ルシファーの前に引き摺り出されました。

ルシファーは、顔は焼けただれ、肉体の一部が失われていて、もはや歩く事も出来ないようでした。

ルシファー「よし、お前達は、下がっていい。褒美だと?うるさい奴だ。滅ぼされたいのか!?」

門番達は、慌てて逃げ去りました。

そして、ルシファーとキリスト、二人だけになりました。

しばらく、沈黙が続きましたが、やがてルシファーが口を開きました。

ルシファー「何の用だ、キリストよ。まさか、私の傷を癒しに来たのか?」

キリスト「うん、まあ、それもいい。しかし、今日は違った用だ。」

再び、沈黙が訪れました。

今度は、キリストがその沈黙を、破りました。

キリスト「私は、ワインを飲ましてもらおう。どうも、地獄という所は、私には合わない。随分、喉が乾く…。」

キリストは、皮袋から直接、ワインをあおりました。

キリスト「これは、チリワインのコノスル・オーガニックでな…。勿論、赤だよ。私も人間の様に、酔えればいいと、思う。私が飲んでも、渇きが癒えるだけで、大して気持ち良くは、ないんだ…。ほら、ルシファー。」

キリストは、煙草入れを差し出しました。

キリスト「ほら、それはお前さんにやろう。天国も色々、うるさくてな。私もマリアに言われて…、ああ、私を産んだマリアだ。止むを得ず、禁煙したよ。その煙草は、随分美味かったな。何ていう、銘柄だい?」

ルシファー「アクロポリス。人間の、作ったものだ。」

キリストは、しみじみ言いました。

キリスト「人間の、職人という奴は、随分いい事をする…。まあ、なんとか、天国に迎えるとしよう。」

ルシファー「こんな物で、私を買収する気か?」

ルシファーは、皮肉な笑いを浮かべて、煙草入れを受け取り、その中の一本に火をつけました。

ルシファー「フン、つまらん味だ。貴様も、随分いい趣味だな、キリスト!」

キリスト「それは褒め言葉と、受け取っておこう。」

三度、沈黙が訪れました。

ルシファーは、静かな口調で、言いました。

ルシファー「で、何の用だ、キリスト!まさか、こんな茶飲み話を、しに来たのでは、あるまい!」

キリスト「私が飲んでるのは、ワインだよ。それは、いい。そうだな、そろそろ用件に、入ろうか、ルシファー…。」

キリストは、真面目な顔で言いました。

キリスト「地獄を去れ、ルシファー。」

ルシファー「ハッ!何を言うかと思えば、バカなことを。私はここの王だ。ここが、私の城であり、私のしもべたちが、いるところだ。」

キリストは、静かに言いました。

キリスト「どうだろう、ルシファー?バァル・ゼバブの動きは、掴んでいるか?」

ルシファーの眉が、ピクンと動きました。

キリスト「その様子では、掴んでいるんだな。で、どのくらいが、お前さんの側に着き、どのくらいが、バァルの側につくんだ?」

ルシファーは、黙りました。

キリスト「答えられまい。お前さんには、勝ち目は無いだろう。今の、お前さんにはな…。」

二人とも、黙りこくってしまいました。

キリスト「私には、お前さんの傷を、癒してやる事は出来る。だがそれは、人間達の手前もあるし、天国の連中も、納得しないだろう。」

ルシファーは、怒り狂いました。

ルシファー「キリストよ!のこのこ地獄まで、やって来たのは、傷付いた私を蔑み、侮蔑する為か!?ああ、私はこの体が憎い!この体さえ動けば、貴様なんぞに、減らず口を叩かせては、おかんものを!」

キリストは、微笑みながら、言いました。

キリスト「私はお前さんの、そういう誇り高い所が好きなんだ。」

ルシファーは、顔を真っ赤にし、身をよじって悶えました。

ルシファー「許さん、許さんぞ!キリストめ、貴様だけは!おのれ、なぜ私は剣が抜けんのだ!なぜ、神秘の力は、失われてしまったのだ!憎い、憎いぞ!貴様も憎いが、何より私自身が憎い!」

ルシファーは、悔しさのあまり、涙を流しました。

キリスト「お前さん、お父様の玉座に座ったそうじゃないか。覚えているか?」

ルシファー「ああ、覚えているとも。私の方が、あんな顔も見せん意気地なしよりも、神を名乗るのに、余程相応しい!私に力さえあれば、再びあの玉座に、座ってやるものを…。」

キリスト「そうお前さんは、そう言った。そして堕天使となった…。」

キリストは、一度言葉を切り、再び調子を変えて、話し始めました。

キリスト「天神や、竜王といった、古い神々はどうしてる?お前さん、今でもちゃんと、連絡を取り合ってるんだろう?」

ルシファーの眉が、再びピクンと動きました。

ルシファー「連絡を取り合うだと!?バカにしおって!あいつらは、私の手先に過ぎん。フハハ、そうか、貴様気付いていたのか!そうだ、あいつらは私の手先として、地上を支配しているのだ!私の力は、まだまだ衰えてはおらん。」

