麗しの聖母 後編

その夜、マリアは夢を見ました。

マリアは、森の中を、一人でさまよっていました。
マリアは、森を出ようと、躍起になって歩きましたが、どの道もこの道も、同じ道に見えるのでした。
マリア「どの道が、正しいのだろう…?私には、辿るべき道を、見つける事ができない。」
マリアが、途方に暮れて、立ち止まると、あの老人が立っていました。
老人は、マリアに一瞥をくれると、黙って歩き出しました。
マリアは仕方なく、後からついて行きます。
やがて、森は切れ、道が開けてきました。
マリアは、老人に言いました。
マリア「あなたは、私の神様です。一度ならず、二度までも、私を救ってくださった…。」
老人は、顔を奇妙に歪めて、いいました。
老人「お前は、お前が思いたいように、思うがいい。…マリア、お前はの体は、天国にある。しかし、お前の心は、まだ古い世界にある。だからお前は、地獄で苦しむ者たちを、とても近しく感じている…。」
マリアは、言いました。
マリア「あなたの言葉は賢すぎて、私にはわかりません。」
老人は、表情を緩めて、言いました。
老人「お前は、聖書を読んだことがあるか?」
マリアは、頷きました。
マリア「勿論です。」
老人「そこで、イエスは言っておろう。預言者の力は、肉親には及ばないと…。だから、救い主の力もお前には、及ばない。わかるな?」
マリアは、目を覚ましました。
 
今日は、ピクニックです。
マリアは、三人の子供達を連れて、近所の小高い丘に、来ていました。
マリア「おチビさんたち、ここらで、お弁当をつかいましょう。今日は、クラブハウスサンドイッチよ!」
マリアが、バスケットを開けると、そこにはトーストに、ベーコンや野菜を挟んだサンドイッチが、並んでいました。
子供達は、サンドイッチを食べながら、作戦を確認しました。
ロル「いいな?作戦は、このすぐ後だ。お腹がこなれて来たら、すぐやるぞ!」
ヘンクは、楽しみで待ちきれない様子でした。
ヘンク「そうだ、慎重に進めないとな…。腹がいっぱいでは、戦は出来ぬ、だ!気を付けろ、ヨカベリ」
ヨカベリは、黙って頷きました。
 
