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遥かなる旅 15

エリヤとゴドの二人は、地の果てまで連れてこられて、そこで解放されました。
ガヌフ船長は、勝ち誇った様に、言いました。
ガヌフ「地の果てに留まる者は、自らの欲望に狂い、命を落とすという。精々、苦しめ。そうでなければ、連れてきた甲斐がないからな。」
ガヌフ船長達は、笑いながら引き上げていきました。
二人は先ず、何か食べる物を探して、歩き始めました。
しかし、どこまで行ってもあるのは、朱に染まった岩と土塊だけで、食べ物どころか、生き物の姿さえ、ありませんでした。
エリヤは、呆然としました。
エリヤ「ゴド、どうしようか…。ここには、何もない。このままじゃ俺たちは、野垂れ死だ。」
するとゴドが、突然妙な事を、口走りました。
ゴド「お〜い、彼女!君、綺麗だね。こっちへ、おいでよ。一緒に行こう。ほら、早く!」
エリヤは、びっくりしました。
エリヤ「おい、ゴド!一体何を、言ってるんだ?誰も、いないじゃないか。」
ゴドは、何かに魅入られた様に、走り出しました。
ゴド「つれないないなあ。そっちに行っちゃ、ダメだって!こっちだよ、こっち。さては、俺を誘ってるんだな?」
エリヤは慌てて、後を追いました。
エリヤ「待て、ゴド!それは、この地が見せる、幻だ。落ち着け!冷静になれ!」
ゴドは、突然地面に、倒れこみました。
ゴド「ほら、捕まえた!悪い子だ。俺をこんなに、興奮させて。よしよし、わかった、今気持ち良くして、やるからな!」
エリヤは、後ろからゴドに、組み付きました。
エリヤ「ゴド、正気を取り戻してくれ!しっかりしろ!」
ゴドは暴れましたが、エリヤはしっかりと抑えつけました。
ゴド「わあ、何だお前は!さてはこの女の、男だな。ちくしょう、お前のいいようにはさせないぞ」
ゴドが、さらに激しく暴れたので、エリヤはやむなく急所を打って、気絶させました。
エリヤは、ゴドを横にして、自分はその隣に座って、考えました。
エリヤ「地の果てでは、人は自らの欲望を、目の当たりにするという…。しかし、俺には何も見えてこない。何故だ?」
しかし、エリヤの思考は、すぐに殺されたマイヨルの事に、移っていました。
マイヨルの、ミルクを飲んでいる姿や、泣き顔、また笑っている顔が、目に浮かびました。
しばらくすると、エリヤの気分も、昂り始めました。
エリヤは、ついに来たな、と思いました。
エリヤの目に、灰色のモヤモヤした塊が現れ、次々と形を変えていきました。
灰色のモヤモヤは、エリヤが今まで愛した女達の姿になったり、ゴドの姿になったり、懐かしい母親の姿になったりしました。
エリヤ「ふん、幻の奴め!迷っていやがる。俺の心も、それだけ迷っているということか…。」
モヤモヤは、しばらくマイヨルの姿をとっていたか、と思うと、突然大きく広がり、一人の男の姿になりました。
男は細身で、長髪に髭を生やしていました。
しかしエリヤは、その男の姿に、見覚えがありません。
エリヤ「こいつは、一体誰だ?これが、俺の心に起こっている、欲望だっていうのか…?」
すると男は、口を開きました。
男「私は、キリスト。イエス・キリストだ。汝の魂は、救いを求めている…。そうだな?」
エリヤは、鼻で笑いました。
エリヤ「ふん、幻のくせに、偉そうな事を!俺が、救われたいだと?それならこの地から、俺たちを運び出してくれ。人間の住む土地に、連れて行ってくれよ!」
キリストは、表情を変えずに、言いました。
キリスト「汝の魂は、死んだマイヨルと共にある。感謝しなさい。あの子は、自らの命を犠牲にして、汝の魂を清めたのだ…。」
エリヤは、激しく動揺しました。
エリヤは、何も言えませんでした。
キリストは、続けました。
キリスト「ここより、遥か東の地に、ローマという街がある。そこに、汝の苦しむ魂に、救いをもたらす、神に仕える女性がいる…。その者を、求めなさい。心から求めるものは、何でも神様から、頂ける。お前にとって、マイヨルとの出会いも、そうだったのだ…。」
エリヤは、叫びました。
エリヤ「俺はな、女や子供の憐れみを乞うほど、落ちぶれてはいない!」
キリストは、告げました。
キリスト「今より三日後、この地に一塊の雲が下りてくる。それに乗って、再び人の生きる地を、踏みなさい。しかし、それまでは、苦しまなければならない。それが、汝の悔いを軽くしてくれるのだから…。」
そう言うと、キリストの幻は消えました。
その時、ゴドも目を覚ましました。
ゴド「ああ、良く寝た…。エリヤ、俺は今、訳の分からん夢を見た。」
エリヤは、返事をしませんでした。
ゴド「何だかな、イエスだかノーだかってオッさんが現れてだな、こう言うんだ…。ゴドよ、お前は人に使われている、器の人間ではない。お前は、多くの人を従える、そういう生き方をしなさい。お前は、お前の船を持って、人々の暮らしを支えなさいってな。妙に説得力が、あったよ。」
そうして二人は、それから三日後に雲に乗って、スペインの西端に降り立ち、それぞれの人生を、歩み始めたのでした。

エリヤとゴド船長は、黄昏の聖母号にいました。
そろそろ東の空が、明るくなってきました。
エリヤ「懐かしい話じゃな…。もうずっと、昔の事じゃからのう。」
すると突然、アベルが目を覚ましました。
アベル「うわあ、ここはどこだ!?ああ…、エリヤ様。ぼくはどこで、何をしているんでしたっけ?」
エリヤは、微笑んで言いました。
エリヤ「アベル、お前さんには、ちっと災難じゃったのう…。」
ゴド船長もまた、微笑みました。
ゴド「さて。俺も少しだけ寝て、それからまた仕事に掛かるか…。なあ、エリヤ。」
エリヤは、聞き返しました。
エリヤ「なんじゃ?」
ゴド「天国で、イエス殿によろしく。それと天国にも、船はあるか?」
エリヤは、髭を捻くりながら、答えました。
エリヤ「あるとも…。ノアの箱船という、でかいやつがな。」
ゴド船長は、自信たっぷりに言いました。
ゴド「それなら俺は、死んで天国にいったら、その船を貰い受けるとしよう…。なあに、任せておけよ。俺より船を、うまく操れる奴なんて、世界中にいやしないからな!」
アベルは、何の話か分からず、キョトンとしておりましたが、エリヤとゴド船長は、顔を見合わせて大笑いしました。