帰ってきた男達 8

坂田金時は、桃太郎の家を訪れていました。
金時、おじいさんと桃太郎の三人は、囲炉裏を囲んで座っています。
おじいさん「ふむ…。金時殿、お主の話はようわかった。これからの大戦への備えとして、桃太郎を副官に欲しい…。まあ、そういうことじゃな。」
金時は、頷きました。
金時「はい…。今は詳しい事は、お話しする事は出来ません。しかし、その時が来れば必ず、お話ししたいと思います。」
おじいさんも、頷きました。
おじいさん「どこから話が漏れるか、わからんからの…。壁に耳あり、障子に目ありじゃな。よくわかった。」
おじいさんは、桃太郎の方を向きました。
おじいさん「どうじゃ、桃太郎?金時殿の、お話は。後は、お前次第じゃ。」
桃太郎は、うつむいたままでした。
桃太郎「私は…。」
金時は、微笑んで言いました。
金時「すぐに、と返事を求められても、簡単に結論は出せないと思います。私はこの近くに、宿を求めましょう。桃太郎君、一週間後だよ。一週間経ったら、私は君の返事をもらいに来る…。」
おじいさんは、立ち上がって言いました。
おじいさん「いや、待ちなさい金時殿。わざわざ宿を取るような、そんな手間は取らなくて良いじゃろう…。大したもてなしは出来んが、どうじゃ?この家で、一週間を過ごされては。食べ物も、粗末な物じゃが、あるにはあるし、酒も人に飲ませるような代物ではないが、一応な。この桃太郎は、全くつまらん男なんじゃよ。飲めるには飲めるが、進んで付き合うとはせん。どうか男同士、二人で飲みながら、お主の戦での輝かしい武勇譚などを、聞かせてもらいたいものじゃ。」
金時は、軽く笑いました。
金時「私には、わざわざ人に語って聞かせるような、そんな話はありません。しかし、お言葉に甘えるとしましょう。一週間の間、よろしくお願いしたいと思います。」
おじいさんは、にっこり笑って言いました。
おじいさん「よし、決まりじゃ!おばあさん、早速酒を持って来なさい。それと、何かつまむものもな。金時殿は、この家に泊まってくれるそうじゃ!大事なお客様じゃから、失礼のないようにせんと…。」
こうして金時は、一週間を桃太郎の家で過ごす事になりました。

金時は、お風呂に浸かっていました。
勿論湯船は、大きくはありません。
それに、掃除は行き届いていましたが、所々ガタもきていました。
窓の外から、おばあさんの声がします。
おばあさん「金時さん、金時さん!お湯の加減は、いかが?」
金時は、大きな声で返事をしました。
金時「いいですよ!充分です…。」
窓の外には、綺麗な星が瞬いていました。
金時は、夢想に耽りました。
殺した敵の事。
死んでいった仲間達。
自分をの帰りを、吉報を待っている配下の者達…。
最後に熊八の事が、頭を過ぎりました。
金時「熊公め…。今頃、どうしているか?」
その時おばあさんが、裾をたくし上げて、風呂場に入ってきましたのです。
おばあさん「金時さん、お背中を流しますよ。」
金時は、驚いて断りました。
金時「そんな事をしてもらっては、困る!おばあさん、私は自分の事は、出来るだけ自分でする様に、習慣にしているのだから…。」
しかしおばあさんは、断らせませんでした。
おばあさん「金時さん、よく考えて下さい。私がね、お客様に何もして差し上げずに帰したなんて、噂が立ったら、私は表を歩けなくなります。よかれと思って、流させてくださいな。」
金時は、渋々承知しました。
金時「そうですか…。あなたが、そこまで仰るなら。」
おばあさんは金時の、筋肉の発達した、傷だらけの背中を流しながら、呟く様に言いました。
おばあさん「桃太郎には、是非あなたと共に戦に出て行ってもらいたい。そりゃあ、心配でもあるけれど、それでも…。あの子は、こんな田舎でくすぶっているような、そんな器の小さな子じゃないわ。あの子はね、鬼ヶ島の一件以来、どうしても表に出たがらない。でもね、金時さん。あなたならあの子の強さを、きっと引き出してくれる。勿論、喧嘩ごとの強さじゃないわ…。人間としての、本当の強さよ。私はそんな気が、するの。」
金時は、女性に肌に触れられるのは、そういえばお袋以来だな、とボンヤリ考えておりました。