三人は、お腹いっぱい食べました。
マリアのサンドイッチは、とても美味しかったのです。
三人は、すぐウトウトし始めましたが、強靭な意志で、誘惑に打ち勝ち、作戦を開始しました。
先ずロルが、マリアに誘いを掛けました。
ロル「ねえ、マリア様。ぼくたちと一緒に、かくれんぼをして下さい。」
マリアは、困った様に言いました。
マリア「でもあなた達、もうお昼寝の時間よ…?」
すかさずヘンクが、助け舟を出しました。
ヘンク「お昼寝なんか、いつでも出来るじゃないか!今日は、せっかくのピクニックだぜ?少しは、楽しませておくれよ。ヨカベリも、そう思うだろ?」
ヨカベリは、黙って頷きました。
マリアは、少し考えましたが、折れる事にしました。
まりあか「それもそうね。たまには、あなた達の好きにも、させてあげなきゃ。で、何かしら?かくれんぼをするの?鬼は誰かしら?」
ロルは、待ってましたとばかりに、言いました。
ロル「そりゃあ、やっぱりマリア様でないと!ぼく達は、かくれんぼの達人なんだから、大人を相手にしないと、釣り合いませんよ。」
マリアは笑いながら、言いました。
マリア「あら、大した自信です事。じゃあいいわ!私が、鬼になりましょう。」
三人は、確信しました。
作戦は、九分九厘成功したと。
何も知らないマリアは、目をつぶって、数を数え始めました。
マリア「行くわよ、おチビさんたち!い〜ち、に〜…。」
三人は、風のように走り去って、丘を下りて行きました。
マリアは、十まで数えると、目を開けて、三人を探し始めました。
マリア「さあ、どこにかくれたのかしら!しっかり隠れないと、すぐに見つけてしまうわ。」
マリアは、あちこちの茂みや、木の陰を探しましたが、三人の姿は見当たりません。
その頃三人は、マリアの家を目指して、駆けていました。
ロルは、誇らしげに言いました。
ロル「作戦は、成功だ!私は、諸君の働きを誇りに思う…。」
ヘンクも、大喜びでした。
ヘンク「これで、先にマリアの家に、帰っていれば…。マリアが来たら、ぼくはこう言ってやるつもりさ!いやね、あなたがなかなか見つけてくれないから、先に帰ってたんですよって。どうだい、ヨカベリ?」
ヨカベリは、黙って頷きました。
一方、マリアはどうもおかしい事に、気付いていました。
マリア「変ねぇ…。こんなに探しても、見つからないってこと、あるのかしら?」
とうとう、マリアは全ての物陰を、探し尽くしてしまいました。
その時マリアは、ピンと来ました。
マリア「あの子達、私をはめたわね!」
マリアは、バスケットを引っさげて、慌てて家に戻りました。
三人は、三人で、何かがおかしいと、思い始めていました。
どうも、周りの風景に、見覚えがないのです。
ロルは、不安になってきました。
ロル「おかしいな…?この道で、あってるはずなのに。」
ヘンクは、驚きました。
ヘンク「何言ってるんだ、ロル。お前、道はしっかり覚えてるって、言ったじゃないか!ヨカベリ、そうだよな?」
ヨカベリは、黙って頷きました。
その頃、マリアはもう家に戻っていました。
しかし当然ですが、子供達の姿はありません。
マリアもまた、不安になりました。
マリア「あの子達、どこに行ったのかしら?もしかしたら、自分たちの家に、帰ったのかも…?」
マリアは、子供達それぞれの家を、尋ねてみる事に、しました。
一方子供達は、完全に迷子になっていました。
どの道を言っても、知らない道だし、どの顔も、見たことのない顔です。
ロルは正直に、過ちを認めました。
ロル「ダメだ…。ぼくは、ここがどこだか、わからない。ぼくらは、迷子になったんだ!」
ヘンクは、愕然としました。
ヘンク「話が違うじゃないか!何てこった…。元はと言えば、ロル。お前が余計な事を、言い出すから、こうなったんだぞ!何とか言ってやれ、ヨカベリ。」
しかしヨカベリは、不安になって、ぐずり始めました。
それが伝染したのか、ヘンクもべそをかき、やがてロルも泣き始めました。
三人の子供達は、知らない街を、泣きながら歩いて行きました。
マリアは、三人の家を残らず回りました。
それでも、子供達には会えません。
マリアは、憔悴し始めました。
マリア「どうしよう、私のせいだ。私が、目を離したばかりに、こんな事になってしまった!今頃どこかで、迷子になっているんだろうか?一体どうすれば…。」
マリアの頭に、イエス・キリストの顔が、思い浮かびました。
マリア「そうだ!あの子なら、きっと見つけ出せるに、違いない。あの子の所に、行ってみよう!」
子供達は、あてどもなく歩き続けていました。
ここは天国だと言うのに、可哀想な子供達に、声をかける大人は、誰もいません。
その時ヨカベリが、口を開いたのです。
ヨカベリ「キリスト様、キリスト様、ぼく達を、いやぼくだけでいい。助けて下さい。」
ヘンクとロルも、声を揃えて、祈り始めました。
三人「キリスト様、どうかぼくを助けて下さい!」
三人の合唱は、街中に響き渡るほど、大きなものでした。
三人の祈りは、それほど切実だったのです。
その時、一人のタバコをふかした大人が、三人に声を掛けました。
大人「誰だ、誰だ!街の真ん中で、大きな声で、人の名前を呼ぶのは?」
それは、果たしてイエス・キリストでした。
キリスト「子供達、何故私の名前を、呼ぶのか、訳をきかせてもらえるかな?ほらほら、泣いてちゃわからんよ…。」
マリアは、キリストの住まう、中央神殿に、来ていました。
そこで、門番をしている男に、事情を話しましたが、全く取り合ってもらえません。
門番「あなたが、マリア様だというとこは、よくわかっています。しかし、キリスト様は、ご多忙なのです。そんな迷子の捜索程度で、お呼びすることは出来ませんよ。」
マリアは食い下がりました。
マリア「でも、私の預かっている、大切な子供達なんです!あの子達が、迷子になったなんてしったら、ご両親はどんなに心配するでしょう。」
門番は、聞く耳を持ちませんでした。
門番「ダメですよ。ご公務と迷子と、どちらが大切か、よく考えてご覧なさい。全く、マリア様ともあろうお方が…。
マリアは諦めて、神殿の階段を下って行きました。
すると向こうから、タバコをふかした男と、三人の子供達が、神殿の階段を、昇ってきました。
マリアは、タバコの香りで、すぐ誰だか気づきました。
マリア「イエス!煙草は止めなさいと、あれ程言ったのに…。ああ!その子達は…。」
それは、ヘンク、ロル、ヨカベリの三人でした。
三人は、マリアだとわかると、飛びついて泣きじゃくりました。
マリア「よかった…、あなた達、心配したのよ。でも、本当に良かった。」
キリストは、わかったような、わからないような顔で、言いました。
キリスト「うんうん、万事解決したようじゃな…。じゃあ、私はこれで、失礼するよ。何分、忙しい身でな。」
マリアは、キリストを見つめて言いました。
マリア「ありがとう、イエス。この感謝の気持ちは、言葉では言い表せない程…。」
キリストは、マリアを見ましたが、その目に何が映っているのかは、誰にもわかりませんでした。
マリアは、今までに誰も、いえ、キリストだけは別です…、見せた事の無い表情で、言いました。
それは、悲しみでも苦しみでもなく、絶対的な者を前にした、力ない人間の顔でした。
マリア「イエス…。あなたは本当に、必要な時、必要な人のところに、必要なだけ、いるのね…。」
キリストは、素っ気なく答えました。
キリスト「それが、私の仕事だからね…。それじゃ、ヨセフによろしく。」
そう言って、キリストは去って行きました。
 
