ルシファーさまお受難 4

ルシファーの口に、おせち料理を全て詰め込むと、コピンは言いました。
コピン「ルシファ〜様。お弁当の後は、お昼寝のお時間で、ございますですよ〜。じゃあ、お休みなさい!」
そう言うと、コピンはあっという間に、寝入ってしまいました。
ルシファーは、膨らんだ腹を抑えながら、天神様の部屋へと、向かいました。
天神様は午後のひとときを、葉巻とエスプレッソコーヒーで、過ごしておりました。
葉巻は、パルタガスのコロナスシニアです。
ルシファー「天神よ、入るぞ…。」
天神様は、大量の煙を吐き出しながら、言いました。
天神様「これは、失礼…。しかし、申し訳ないが午後のこの時間、こいつをやるのは長年の習慣なのだ。許して頂きたい。貴君も、一本どうですかな?」
ルシファーは手で制し、懐から愛煙している、アメスピのオーガニックを巻いたものを取り出し、火を点けました。
ルシファーは、強く吸い込み、煙を長く吐くと、言いました。
ルシファー「先程の続きを、聞かせてもらいたい…。」
天神様は、長くなった灰を、一度灰皿に落とし、ゆっくりと話し始めました。
天神様「そうだな、どこから話せば良いか…。先ず我々は、大きく三軍に分かれている。」
ルシファーは、先を促す様に、返事をしました。
ルシファー「ふむ…。」
天神様は、手でたぐり寄せるように、整理しながら、話を続けました。
天神様「先ず第一軍は、我々この鳳の城を拠点とする、天の者達。当然だが、私が率いる。」
ルシファー「それは、当然だ。」
天神様「我々は、翼のある者は自力で、他の者は、天翔る天の戦車に乗って、直接天国を強襲する。
ルシファー「それは、わかっている。竜王達、海の者はどうする?」
天神様「竜王の真の姿は、当然だが竜だ…。雲に乗って、空を自由に飛べる。竜王だけではない。竜族の者達は、何人かいるから、その者達が海の戦士達を背中に乗せ、出来れば…。」
天神様は、一度言葉を切り、エスプレッソコーヒーをすすると、先を続けました。
天神様「彼らには天国ではなく、あの巨大な戦艦、ノアの箱船を沈めてもらいたい。あの船は脅威だし、何より天国を滅ぼしても、あの船で逃げられてしまっては、将来に禍根を残す。」
ルシファーは、天神様の配下の者が運んで来たカプチーノを受け取り、口をつけたのち、質問をぶつけました。
ルシファー「ローマは、どうするのだ?あそこには、天国に通じる階段がある。あそこを抑えなければ、天国は制圧出来ん。」
天神様は、確信を込めて、言いました。
天神様「ローマは、坂田金時率いる、人間達に任せる。」
ルシファーは、鼻で笑いました。
ルシファー「何を馬鹿なことを!たかが人間風情に、何が出来る?あそこには、どれだけの天使がいると、思っているのだ!そいつは、半神か何かなのか?それとも、悪魔と一つになって、強大な力を得たとでも言うのか!?」
天神様は、表情を見せずに言いました。
天神様「いや、女の腹から産まれた、正真正銘の人間だ。」
ルシファーは、感情を昂らせていいました。
ルシファー「どうしたというのだ、天神よ!生身の人間が、天使を倒せると思っているのか?その地上の、全勢力をもってしても、あのコピン一人、倒せないだろう。」
天神様は、ニヤリと笑って言いました。
天神様「それが、違うのだ…。鬼ヶ島に巣食っていた、鬼どもの話はご存知か?」
ルシファーは、興味が無さそうに、返事をしました。
ルシファー「聞いている…。桃太郎とかいうはなたれ小僧に、蹴散らされた悪魔の出来損ない共よ。どうやらその後、バァル・ゼバブに泣きついたらしいしゃないか?」
天神様は、続けました。
天神様「ところがその時、鬼どもの頭、酒呑童子は鬼ヶ島にいなかった…。京都で女や子供を食い散らかしたり、金銀財宝を貴族達から、奪っていたりしたのだ。」
ルシファーは、少し食いつきました。
ルシファー「その噂も、聞いている…。どうやら、相当な力の持ち主らしいな。フフン、血が騒ぐ…。だが、人間達に討ち取られたと、聞いているぞ!酒に酔わされただけで、たった五人の人間に殺されてしまったらしいじゃないか?」
天神様は、厳かな口調で、語りました。
天神様「それは坂田金時が、主君を立てるために流した、デマに過ぎん…。実際は、金時が一人で縊り殺してしまったのだ。それも、素手で…。」
ルシファーは、目を輝かせました。
ルシファー「それは、面白い!ええい、この動かない体が、忌々しい。体さえ動けば、この美しい翼さえ広がれば…。すぐにでも、天空を駆けて行き、そいつの実力を、この身で測ってやると言うのに!」
天神様「わしの目論見が、わかっていただけたかな、ルシファー殿。その金時が、ローマを攻める…。現状で、戦力比は3:1と言ったところか。だが、向こうにはケルビムがいる。ケルビムの相手は、ルシファー殿お主でなければ…。」
ルシファーは、悔しそうに歯噛みして、言いました。
ルシファー「そこは、諸君に奮起してもらうしかない…!時期をおかずに、地獄も滅ぼさねばならん。私が、戦えるようになるまで、待つ事は出来ん…。」
天神様も、同じ意見のようでした。
天神様「その通り、ルシファー殿。この作戦は、ケルビムが討てるかどうかに、全てがかかっている。何としても討ち取り、この世界に平和を取り戻さねば、ならん!」
ルシファーの胸にも、熱い想いが去来しました。
ルシファー「その通りだ、天神よ!長く虐げられた我らの怨み、必ずや晴らしてくれよう!」
その時、天神様の配下の者が、入ってきました。
配下「天神様…、報告があります。坂田金時から連絡が入っていて…。」
天神様は、席を立ちました。
天神様「わかった、すぐに行く。ルシファー殿、細かい話はこれから詰めるとしよう。ルシファー殿も、天国や地獄に、我らに呼応する者がないか、当たってみて欲しい。今は、一人でも多くの将も兵も、欲しいのだから…。」
ルシファーも、ニヤリと笑いました。
ルシファー「勿論、やっている。数は多くないが、優れた将を何人か、紹介できるだろう…。」
ルシファーは、自分の部屋へと戻りました。