帰ってきた男達 14

空飛ぶ牛車は、地の果てにある、悪魔達が「秘められた胎」と呼ぶ、地の裂け目の上空に来ていました。
裂け目の内側からは、地を揺るがす唸り声が、響いています。
桃太郎は、呟きました。
桃太郎「すごい声だなあ…。もうずっと、聞こえているぞ。」
浦島太郎は、あっけらかんと答えました。
浦島太郎「ルシファー様が、付けた傷が疼くから、赤き竜は吠える…。」
海鳴将軍は、頷きながら言いました。
海鳴「そうか…。赤き竜は、傷ついているのか。それならば、よもや勝てるかも知れん。」
浦島太郎は、海鳴将軍を相手にせず、話し続けました。
浦島太郎「ルシファー様の魔剣ヤハウェの古傷で、付けられた傷口は、決して癒えることはない…。赤き竜の、化け物じみた生命力でも、それは無理だ。」
金時は、暗闇に閉ざされた、裂け目の底を凝視しながら、浦島太郎に告げました。
金時「浦島殿…。もうじき、底に着くだろう。おしゃべりは、そろそら控えてもらう。」
浦島太郎は、からかう様に弾んだ調子で、言いました。
浦島太郎「金時殿、そう意地悪を言うなよ。ここからが、面白いところなんだ。」
浦島太郎は、舌舐めずりをしました。
浦島太郎「ルシファー様に付けられた傷を癒す方法は、実は一つだけある…。それは、ヤハウェの古傷の主である、ルシファー様の精を受けた娘達の、血肉を喰らう事だ。」
海鳴将軍は、快活に、喜んで言いました。
海鳴「そうか!ルシファー様の娘を生贄に差し出す、という条件をつければ、赤き竜は、我らの軍門に屈するであろう。だがしかし、娘達は皆地獄にいる…。どの様に奪取するかが、問題だ。」
浦島太郎は、ウンザリでした。
浦島太郎「いいかな?オッさん。少し、黙っててくれないか。ルシファー様の娘達なんて、とっくにバァル・ゼバブやアスモダイの、慰み者にされて、滅ぼされてしまったよ…。そして、ルシファー様の今のお体では、新たに娘達を設ける事は、ちょっと無理だ。だけどね、一人…、いや正確には一体かな?いるだろう、ちょうどいいのが。」
桃太郎は、半ば驚き、半ば軽蔑する様に言いました。
桃太郎「まさか、浦島殿。コピンさんの事じゃ…。」
浦島太郎は、有頂天でした。
浦島太郎「いいね!桃太郎。そういう冴えた頭は、私は大好きだよ。」
金時は小さな声で、呟くように口を開きました。
金時「見えたぞ…。」
四人の目に、裂け目の底に潜む、赤き竜の巨大な体躯が、映りました。
赤き竜の体は、ちょっとした山程も、あったのです。
これには、歴戦の勇士である海鳴将軍も、言葉がないようでした。
海鳴「これは…、大きいでござるな。」
桃太郎は、蒼ざめました。
桃太郎「こんなのを、どうこうしようなんて、何かが間違ってる…。」
空飛ぶ牛車は、着陸出来そうな場所を探して、赤き竜の上空を旋回し続けました。
その内に赤き竜は、小うるさい訪問者に気づき、尻尾を振るって挨拶しました。
京の都の大路よりも、太くて広い尻尾が、唸りを上げて四人の眼前に迫りましたが、御者は、巧みに牛車を操り、すんでのところでかわしました。
金時は、赤き竜を鋭く睨みつけながら、独り言の様に言いました。
金時「先に行く…。後から、合流してくれ。」
桃太郎「それは、どういう意味、あっ!」
桃太郎が、聞き返す間も無く、金時は牛車の床を蹴り、飛び降りていました。
金時は、素早く白鏡を抜き放つと、飛び降りた勢いのままに、赤き竜の背中に、鋭い刃を突き立てました。
赤き竜は、激しく叫びます。
金時「冗談だろう?まだまだ、こんなものじゃない…。」
金時は、突き立てた白鏡の柄を、力強く握ると、そのまま縦横に駆け出しました。
赤き竜の背中から、青い血しぶきが舞い上がり、赤き竜は苦悶の呻き声を上げています。
桃太郎は、返り血を浴びる金時を上空から見ながら、ゾッとする思いで呟きました。
桃太郎「何だろう…。笑ってるのかな?」
浦島太郎は、御者に向かって叫びました。
浦島太郎「さあ早く!今の内に、着陸するんだ。」
御者はそれを聞いて、赤き竜から少し離れたところに、慌てて牛車を着陸させました。
海鳴将軍は、ふた振りの槌を。
桃太郎は今生丸を手に、金時の元へと急ぎます。
金時の体は、紫の輝きに包まれ、二人の上空にあって、赤き竜と対峙していました。
金時「赤き龍よ…。お前の力は、私には及ばない。我が力の前に、屈せよ。」
海鳴将軍と桃太郎は、呆気に取られて、その様子を見つめていました。