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帰ってきた男達 3

次の日からコノンは、港で働き始めました。
港には早速、大きな船が入って来ます。
船の中は、積荷でいっぱいです。
船が桟橋につくと、すぐにタラップが掛けられ、コノン達は走って、船に乗り込みました。
船の船長は、コノン達を怒鳴りつけました。
船長「お前達!おれの船に積んでる荷物はな、確かにお上品な品じゃないさ。しかしな、それでもこの箱一つでも、ダメにしてみろ!お前達がそれで首を括っても、間に合うってモンじゃあ、ないんだぞ。」
コノンは、ラム酒がたっぷり詰まっている、大きな木箱の前に立ちました。
それを見て、労働者の一人が、イライラした様子で、声を掛けました。
労働者「おい、お前!何をボーッと、突っ立ってるんだ?早く、屈めよ。二人で一気に、持ち上げるぞ!」
コノンは、ハッキリとした口調で、言いました。
コノン「ロープはないか?出来るだけ、長くて丈夫な奴がいい。」
労働者は、怒鳴りました。
労働者「何を言ってるんだよ、お前は!時間がないんだぞ、ゴチャゴチャ言わずに早くしろよ。」
コノンは、譲りません。
コノン「いや、ロープが必要なんだ。どうしても、用意してくれ。」
労働者は、コノンの胸ぐらを掴みました。
労働者「何だと、この野郎…!」
その時、現場監督の男が、二人の間に割って入りました。
現場監督「止めとけ、ザム!ほらコノン、ロープだ。これで、いいか?」
コノンは引っ張ってみて、強度を確かめた後、満足そうに言いました。
コノン「うん、充分だ。これで、いい。」
コノンは、ロープを木箱に巻き付けると、それをそのまま自分の背中に、括り付けました。
ザムと呼ばれた男は、それを見て嘲笑いました。
ザム「ほら、こいつはやっぱり、バカなんスよ。こんなに重い物が、一人で持ち上げられる訳がない…。」
その場にいた、力自慢の労働者達は、皆苦笑し、ザムの言う通りだと思いました。
しかしコノンは、苦笑が漏れる中、難なく木箱を背負い上げたのです。
これには、船員も労働者達も、皆目を丸くしました。
しかし、コノンはさらに皆を、驚かせたのです。
コノンは、木箱を背負ったまま、別な木箱の前で屈みました。
その場にいた全員、まさか、と思いました。
コノンは、木箱を一人で抱え、軽々と持ち上げたのです。
そして、まるで近所を散歩でもする様に、気楽な調子で船を下りて行きました。
コノンは、一人で呟きました。
コノン「まだ、もう一箱は持てそうだが、人間というのは不便だ。腕は、二本しかない。」
この光景に、誰もが度肝を抜かれました。

コノンが一人で、ゆうに三人分以上働いた為に、仕事は普段の倍以上はかどりました。
労働者達は、次の船が来るまで空いた時間に、煙草を吸いながら、ポーカー賭博に興じていました。
労働者「今日は、楽勝だな!」
別な労働者「本当だ、コノンのお陰だよ。」
コノンは、皆から外れた所で、腕を組んでじっと、海を見ていました。
そこに、先程のザムが、煙草を差し出しました。
ザム「こいつは、いいやつだぜ。おフランスのな、ゴロワーズだ。」
コノンは手を振って、断りました。
コノン「気持ちは、嬉しい。でもおれは、煙草はやらない。」
ザムは、煙草を自分の口にくわえながら、言いました。
ザム「そうなのか?つまんない奴だな…。美味いのに。」
コノンは、真面目な口調で、言いました。
コノン「煙草はな、金がかかる。それに吸うと、体のキレが悪くなって、気持ちよく働けない。」
ザムは、長く煙を吹き出しながら、言いました。
ザム「じゃ、吸わなくていいから、あっちで皆と、ポーカーやろうぜ。安心しろよ。金が無いのは、皆同じ。そんなに高い金は、賭けやしないからさ。」
コノンは、首を横に振りました。
コノン「いや、それもダメだ。おれには、勝ち負けがてんでわからない。それに何より、おれはゲームのルールを、何度聞いても忘れてしまう。皆の足手まといになって、迷惑をかけてしまうから。」
ザムは、煙草を地面に捨て、足で踏みにじりました。
ザム「ふ〜ん。お前、力はすごいけど、頭はバカなんだな…。まあ、いいや。じゃあ仕事が終わったら、皆で飲みに行こうぜ?まさか、酒は飲めるだろ。」
コノンは、ゆっくりと頷きました。
ザム「よし、じゃあ決まりだ!コノン、おれが一杯おごってやるよ。今日はお前の、歓迎会だな!」
コノンは、表情は変えませんでしたが、どことなく嬉しそうでした。
ザム「よ〜し、次の船が来たな!頼むぜ、コノン。ちゃっちゃと片ずけて、美味い酒をしこたま飲もう!」

仕事が終わり、コノンはザム達と、酒を飲みに行きました。
皆、酒を浴びる様に飲み、大騒ぎして憂さを晴らしていました。
コノンは口下手だったので、輪に加わりはしませんでしたが、幸せそうでした。
しかし一つ、残念な事がありました。
コノンは陽が沈むと、眠くなってしまうのです。
コノンは、皆といるのが好きだったので、先に一人だけ帰るような真似は、しません。
なので、コノンは静かにパブの隅っこに移動し、たったまま眠りにつきました。
コノンが、一人で寝ている事に、ザムはすぐに気が付きましたが、軽く笑って、そっとしておきました。