読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

遥かなる旅 17

カルナの幻は、自ら口を聞きました。
幻「アベル、冒険の旅、がんばって!私もがんばってる。毎日大変なの…。家事をこなしたり、カインの面倒を見たり。」
アベルは、ウンウンと頷きました。
アベル「そうだろう、カルナ…。生きるって事は、生易しい事じゃないんだ。厳しくて、辛いことばっかりだ。でも、めげちゃいけない。立ち向かうんだ!人生は、自分で切り開いていかなくちゃ、そうでなけりゃ、ダメになってしまう…。」
エリヤ「…。」
エリヤは、事の成り行きを、見守る事にしました。
幻「そうだわ、あなたの言う通りね、アベル!あなたって、やっぱり素敵だわ。ね、私ががんばってるって、一番わかってくれてるのは、あなただって、私は知ってるの…。」
アベルは、ご満悦でした。
アベル「そりゃあ、そうさ!ぼくは、いつも君の事を、応援してる。だって、ぼくが仕事に精を出せるのは、君が支えてくれてるからなんだ。ぼくは、その事をいつも感じてるんだよ。だから、ぼくは感謝の気持ちを、忘れた事はない。」
カルナの幻は、感激した様に、態度を繕いました。
幻「嬉しいわ!私の気持ち、わかってくれるのね。私だって、傷付いたり悲しい事だって、沢山あるの…。でも、私負けない!あなたと二人だったら、どんな苦しいことだって、乗り越えていけるって、信じてる…。」
エリヤは、少しイライラしてきました。
アベルは高揚して、絶叫しました。
アベル「そうだよ、カルナ!ぼく達は愛し合ってる…。ぼく達の絆は、永遠なんだ。だから、いいだろう?いや、わかってるよ…。ぼく達は、まだ大人じゃない。でも、年齢なんて関係ないんだ!愛さえあれば、何をしたって構いやしない…。」
カルナの幻は、しなをつくって言いました。
カルナ「アベル…。私、その言葉をずっと待ってた。あなたが、欲望にまみれた、そんな薄汚い人間だなんて、思わないわ!そう、これは愛なの…。真実の愛は、神聖なものよ。」
エリヤは、アベルの横っ面を、思い切り引っ叩きました。
アベルは勢いに押されて、尻餅を突きました。
アベル「あっ、エリヤ様!一体、どうしたって言うんですか、急に…。」
エリヤは、しみじみと言いました。
エリヤ「アベル、お前さん、もうちょっとカルナの気持ちを、考えてやりなさい…。カルナには、辛い過去がある。それを、受け止めてやれるのは、お前さんしかいないんじゃよ…。しっかりせい、アベル!」
アベルは、ハッとしました。
そしてとっさに、首から下げていた狼の牙を、両手で強く握りしめていました。
アベル「カルナ、ぼくを守ってくれ…。ぼく自身の、邪な思いを退けてくれ!」
幻は、パーンやキリスト、それにカイン達に姿を変えた後、消え去りました。
エリヤは、表情を緩めて、言いました。
エリヤ「そうじゃ、それでいいんじゃ…。」

二人は、再び歩き出しました。
アベルは、うつむいたまま、黙っていましたが、やがて口を開きました。
アベル「全ては、ぼくの未熟さが原因です…。エリヤ様、ぼくを罰して下さい。お願いします!」
エリヤは、涼しい顔で答えました。
エリヤ「そんな事、いわれてものう…。別に、いいんじゃないじゃろうか?何か失われたものが、ある訳じゃなし。誰も、何も損しておらんのじゃから。」
アベルは、頑なに要求しました、
アベル「そんな…!それじゃ、ぼくの気が済まないんです。ぼくは、欲望に狂って醜態をさらした…。それだけでも、罰に値すると、思いませんか?」
エリヤは、気にしていないようでした。
エリヤ「アベル…。人の心には、色々なことが起こっておるのじゃ。それをいちいち咎めたり、罰したりしておっては、誰しもが、あんまり不自由になってしまう。いいんじゃよ、そんな事は。ましてや、お前さんはまだまだ若い…。色んな有耶無耶が、心に湧き起こって当然じゃよ。」
アベルは、食い下がりました。
アベル「でも…。」
エリヤは、ピシャリと言いました。
エリヤ「くどいぞ!アベル、若い頃は恥をかきなさい…。そして、人には決して、恥をかかせないようにしなさい。若い頃は、それだけでいい。それだけで、人の心は大きく育つもんじゃ…。」
アベルは、エリヤを真っ直ぐ見詰めて、言いました。
アベル「エリヤ様も若い頃は、恥をかいたんですか?」
エリヤは、髭を捻くって言いました。
エリヤ「わしはな、若い頃、何の事件も起こさず、誰とも揉めなかったんじゃ…。だから、こんなに小さな人間になってしもうた。」
アベル「…。」
アベルは、少しも納得できないようでした。
エリヤ「アベル、わしの失敗に学ぶんじゃよ…。沢山恥をかいて、大きな人間になりなさい。わかったな?」
アベルは、何もわからないまま、漠然と頷きました。