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二人の預言者 5

一方モーゼは、カインに手を焼いていました。

カインは、モーゼが思い描いていた様な、ちゃんとした子では、なかったのです。

食べ物を与えれば、直に手で掴む。それを、ボロボロ食べこぼしては、服も床も、汚す。

毎晩の様に、寝小便は垂れる。

遊びに連れて行けば、よその子と、すぐ取っ組み合いの喧嘩になり、相手の子を泣かす。

自分の服は、ボロボロになる。

モーゼは、頭を抱えました。

モーゼ「うむむ…。子供の面倒を見るというのは、何て大変なんだ。これなら、天国の議会で、やかましい議員たちの意見をまとめる方が、余程楽じゃないか…。子供というのは、実際小さな悪魔なのだ。いやいや、待て。そんな風に考えるのは、罪深い事だ。キリスト様も、言っている。天国は、こういう幼い子の為の、物だと…。そうだ、子供は小さいけれど、天使なのだから、その素直な想いを、最大限尊重してやらなければ、いかん…。」

モーゼが一人、深い悩みに、打ち沈んでいると、人魚の口づけ亭の主人が、部屋に駆け込んできました。

主人「大変です、モーゼ様!奴隷商人のマイワが、手下を連れて、ああっ!

主人は、マイワに突き飛ばされ、床に転がりました。

モーゼは、素早く助け起こし、怒りに燃えて、マイワを叱り飛ばしました。

モーゼ「貴様、何をする!主人、怪我はないか…?」

マイワは、勝ち誇った笑いを浮かべながら、モーゼと主人を見下して、言いました。

マイワ「あら、モーゼさん。お久しぶり。随分余裕が、おありのようね。他人の心配をしているなんて…。今にその顔、恐怖に引きつらせてやるわ!」

マイワの後ろから、黒いローブで全身を覆った男が、姿を現しました。

マイワ「ルシロ先生、よろしくお願いします!この憎たらしいモーゼの肉体を、八つ裂きにして、魚のえさにでも、して下さい!」

ルシロと、呼ばれた男は、両手を高く掲げ、かすれた高い声で、高らかに名乗りました。

ルシロ「余の名は、ルシロ!その名も高き、大魔法使いじゃ。汝は、神の名をみだりに語りて、人々に仇を成していると聞いたぞよ。よって余は、汝を義の元に、罰するのじゃ〜。ワ〜ハッハツハ!」

モーゼは、相手が誰であろうと、手加減や油断などせず、全力で戦うつもりでした。

モーゼ「で、どうやって戦うのだ?天の火でも、呼んで見せようか?」

ルシロは、動揺して叫びました。

ルシロ「待て!荒っぽいことは、いかん。私の仕える神は、何でも、穏やかに事を進めなさい、と教えている。だから、どうじゃろ?化け合戦というのは…。」

モーゼの心は、激しく昂りました。

モーゼ「いいだろう、受けて立つ!」

ルシロは、ニヤリと笑って、言いました。

ルシロ「では、より小さい物に化けた方が、勝ちとする!そこでだ…、汝、空豆の様な、小さい物に、化けられるかな〜?ちょっと、無理だろな〜?」

モーゼは馬鹿馬鹿しい、といった表情を浮かべ、叫びました。

モーゼ「お安い御用だ、そらっ!」

モーゼは、そら豆に化けました。

そうするとルシロは、それを一口で、飲み込んでしまったのです。

マイワと、その手下達から、一斉に拍手が沸き起こりました。

マイワ「さすがです、先生!」

ルシロ「フッフッフッ。義の名の下に、悪を罰するのは、何と気分の良いことなのじゃ!ほれ、もっと、余を褒め称えなさい!ほれ、もっと、もっと!うん?何だ、体が…、あべし!」

突然、ルシロの体が裂け、破裂してしまいました。

そしてそこには、全身朱に染まり、臓物を肩に下げたモーゼが、すごい形相で、立っていました。

モーゼ「お前達は、とんだバカ者だ!そら豆を飲み込んだって、いつでも私は、元の姿に戻れるではないか!?」

マイワは、また失禁しながら、金切り声を上げました。

マイワ「ほらお前達!そこを早く、おどき!先ず、わたしが逃げるんだから。お前達は、ここを食い止めなさい…。うわ〜!」

マイワ達は、一斉に階段を駆け下りようとしたので、皆団子になって、転げ落ちてしまったのです。

モーゼは、肩から臓物を、引き摺り下ろしながら、言いました。

モーゼ「何という、愚かな人間たちだろう…。ああいう人間が、一人でも地上に残っている以上は、私の、いや…、キリスト様の戦いは、終わりはしないのだ。」

その時モーゼは、ある事に気が付きました。

モーゼ「何だ!この異様な、臭いは?」

モーゼのいる部屋全体が、異臭に包まれていたのです。

モーゼ「そうか、マイワめ!有毒な煙を炊いて、私とこのカインを、いぶり殺そうと言うのだな!何という卑怯な企み…。うう、それにしても、ひどい臭いだ!」

モーゼはたまらず、部屋中の窓を開けました。

そして、慎重に一階に降りていき、辺りの様子を伺いました。

しかし怪しい物は、何も見つからなかったのです。

モーゼは、部屋に戻りました。

しかし異臭は、収まっていません。

モーゼが、よくよく観察すると、そこには…。

モーゼ「カイン、お前か…。」

カインは、気持ちよさそうに横たわり、そのお尻には、たっぷりとした寝グソが、山となっていたのです。

モーゼは、カインを風呂場まで連れて行き、全身を隅々まで、洗いました。

モーゼは、呟きました。

モーゼ「全く、悪党どもを懲らしめるより、この子の世話を焼く方が、余程大変だ…。あんな大量の便を、どうしたらいいだろう?神に祈れば、いいんだろうか?神よ、この大量の便を、お始末下さいと…。ダメだ!私はそんな事、神に祈ることはできん。でも、どうしよう…?主人に、正直に話して、相談に乗ってもらうより、しかたあるまい…。」

モーゼの目に、涙が光りました。