読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

麗しの聖母 前編

f:id:ootmarsum:20141220234215j:plain

マリアは、夢をみていました。

マリアは、何も見えず、何も聞こえない空間に、一人座っていました。
一人でいる内に、段々不安になってきて、声をあげました。
マリア「ヨセフ!イエス!あなた達、どこなの!」
すると目の前に、奇妙な姿の老人が、立っていました。
老人「お前さんは、聖母マリアだね?」
マリアは、老人を一目見るなり、目を背けたくなりました。
老人は、片目は潰れていて、肌は出来物だらけ。
背中は、ぐにゃりと不健康に、曲がっていました。
それでも、マリアは答えました。
マリア「そうです。私はヨセフの妻、マリア。」
老人は、持っていた杖を、カツカツ鳴らしながら、言いました。
老人「そして同時に、救世主であるイエスの母でもある。」
マリアはこの老人に、息子の名前を語られたくありませんでした。
マリアが黙っていると、老人は再び、口を開きました。
老人「マリアよ…、お前は神に、何を求めているのだ?」
マリアは、ためらいがちに言いました。
マリア「救いを…、私の犯した、大きな罪からの、救いを求めています…。」
老人は、問い詰めるように、聞きました。
老人「お前の犯した罪とは、一体何かね?」
マリアは、悔恨を滲ませながら、答えました。
マリア「私は…、私の犯した罪のせいで、人は、古い楽園を失ったのです。」
老人は、ゆっくりとした口調で、マリアに告げました。
老人「聖母マリアよ…。お前は救われない。お前は、聖母だから!救い主イエスの、母であるからだ!」
マリアは、目を覚ましました。
 
マリアは、夫であるヨセフと、仲良く暮らしていました。
ヨセフは、地上では大工だったのですが、今は家具職人をしています。
自分の工房を持っていて、注文があれば、おもちゃからタンスまで、何でも作りました。
マリアは、ヨセフが働いている間、近所の子供達を預かって、面倒を見ていました。
最近は天国でも、共働きの夫婦が、増えているのです。
今預かっているのは、ヘンク、ロル、ヨカベリの三人で、皆男の子でした。
 
朝、ヘンクのお母さんが、マリアにヘンクを預けに来ました。
母「マリア様、今日もよろしくお願い致します。ほら、ヘンク!こっちへ、来なさい。」
ヘンクは呼ばれると、マリアに向かって、何かを投げつけました。
ヘンク「ほら、これでも喰らえ!」
それは、カエルのおもちゃでした。
マリア「まあ、こわい!」
マリアは、片手でおもちゃを受け止めると、優しくヘンクに返しました。
母「あんた、何やってるの!すいません、マリア様…。私の育て方が悪いのか、言うことを聞かなくて。」.
マリアは、にっこり笑って言いました。
マリア「あら、いいじゃありませんか。男の子は、元気が一番!ねえ、ヘンク?」
ヘンクはマリアに、アカンベーをしました。
母「キリスト様も、子供の頃はわんぱくだったんですか?」
マリアは、不思議な調子で、答えました。
マリア「あの子は、生まれてから今まで、一度も私の言う事を、聞いた事なんてないわ。でも、後から思うと、全てあの子の方が、正しかったの…。自分がお腹を痛めて産んだ子が、救い主だなんて、どうなのかしら。ね?」
母親は、おそれかしこまって、言いました。
母「そうですよね…、マリア様のご苦労を思えば、私なんて…、失礼でした。」
マリアは、カラッと笑って、言いました。
マリア「いいのよ、気にしないで。それよりも、そのマリア様って、どうなのかしら?確かにイエスは、救い主だけど、私は人間よ?皆と何も、変わらないわ。」
母親は、びっくりしました。
母「何を言ってるんですか!マリア様には、私達普通の人間は、生まれた時から持っている、原罪がないんです!同じだなんて、とんでもない。」
マリアは少し困りながら、言いました。
マリア「そろそろ、行かなくて大丈夫?」
母「そうでした。では、そろそろ失礼致します。ヘンク、いい子にしてるのよ!」
ヘンクは、叫びました。
ヘンク「この、ウンコばばあ!」
マリアは、笑顔で言いました。
マリア「ヘンク、神様が聞いてるわよ!」
母親は、すっかり安心した様でした。
母「では、行って参ります。」
マリア「行ってらっしゃい!」
 
マリアはそんな調子で、子供達の事を、叱ったことがありませんでした。
それなのに、いつもマリアのペースに、なってしまうのです。
それを子供達は、面白く思いませんでした。
ロル「なあ、ヘンク。ちょっと、マリアを怒らせてみるっていうのは、どうだろう?ぼくに、いいアイディアがあるんだ。」
ヘンクは、喜んで乗ってきました。
ヘンク「いいぜ、やろう、やろう!面白いだろうなあ。あのマリアが、怒り狂ったり、泣き叫んだり、するんだ。なあ、ヨカベリ!」
ヨカベリは、黙って頷きました。
ロル「じゃあ、決まりだ。早速、作戦会議を開く。決行は、明日だ…。」
こうして、子供達の悪だくみが、始まりました。