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遥かなる旅 3

皆が寝付いた後、アベルは一人外に出て、星を眺めました。

アベル「星は、あんなにも美しく、輝いている。こんなにも美しく、神々しくさえある存在が、邪悪な力で、ぼく達を脅かすなんて、ぼくにはとても考えられない。」
アベルは草の上に、座りました。
アベル「ぼくらの叡智は、あそこからやって来る。星々の頂から手を伸ばせば、あの輝ける星にも、手が届くというが…。」
冷たい風が、アベルの周りを、吹き抜けていきました。
アベル「ぼくの心も、この風のように、涼しく穏やかであればよい…。何故、こんなにも心が、騒ぐのだろう?答えは、決まりきっている…。」
アベルは、膝を抱えました。
アベル「ぼく達には、ぼく達の生活があるんだ…。命をかけることなんて、出来っこない。万一この旅で、ぼくが命を落としてしまったら、残された人々はどうなる?そんな事、できやしない…。」
カルナ「アベル、何を悩んでいるの?」
カルナがゆっくりと、アベルに近付いて来ました。
アベル「カルナ…。」
アベルは、カルナの方を、振り返りました。
カルナは、アベルと並んで、座りました。
カルナ「アベル、さっきはあんな事言って、ごめんなさい…。」
アベルは何の事か、よくわかりませんでした。
アベル「あんな事って…?」
カルナは、目を伏せながら、言いました。
カルナ「ほら、私達の幸せが、取り上げられてしまうって…。アベルの気持ちを考えれば、あんな事、言うべきじゃなかった。」
アベルは、笑って言いました。
アベル「ぼくも、その通りだと、思うよ。ぼくに、そんな困難な旅が、成し遂げられるとは、思えないし…。」
カルナは、アベルの方に向き直り、激しく言いました。
カルナ「ウソよ!アベル、正直に言って。本当はエリヤ様と、行きたいんでしょ!何で、そんな事言うのよ。」
アベルは、うつむきながら言いました。
アベル「そりゃあ、そういう気持ちもあるよ…。でも、ぼくがいなくなったら、羊達はどうする?君たちの生活は?それを考えたら、簡単には出かけられないよ…。」
カルナは、首を振りながら、言いました。
カルナ「そんなの、パーン様と私が、協力すれば、何とでもなる事だわ!パーン様はまだ、体も心も衰えてはいないし、家の事やカインの事は、私が面倒を見れば、いいんだから。」
アベルは、暗い顔つきで、言いました。
アベル「でも、ぼくが死んだら、君はどうする?それでも、幸福でいられるの…?」
カルナ「アベルのバカ!」
カルナは、アベルの頬を打ちました。
カルナ「どうして、勇気を持って、自分の思いを成し遂げようと、しないのよ!男だったら、新しい世界を夢見るものでしょ。そこに、新しい世界に、私を連れて行ってよ!」
アベルは愕然としましたが、真実にもまた、気づいていました。
アベル「そうだ…、本当にそうだ。カルナ、ありがとう。君のお陰で、ぼくは目が覚めたよ。ぼくは、怖かったんだ。この旅から戻ってきたら、きっと全てが違ってしまう。今までの生活には、きっと戻れない…。そんな予感がするんだ。でも、それだってぼくなんだ。そうだぼくは、新しいぼくを、見つけにいく。それが、君の、父さんたちの、幸福に繋がっていくと、信じて…。」
カルナは、首から下げていた、狼の牙のネックレスを、アベルに差し出しました。
カルナ「これは、私の両親の形見なの…。これを、持って行って。」
アベルは、驚きました。
アベル「そんな大事なもの、受け取れないよ。」
カルナは、穏やかに微笑みながら、言いました。
カルナ「いいのよ、あなたにはきっと、必要になるから…。狼の牙にはね、邪な力を退ける、という言い伝えがあるの。私がしてあげられることは、このぐらい…。」
アベルは、静かに受け取りました。
アベル「ありがとう。肌身離さず、持っているよ…。」
カルナは、元気に言いました。
カルナ「それじゃあアベル、元気でね!そして、また私を、元気にしに戻っ来て!約束よ。」
 
翌朝、約束通りアベルは、エリヤの部屋を訪れました。
エリヤは、窓を開けてそのすぐそばで、煙草を吹かしていました。
エリヤ「アベル…。どうする。お前さん、わしについてきてくれるか?」
アベルは、キッパリと断言しました。
アベル「はい、エリヤ様!例えこの身が朽ち果てたとしても、どこまでもお供させて頂きます!」
エリヤは、煙を吐き出しながら、言いました。
エリヤ「昨日の晩に、何があったか知らんが、大袈裟な奴じゃのう…。」
それでもエリヤは、嬉しそうでした。