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二人の預言者 3

その頃モーゼは、大きな港町に入りました。

ここで船を手配し、一気に海路から、ギリシャに向かおうと、考えたのです。

モーゼが、市場を歩いていると、活気のある声が、前後左右から、響いていました。

市場には、肉や野菜、パンや果物等の、生活に必要なものから、木で作ったおもちゃや人形などの、子供の大好きな、役に立たない物まで、何でもありました。

モーゼは、こういう人と物の集まる、活気のある所が、大好きだったのです。

モーゼ「天国には及ばないが、地上の街も、また素晴らしい物だ!こうして人々は、一生懸命に働く。そうして日々の、僅かな稼ぎを携えて、家路に着くのだ。そうすると、そこには愛する妻と子供が待っていて…。なんと素晴らしい、光景だろう!人間という物は、本来そうした物なのだ。何故なら全能なる神が、自らに似せて造ったのだから、やはりその本質は、善であり…。」

モーゼの目に、奴隷商人に打ち据えられる、幼い子供の姿が、目に入りました。

子供は、大声で泣き叫びましたが、泣き叫べば泣き叫ぶほど、強く鞭で打たれるのでした。

モーゼは見るなり、間に割って入り、大喝しました。

「君、幼い子供を打つのは、卑怯だ!もし、打って満足するというのなら、私を打ちたまえ!」

奴隷商人は、胡散臭そうにモーゼを見ながら、言いました。

商人「あなた、気でもお狂いですか?これはね、私の売り物なんです。私の売り物を、私がどう扱おうと、それは私の自由。さっさと、おどきなさい…。どかないんですか、あなた?おい、お前たち!このウドの大木を、海に叩っこんでおしまい!」

腕に入れ墨をした、気の荒そうな男達が、10人は集まってきて、モーゼを取り囲みました。

そして皆、懐からナイフや刀を、取り出しました。

モーゼは目をつむり、天を仰いで、祈りを捧げました。

モーゼ「私は、暴力を憎んでいる…。しかしこうなっては、やむを得ないだろう。神よ、私に力を、お与えください…。悪を滅ぼす、類まれな力を!」

男「何をごちゃごちゃ、言ってやがる!それ、死んじまいな!」

男はモーゼに向かって、ナイフを突き出しました。

しかしモーゼは、目にも止まらぬ速さで、身を翻し、持っていた杖で、カトルの手を打ちました。

男は、手の骨を砕かれ、悶絶しました。

男「ぎゃあ!助けてくれ。こいつが、こいつがやったんだあ…」

その様子を見ていた他の男たちは、一斉にモーゼに襲いかかりました。

しかしモーゼは、男達の攻撃を、蝶が舞うように、ひらりひらりとかわしてしまいました。

男達は皆疲れて、肩で荒く息をしていました。

モーゼは、周りを見渡して言いました。

モーゼ「私は、私の信じる神の力と共に、戦っている…。お前たちの腕っ節が、如何に強かろうとも、神の力に勝てはしない…。まだ、懲りないか!」

モーゼは、向かってきた男のあばらを、杖で強く打ち、へし折りました。

また別な男とは、がっぷり四つに組んで、地面へ転がしました。

その男は、腰を強く打って、もう立ち上がれない様でした。

こうして荒くれ者達は、一人、また一人と倒されていき、最後には立っているのは、モーゼただ一人でした。

モーゼは、奴隷商人を振り返って、こう言いました。

モーゼ「では、君。この子供は、私が預かるとしよう。君には、商品の管理は、任せられない様だから。無能な者は、天国には必要ないのでね。」

モーゼは、男の子の首枷を外しながら、堂々と言いました。

モーゼ「私の名は、預言者モーゼ。この先の「人魚の口づけ亭」に、宿をとっているから、用があるなら何時でも、来たまえ。」

奴隷商人は、モーゼの名を聞くと、恐ろしさのあまり、失禁してしまいました。

モーゼは男の子を、人魚の口づけ亭に連れて行き、食べたい物を食べさせました。

男の子は、余程お腹が空いていたのか、肉団子やチーズを、何皿も何皿も、平らげました。

モーゼは、尋ねました。

モーゼ「君、名前は?」

男の子「…カイン…。 」

男の子にとって、今大切なのは、食欲を満たすことであって、質問ではありませんでした。

モーゼ「お父さんやお母さんは、どうした?この近くに、住んでいるのかい?」

カイン「…知らない…。」

モーゼは、このカインという、男の子が上手く感情を表現できないのは、腹が減っているから、という事だけでは、説明がつかない、と考えました。

モーゼは、質問を変えました。

モーゼ「じゃあ、神様の名前は、憶えているかな?何ていう、神様だった?」

カインは、興味なさそうでしたが、答えました。

カイン「…デウス…様。」

モーゼは、この子供の心の奥底には、敬虔な信仰が眠っているのだ、と確信しました。

モーゼ「それなら、ギリシャの神様だ。おじさんも、ギリシャに用があるんだ。良かったら、一緒に行かないか?お父さんと、お母さんを、探してあげよう。」

カインは、ボンヤリしているだけでしたが、モーゼはカインを連れて行くつもりでした。

そして、二人で過ごす、この何日かの間に、尊いキリスト様の教えを、しっかり身につけさせよう、と思い描いていました。