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遥かなる旅 20

エリヤとアベルは、やっとの思いで、星々の頂に辿り着きました。
そこは、青白い光が平たく、広場のようになっていました。
アベル「遂に、山頂かあ…。うわあ、ここから見える星は、本当にすごいな!」
二人の頭上では、星々がギラギラと、本当に音を立てているように、輝いていました。
エリヤ「わしも、こんなにすごい風景は、見た事がないのう…。本当に、美しいわい。」
頭上とは言っても、星々は、二人のすぐ目の前で輝いていました。
手を伸ばせば、星を掴んで、引き寄せられそうです。
エリヤ「アベル、月明かりのカンテラを、消してみてくれんか?」
アベルはエリヤの方を、振り返りました。
アベル「えっ?消して、どうするんですか。何も、見えなくなってしまいますよ。」
エリヤは、微笑みました。
エリヤ「大丈夫じゃよ。もう、それは必要ない…。」
アベルは、火を消しました。
辺りは暗闇に包まれましたが、頭上の星々は瞬いていました。
アベル「あっ!ぼくにも、星が見えます。ハッキリと、見える!」
エリヤは、星々の方へ向き直り、ゆっくりと語りかけました。
エリヤ「夜空に輝く、美しい星々よ!私の名は、エリヤ。天国から派遣されて、遥々この地まで来た。故あって、そなた達に尋ねたい。私の質問に、答えてくれ!」
星々の内の一つの星から、薄い青、いや水色に近い光線が射してきて、エリヤの額に照らしました。
星「私の名は、アリウォル・ドゥガ。私でよければ、汝の質問に答えよう、」
エリヤは、一呼吸おいて、尋ねました。
エリヤ「そなたの好意に、感謝する!では、単刀直入に尋ねたい。ギリシャの神々にもたらされた、星の雫とは一体何か?答えてくれ!」
アリウォルは、答えました。
アリウォル「それは、古き大地を濡らす、我らの涙。」
エリヤは、尋ねました。
エリヤ「天空の星々に、悲しみというものがあるのか?では一体、何に涙を流すのか。星が星を思いやって、涙を流すのか?」
アリウォルは、答えました。
アリウォル「それは、違う。我ら星々の間には、関係というものは、ない。我らは、何かを伝え合うと言うことはなく、何の連絡もしない。我らは、完全に独立している。我らが涙を流すのは、古き大地のため…。そして、人間の為だ。」
エリヤは、尋ねました。
エリヤ「何故、天空にある星々が、関わりを持たない、人間や大地の為に涙を流すのか?それは、憐憫か。それとも同情か。なんの為だ?」
アリウォルは、答えました。
アリウォル「古き大地には、人間には、苦しみが満ちている…。それは彼らが、感情からもたらされる、欲望に流されているからだ。古き大地は、仕方がない。彼等は、感情そのものだから。しかし人間は、その古き大地の想いに、侵食されて、欲望を貪る。そして、自らを苦しめている。そして人間は、大地に欲望の種を蒔く。その事に、涙を流すのだ。」
エリヤは、尋ねました。
エリヤ「人々の生きる大地は、豊かな実りはもたらしても、人々を苦しめてはいない。感情とは、欲望なのか?答えてくれ!」
アリウォルは、答えました。
アリウォル「感情は、欲望ではない…。しかし古き大地から、雲として立ち昇る豊かな感情が、人間の私と混ざり合った時、それは欲望と化す。繰り返すが、感情は欲望ではない。それと混じり合った、人間の心から欲望はわいてくるのだ。」
エリヤは、尋ねました。
エリヤ「そなたは人間の私からから、欲望はわくと言う…。しかし、天空の星々も、古き大地も、主の造りたもうた物。それであれば、やはり同じ様に、私というものを、持っているのではないか?」
アリウォルは、答えました。
アリウォル「それは、違う…。我ら星々にも、古き大地にも、私というものはない。我らには理性しかなく、古き大地には感情しかない。我らは、大地は、人の心にそれらをもたらす。それらがなければ人間は、何も考えられず、何も感じないであろう…。」
エリヤは、一度問うのをやめました。
呼吸を整え、大きく息を吸い込みました。
アベルは、エリヤに駆け寄って、腰から下げていた皮袋を、エリヤに握らせました。
アベル「エリヤ様、ワインです…。これで、一息入れて下さい。」
エリヤは、ニコッと笑いました。
エリヤ「ありがとう、アベル。星々に問うのは、本当に疲れるのう…。しかし、こんなに楽しい事は、ないわい。こんなに楽しい思いをしたのは、そうじゃのう…、何十年ぶりかのう。よし、気を張って、行くとしよう!」
アベルは、応援しました。
アベル「がんばってください、エリヤ様!」