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聖書・ルカ伝 5

その夜の事です。
コピンは空を飛んで、天国の周りを回っていました。
コピン「異常、何にもありませんです!」
コピン達天使は、天国の周りを、交代でパトロールしていたのです。
ルシファーが、天国に攻め入ろうとしている、という情報を、天国でもキャッチしていたからです。
コピンはその事を知っていたけれど、キリスト達、天国の人間には、何も話してはいません。
勿論天国の、軍事に関わる情報も、ルシファーに流したりはしませんでした。
コピンは、単にルシファーと居られれば、それで良かったのです。
コピンはパトロールを終え、天国に降り立ちました。
コピン「ふう、今日も一日、無事に終わりました!何事もなく、何よりであります。」
コピンは、他の天使と交代するために、中央神殿に急ぎました。
そこで、不審な動きで、キョロキョロしているルカと、目が合ってしまったのです。
コピン「あ!あれは、天国一の変態のルカでした。コピンちゃん、疲れているのに、もう最悪〜。」
ルカはルカで、ギョッとしました。
ルカはコピンが、大の苦手でした。
コピンは、ルカの思った通りに、ならないからです。
でもルカは、逃げたと思われるのは癪だったので、気さくに(少なくとも本人は、そう思いました。)話し掛けました。
ルカ「やあ、コピン君…。今晩は、とてもいい夜だね。」
コピンは、自分達天使が、昼夜を問わずパトロールしていることを知らないのかこのバカは、と思いました。
コピン「コピンちゃんも、とってもそう思いますですよ〜。ところでルカさん、こんな時間に、一体何をしてるんです〜か?」
ルカは、コピンには自分の崇高な使命について、何も知られたくない、と思いました。
ルカ「いや何…。星を見てるんだ。とても、素敵な夜だから。」
コピンはルカ相手に、もう何も言う事を思いつきませんでした。
ルカはルカで、然るべき人間に、早く自分の原稿を読ませたかったのです。
その時コピンは、ルカが手に、原稿を持っていることに、気がつきました。
そこでなんの気なく、ヨハネの作品について、口にしました。
コピン「そういえば、ルカさん。ヨハネさんの、オオカミの宝物、読みました〜?」
ルカは、確かに神の声を聞きました。
汝、その筆を以って、人々を啓蒙せよ。
汝の叡智に触れ、眠れる人々は、そのまどろんだ目を覚ます、と。
ルカは震える手でコピンに、自分の原稿を渡しました。
ルカ「コピン君…。これを、読んでくれ給え。」
コピンは、特に何も気にせず、とっとと読んでルカを追っ払おう、と思いました。
コピン「こ、これ…。」
コピンの心に、稲妻が走りました。
そして気がつくと、原稿を破り捨て、足で踏みにじっていました。
ルカは目の前が、ぐにゃりと歪んだ気がしました。
ルカ「な、なんて事をするんだ…。これは、私が神の霊感を得て…。」
コピンは、絶叫していました。
コピン「ルカ、あなたは神を、冒涜している!」
ルカは、コピンが何を言っているのか、わかりませんでした。
自分の原稿を読んだ人は、皆んな自分を、褒めてくれる筈だったからです。
ルカ「君の言っている事は、私にはわからない…。何故、そんな…。」
コピンは、断言しました。
コピン「あなたは先ず、読者の想像力を、信じていない!」
ルカは、夢の中にいる様な心地でした。
ルカ「君は、君は…。」
コピンは、感情の赴くままに、語り続けました。
コピン「物語はね、読んだ人が色々想像してくれて、初めて完結するの!それがあなたには、少しもわかってない。決して、書いた人が一方的に、与えてるんじゃないの。書いた人と、読んだ人。その双方の、心のやり取りが、本当の物語なのよ!」
ルカは、段々息苦しくなって来ました。
ルカ「それは、君の情緒に過ぎない…。真実とは程遠い…。」
コピンの怒りは、収まりません。
コピン「そして二つ目に、あなたは読者に、自分の考えを押し付けている!」
ルカは、ルカ自身の考えによれば、そんなつもりはありませんでした。
ルカは、全く公平(なつもり)だったのです。
ルカ「よく読んでくれ!私の主張は…。」
ルカの言葉は、コピンの怒りに、油を注ぎました。
コピン「あなたは、何もわかってない!物語はね、あなたの考えを述べる場所じゃない。そこに登場する、人物の考えを、述べるべきなのよ!あなたはイデアの世界に存在してる、ノンの話に耳を傾けた?マサクはどうなの?そんな事も出来ないなら、物語を書く資格なんてないわ!」
ルカは、膝がガクガク震えました。
ルカ「そ、それは君の主観だ…。冷静に、客観的に…。」
コピンは、もうルカに噛み付きたくなってきました。
コピン「三つ目はね、あなたの頭の中は、偏見に満ちているってこと!何この、情動に流されやすいから、スペイン人であろうって。誰がそんな事、決めたのよ。あなた、バカじゃない!スペインに行ったら、あなた殺されるでしょうね。いや、むしろ今私が、あなたをこの剣で切り刻んで、地獄に投げ込んでやりたいわ!」
コピンが、剣に手を掛けた時、ルカは泣きながら、向こうに走り去って行きました。
コピン「客観的にって言うなら、コピンちゃんの主張にを、従いなさぁ〜い!」
その時、一時の風が吹いて、ビリビリになったルカの原稿を、さらっていきました。