マリアは、その日の夜遅く、家に帰りました。
マリア「ただいま。」
ヨセフはもう帰っていました。
ヨセフ「おかえり、遅かったね。」
マリア「今日は色々あってね。子供達のご両親に、謝っていたの…。」
ヨセフは、コーヒーをすすりながら、言いました。
ヨセフ「お風呂、沸いてるよ。夕食も、簡単なのだけど、作っておいたから。」
マリア「ありがとう、助かるわ…。先に、お風呂に入ってくる。」
ヨセフは、黙ってうんうんと、頷きました。
 
二人はテーブルを囲んで、夕食にしました。
テーブルの上には、ヨセフの作った、スパゲッティ・ペペロンチーノと、シーザーサラダが、乗っていました。
マリアはスパゲッティを、フォークでクルクル回しながら、言いました。
マリア「男の子って、本当に不思議ね…。何かしようと思う時、後先を考えないのかしら?」
ヨセフは、笑って言いました。
ヨセフ「そりゃ、そうだよ。男の子なんだから…。分別なんてものがつくのは、ずっと後のことさ。」
マリア「そんなものかもね…。もしかして、あなたもそうだったの?」
ヨセフ「そうさ、ぼくだって子供の頃は、随分お袋に、叱られたものだよ。」
それきり、会話は途絶えてしまいました。
しばらくして、マリアは口を開きました。
マリア「今日、あの子にあったわ。」
ヨセフは、事も無げに言いました。
ヨセフ「イエスにかい?どうだい、元気そうだった?」
マリアは、返事をしませんでした。
ヨセフも、あえて何かを言うようなことは、ありませんでした。
その日の、二人の会話は、それきり途絶えてしまいました。
 
その夜、マリアは夢を見ました。
マリアは、険しい山の頂から、夜空に輝く星に向かって、手を伸ばしていました。
目で見ると、すぐそこにある星も、手の届くところには、ありませんでした。
それでもマリアは、懸命に手を伸ばしました。
マリア「あれが…、あれが私の、希望なんだ。あれに手が届けば、あれを手にすることができれば、私は…。」
その時、一塊の雲が近付き、あの老人がそこから、降り立ちました。
そして、手にした杖を振りかざし、マリアの手の中に、星を一つ、落としたのです。
マリアは、言いました。
マリア「私に福音を…。喜ばしき訪れを告げたのは、あなただけです!でも、もはや私には、あなたが何者なのか、見当も付かなくなってしまった…。」
老人は、厳かに言いました。
老人「お前が、赦されざる者達の、咎に苦しむ事で、女の犯した罪は、洗い清められる…。」
マリアの胸で、希望の星は、燦々と輝いておりました。
老人「いずれ、その時がくる…。イエスが再び、世に臨む時、キリストはそなたの子ではない。その時こそ、マリア!お前は救われて、人々と共に、歩むであろう…。」
マリアは、目を覚ましました。
ヨセフは、マリアの横で、穏やかな寝息を、立てています。
マリア「あなたを、愛してる…。それに、イエスも….。みんな神様の造った私…。」
再び、マリアは眠りにつきました。
 
テーマ曲 「All Is Full Of Love」 Bjork
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(白)です。
好きな食べ物は、野田にあるやよい食堂の、やよい丼です。
勿論、並で。
大盛りは、無理です。
苦しくなって、しまいますからね。
主演のジュリエット・ビノシュが、美しくて素敵で!
いやあ、後編がグッダグダですね〜。
情けない。
それはともかく、この作品は、偉そうに言えば、「自立した女性」というものを、書こうと思ってました。
現在に至るまで、女性の自立というのは、確立されてない様に、思います。
モデルが、ないんですよね、共感できる。
えっ?
お前は、出来てるのかって?
ぼくはこの作品で、皆が出来ないのには、ちゃんと理由があるのだ、と思い知った訳です。
それでは、さようなら?。