二人の預言者 2

エリヤは先ず、街道に沿って、歩いて行きました。

エリヤは、ごちゃごちゃした、人の多いところは嫌いだったので、脇の道、脇の道へと、入って行きました。

それでも、方向感覚がしっかりしていたのと、若い頃、世界中を旅してまわっていた経験から、道に迷う事はありませんでした。

エリヤ「おやこんなところに、すももがなっている。一つ二つ、頂くとしよう。」

エリヤは、すももを手に取り、一口かじりました。

エリヤ「う!酸っぱい。でもこの、酸っぱさが堪らんわい。酒にせよ、食べ物にせよ、天国の物は、上等過ぎる…。わしは、もっと安い物で、充分なんだ。」

エリヤが座って、すももを味わっていると、どこからか女が、金切り声を上げてやって来て、エリヤにしがみつきました。

その拍子に、すももが地面に落ちてしまい、泥だらけになるのを、エリヤは悲しく、見つめました。

女「おじいさん、助けて!悪い男に、追われているの!」

エリヤは女を、一目で娼婦だと、見抜きました。

やがて、頬に傷のある男がやって来て、怒鳴りつけました。

男「おい、じじい!その女を、こっちへ寄越せ。そいつは、大事な商売道具なんだ!」

エリヤは、何もわからない振りをして、答えました。

エリヤ「これは、珍しい…。お前さんは、人間を商売道具と、呼ぶんだね?分かったぞ、サーカスか、何かかね。そうだ、きっとそうだろう?」

男「黙れ、お前みたいな枯れすすきには、関係のない商売だ!それとも、何か?お前さんも、この女を買いたい、そうほざくのか!」

エリヤが見ると、女はブルブル震えておりました。

エリヤ「そうかい、そういう仕事かい…。確かにわしは、お前さんの言う通り、枯れすすきじゃよ。だがわしは、ちょうど今、旅の道連れが欲しいと思っておったところでな…。ほれ、金ならあるぞ。この女を、買い取るとしようかの…。」

エリヤは、懐から金貨のどっさり入った袋を、3つほど取り出し、ひょいっと男の方に、投げました。

袋は、ドサッと大きな音を立てて、地面に落ちました。

男は、たまげて言いました。

男「何だ、このじじい。頭が、おかしいんだな…。あんな女一人に、こんな大金を出して。…いや〜、申し訳ない。こんなに出して、頂いて。じゃ、確かに代金は、頂戴致しやした。ではあっしは、これで失礼いたしやす〜。」

男は嬉々として、三つの袋を、重そうに肩からさげて、元来た道を、引返して行きました。

エリヤは、女に言いました。

エリヤ「ほらお嬢さん、これで自由の身だ。どこへでも、好きな所にお行き。」

女は、オドオドしながら、言いました。

女「えっ?でもあんなに、大金を払ってもらっちゃって…。」

エリヤは、ニッコリ笑いながら、言いました。

あの袋に入っているのは、わしが今まで飲んだ、 ワインのコルクじゃよ。それに、ちょいちょいっと、まじないをしてな、金貨に見せかけてある。何日かすれば、元に戻ってしまうから、それまでに手の届かない所へ、お逃げなさい。」

女は、驚きました。

女「おじいさん、魔法使いなの!?」

エリヤは、静かに頷きました。

エリヤ「その通り。だから、わしの事は、何も心配いらない。さ、早くお行き。」

しかし、女はエリヤに抱きつき、こう叫びました。

女「やったあ!私、すごい人と出会っちゃった。この人といれば、何でも手に入る!おじいさん、私と結婚しない?何なら、愛人さんでも、いいんだけど…。」

エリヤはびっくりして、身を振り解きました。

エリヤ「お嬢さん、馬鹿なことを言っちゃいけない!さっき、わしは言っただろう、枯れすすきだと…。それにわしは、これからギリシャまで、行かなきゃならん。ご主人様の、お使いでな。だから、お嬢さん。お前さんは、お前さんの道をお行き。お父さんやお母さんも、心配してるだろう…?」

女は、ケロっと言いました。

女「お父さんもお母さんも、戦争で死んじゃった。だからあたし、ギリシャだろうが、トロイアだろうが、どこでもいいよ。おじいさん、運がついてるね!あたし馬鹿だけど、そういう事だけは、わかるんだ。おじいさんといれば、あたしもそのおこぼれに、預かれる!だから、よろしくぅ。」

エリヤは、話しているだけで疲れてしまって、降参しました。

エリヤ「わしは、エリヤ、イスラエルの大金持ちの家で、召使いをしている。お前さんの名は?」

女「ふーん、何かさえないねー。あたしは、カルナ。」

こうして二人は、ギリシャへ向かって、出発しました。