キリストは、何だかつまらなそうに、言いました。

キリスト「いいや、お前さん。それは、違う。あの連中は、お前さんの友達だ。」

ルシファーは、何か言いかけましたが、言葉になりません。

キリスト「何も言えんか、ルシファー。お前さんが、あの王座に座ったのも、私の教えによって、お父様の力によって、あの連中が虐げられていたのを、お前さんは、見逃せなかったからだろう!?」

その時浦島太郎が、駆け込んできました。

浦島太郎「ルシファー殿、大変だ。バァルが、軍勢を率いて反乱を起こしたようなんだ。」

ルシファー「おのれ、バァルめ!こんなにも早く動くだと?。アスタロトはどうした?私に変わって、指揮をとらせろ!」

浦島太郎は、情けない顔で、言いました。

浦島太郎「それが、バァルの側についたようでね…。私はね、モノ⚪︎リーを一緒に遊んであげるから、と言ったんだが。」

キリスト「どうする?ルシファー。今、私について来れば、天国の連中は、私が説き伏せよう。そうでなければ…。」

ルシファーの顔は、怒りで真っ青でした。

そこへかぐや姫の、天の牛車が駆け込んで来ました。

かぐや姫「ルシファー様!早くお乗りになって。私達の元へと、身をお寄せください。キリストの目も、そこまでは届きません!あっ、あなたは!」

キリストは、優しく言いました。

キリスト「お嬢さん、私の事は心配しなくていい。私は祈ればすぐ、天国に戻れるんだから…。」

ルシファーは、元気を取り戻し、大声で叫びました。

ルシファー「よし、浦島太郎よ!この牛車に、乗り込むのだ。覚えていろ、キリスト!この決着は、必ずつけてやる。神に相応しいのは、このルシファーなのだからな!ハーッハッハッハ!」

浦島太郎は、ルシファーを天の牛車に押し込み、天の牛車はすごい勢いで、飛び去って行きました。

キリストは、ルシファーが残していった煙草入れを、拾い上げアクロポリスをふかしました。

キリスト「やれやれ…、今度は、使ってもなくならんマッチというのを、作ってもらわんとな…。

キリストの吹いた煙が、一本の筋となって、たなびきました。

キリストは、笑ったような笑わないないような、そんな顔です。

キリスト「何も、上手くいかんのう…。お父様は、何を考えているのやら。」

地獄の空で、星々がギラギラと輝いておりました。

 

テーマ曲 「Ghost hardware」 Burial

https://youtu.be/ZCvu1QQ2Slg

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

どうも、こんにちは。

オートマールスム(白)です。

好きな煙草は、勿論、スタッド・オートマールスム(白)です。

先日、ある入居者さんが、「あなた、香ばしいいい香りがするわね。」と、いいました。

それは多分、スタッド・オートマールスムの香りでしょう。

煙草は一般に、臭いと思われがちですが、実はそんな事はないのです。

煙草臭さだと思われているのは、実際には巻いてある紙に含まれる、燃焼剤の臭いです。

だから、燃焼剤の使われていない紙で巻けば、煙草は、とても良い香りなのです。

勿論、ぼくのスタッド・オートマールスムを巻いているのは、燃焼剤の入ってない、ヘンプ(麻)です。

とても、いい香りなんですよ。

足りなくなったら、コンビニでショート・ピースを買い足します。

元ネタは、「ゲド戦記Ⅴ」。

登場人物の元ネタは…。

キリストは、マイケル・ムーア監督の著作に(どれだったか、忘れました。)、マリファナを吹かしながら、グダグダしゃべる、キリストの話があって、そこから。

ルシファーは、アトラスの「真・女神転生Ⅱ」のルシファーです。

その二人を、対話させてみようと思って、お話を作ったんですが…。

何だか、変な話を書いてしまいました。

普段は、書いた手応えが、何かしらあるんですが、この作品はありません。

とにかく、疲れてしまいました。

教会の人に見せたら、怒られるでしょうね。

面白かったら、笑って下さい。

因みに、煙草はキリストの涙、という設定を作りましたが、もう一つはコーヒーです。

コーヒーは、キリストの汗です。

単にどっちも、ぼくの好きな物なので、勝手な設定を作ってみました。

どうでしょう?

そうだったら、ぼくは嬉しいですね。

何だかやけに疲れてしまったので、本当に余談…。

ぼくは一頃、レトロ・ゲームに凝っていてい相当やり込んでいました。

中でも好きだったのは、ファミコン時代のコナミ

当時のコナミ・ソフトは、カセットに独自の音源チップを搭載していてそれはもう素晴らしい!!

熱かったなぁ、あの頃のコナミは…。

そんな訳で、一曲。

沙羅曼蛇(FC版)」 コナミ

https://youtu.be/y3ea3CwfTHs

ファミコンのゲーム・サウンドは時代の流行の所為もあり、ぼくの大嫌いな80年代HR・HMが源流にはなってるんですが違いますね。

センスさえ良ければ、ジャンルだとかメディアだとか表現の場なんてどうでもいいんでしょう。

大切なのは実力です!!

それでは、さようなら👋。