力を抱きし女性

オープニング…

「And so it goes」 Jet Black Crayon

https://youtu.be/zkh8gNTScGY

 

随分、古い話である。

エレナは、抗いし巫女と呼ばれる以前は、ギリシャでパラス・アテナと呼ばれていた。
エレナはある夜、ダビデ王の元を訪れていた。
彼女は率直に、ダビデ王に問うた。
エレナ「この世界には、全能の王の王ヤハウェがいらっしゃいます。そして、運命の赤子ラルゴが無に於いて、自らの生まれるべき時が満ちるのを待っている。あなたには、その間を繋ぐ、堅牢にして揺るぎない永い王国を保つ事は出来ますか?」
ダビデは、畏れた。
ダビデ「夜空に輝く星々が、全て年月であったとしてもまだ足りない、それ程長い王国を築く事は、私には出来ない。もし、人間としての私にそれが出来ないのであれば、恐らく誰にとっても不可能であろう。」
エレナは、再び問いを口にした。
エレナ「では、ヤハウェが約束された赤子ソロモンより、あなたの方が男として格が上である。つまり私を充たせるのは、自らである。あなたは、そう仰りたいのですね?」
ダビデは王笏を玉座に立て掛けて、力無くうなだれた。
ダビデ「そうである事を、私も男として生まれた以上は望みたいものだ。しかし、貴女のように気高く美しい女性に、人間としての限界を設けられた私が見合うとは、とても考えられない…。貴女を充たせるとすれば、それは全てを造り全てを始めたヤハウェを於いて、他には考えられない。あなたが、女性として充たされたいとそう希むなら、神を求めなさい。それ以外に、道はない。」
エレナは、まるで嘲笑うように、笑いを笑った。
エレナ「あなたが、もし驕り高ぶり私を自らの妻として望めば、この場でその存在を絶つつもりでした。しかし、あなたは自らの分を知っている。…詩才を与えましょう。それに依り、功徳を蓄えておく事です。あなたはいずれ、主への裏切りという大罪を犯す…。それが人々に許されるかは、あなたの書いた詩次第です。がんばりなさい。少なくとも私は、今あなたを許します。」
エレナは去り、ダビデは王の間で一人泣いた。
エレナは、神ヤハウェの前に立った。
そして、礼を弁えずに、問いを放った。
天使達に、動揺が走った。
エレナ「自らを神と名乗ったあなたと、自分の名前さえ憶えられない無垢なラルゴ…、上等なのはどちらかしら?」
ヤハウェは、厳かに語った。
ヤハウェ「それは、神である私である…。」
エレナは、その答えに涙を流し、膝を着いた。
エレナ「私は、あなたの苦しみを軽んじておりました…。その罪をお赦し下さい。私は、私自身をあなたへの捧げ物とします。その時、運命は微笑み、聖にして三位一体なる神が、私の胎に宿るでしょう。それが、あなたが造りあなたには完成させられなかったこの世界という何かを、完成させる運命の赤子に託すのです。私はそれでも充たされない。しかし、私を充たせないという、あなたの苦しみが私を充たすのです…。」
天使達は、その場を離れた。
やがてエレナは、新しい十戒ギリシャへと持ち帰る。
場所は、未だ明らかにはされていない。
 
テーマ曲「One day」 Tokyo No.1 Soul Set
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(白)です。
作品の元ネタは「ドラゴンクエストⅤ」。
男の苦衷を、書いてみようと考えました。
世界を始めたが、完成させられないヤハウェ
そして、そのヤハウェに寄り添いながらも、自分を抑えられないエレナ。
自らの存在に折り合いをつける事を、背負って行くダビデ
短いですが、作品としては一番気に入っています。
しかし苦しくて、読み返す気はなかなかしませんね。