お掃除おばさん 1

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マグダレーナは、本当はマグダラのマリアという名前でした。

でも皆んな、マグダレーナと呼んでいたので、本人も本当の名前を、忘れてしまう時が、ありました。

マグダレーナは、天国のお掃除の仕事を、任されていました。

彼女は、痩せていてひょろ長く女性でしたが、いつもピリピリしていました。

ミイヤとサリムという、二人の部下に対しては勿論でしたが、イエス・キリストを除いては、誰彼構わず、叱り飛ばしていました。

マグダレーナ「ちょっと、エリヤ様!また机の上が、煙草の灰だらけ、じゃないですか。大事な書類だって、あるっていうのに、そんな事じゃ困ります!」

モーゼに対しても、同じです。

「モーゼさん、モーゼさんったら!また、服を着替えないで、寝てしまったんですの?忙しいのはわかりますけどね、そんなだらしのない事じゃ、誰もついてきませんよ。人を束ねる仕事だっていうのに、全くもう…。

そんなマグダレーナを、ペトロはいつも、諭そうとしていました。

ペトロ「マグダレーナさん。そんなに、ピリピリするもんじゃないよ。もっと大らかに…。いやこれは、私の意見じゃない。キリスト様が、そう仰ってたんだ。だからそのつもりで、聞いて欲しいんだ…。」

マグダレーナは、激昂しました。

マグダレーナ「誰の意見だろうが、語っているのは、あなたの口じゃありませんか!男らしくもない。自分の腹に、溜まっている思いを、誰かの所為にするなんて!」

ペトロは、気まずくなって、コソコソ逃げて行きました。

福音史家ヨハネも、同じでした。

ヨハネは、天国の中庭で、ミイヤを口説いていました。

ヨハネ「ねえ、可愛い君…。君を抱き寄せて、キスしてもいいかな?」

ミイヤ「いやだ、ヨハネったら…。」

そこにマグダレーナが、鬼の形相で、立っていました。

マグタレーナ「ミイヤ…。あなたは、何をしてるのかしら?後で…、わかっているわね?」

ミイヤは、見ていられないほど、怯えていました。

ミイヤ「はい…、マグタレーナ様。」

ミイヤは、小走りに去って行きました。

マグダレーナ「ヨハネ…。あなたも、あなたです。私の部下を、淫らに誘って!大体あなたは、何なのですか!?いつもいつも、寝そべって。やれ、花の香りを嗅いでいる。やれ、果物を味わっている。少しも、働きやしない。弁明して、御覧なさい!」

ヨハネは、眠そうに目をこすりながら、言いました。

ヨハネ「おばさん。ぼくは、詩人なんだ。詩人はね、神様から頂く、ありがたい霊感で、詩を書くのさ。だからね、こうしてそれを待つのも、仕事なんだよ…。」

ヨハネは、大きなあくびを、しました。

それが、マグダレーナの怒りに、火を点けました。

マグダレーナ「この、怠け者め。その根性、叩き直してやる!」

マグダレーナが、ほうきを振り上げると、ヨハネはブツブツ言いながら、どこかに去って行きました。


ある日、ペトロとヨハネは、ばったり廊下で、出くわしました。

二人は、様々なことについて雑談している内、マグダレーナの事も、話題に上りました。

ペトロ「しかし、あの人ときたら…。いや確かに、仕事ぶりは素晴らしいよ。この廊下だって、チリ一つ落ちてない。でも、性格がな。何とか、ならんものかなあ…。」

ヨハネも、同調しました。

ヨハネ「ホント、その通りですよ。人間、仕事ができるだけじゃ、困るんです。やっぱり、皆んなと上手くやれる、協調性がないとね。」

ペトロ「本当に、そうだ。とはいえ、言っても聞かんし…。」

ヨハネは、いたずらを思い付いた、子供の様に、笑って言いました。

ヨハネ「ペトロさん!ぼく、いい事思いつきましたよ。あなたはね、決してイケメンとは、言えない。でも、渋くって、重厚な風格がある…。ところで、ぼくはどう見えます?」

ペトロは、よくわからないままに、答えました。

ペトロ「そりゃあ君は、どっからどう見ても、ハンサムそのものだ。ただ立ってるだけでも、女性はほっとくまい?」

ヨハネは、笑いが堪えきれずに、ニヤニヤしながら、言いました。

ヨハネ「でしょう?そんな事、自分でわかってます。だからね、ぼくら二人で、あのマグダレーナを口説くんです。勿論、振りだけですよ?それで、あのおばさんが夢中になったら、種明かしをする。どうです?胸がスッする、思いつきじゃないですか?」

ペトロは、面白そうだとは思いましたが、自信はありませんでした。

ペトロ「そりゃあ、面白そうな思いつきだか…。私に、出来るだろうか?そもそも女性なんて、口説いたことがないし…。」

ヨハネは、もうノリノリで言いました。

ヨハネ「それが、いいんですよ!流暢に、ペラペラとお喋りされるより、朴訥にね、ボソボソっと思いやりのある言葉をかけられる方が、女ってのは、信じたくなるんです。…じゃあ、決まりですよ!ぼく、早速口説いて来ようっと。」

ヨハネは、駆け出して行きました。

ペトロ「おい、ヨハネ!待てったら…。」

ペトロは、困った顔はしていましたが、内心はワクワクしていました。