すばらしい日々(Grunge Spirits) 13

ラフィーネは、ノートPCのIBM(Lenovo) ThinkPadを開きメールに添付してあるアドレスを、クリックした。

youtubeのサイトが開き…、それはゼロムの夏祭りの演奏だ。
拙いと演奏と、必死な歌声。
ゼロムという人柄が、そのまま現れたステージだった。
ラフィーネの胸に、あの花火の後の悦びが、今は切なさとしてチクチク刺さる。
「今さら、こんなメール送られてもねー…。」
ノートPCを閉じ、ヴァージニア・スリムのICE PEARL(5mg)に火を点けた。
彼女のバッグの中には、六法全書や参考書が詰まっている。
ラフィーネはコーヒーをすすり、参考書のページを開いた。
 
ゼロムは、東京に帰って来た。
彼は学校に行くより先に、バイトを決めた。
ファロムに会いたかったし、機材が色々と必要だとわかったからだ。
母コラクは、心配はしたがどこか雰囲気の変わった息子を、信頼したいと思った。
…ファロムと出会ってゼロムは、少しは見た目にも気を遣うようになり。
少しはオシャレかなと考え…、GAPでジーンズを買った。
バイトは、近所のコンビニ。
彼は、要領は別に悪くなかったから、仕事はすぐに覚えた。
楽しかったのは、人間関係だ。
学校での狭苦しい、限られた人間関係と違い、様々な人間がそこにはいる。
ゼロムが、心密かに望んでいた趣味の持ち主も、期待通りいた。
…そう、音楽好きである。
ジャズ好きのおじさんで、Wワーカーである。
いつもDieselのデニムにPaul SmithMargaret Howellのシャツを合わせていて、水色と白のタンク1960年代の名機「別体式エンジン」の旧車TRIUMPHボンネビルT120に乗っている。
スニーカーは大体、PATRICKのトリコロールのSULLYだ。
本職は介護士で、仕事が休みの日だけシフトに入っていた。
実際は本職の介護の分野で職業的にそれなりに成功を収めていて、どこかの施設長を務めているらしい…。
…働く事を愛していたのだから。
本人もベースを演奏し、妻と友達と共にPiano Trio「Just Not Enough」を組んでいる。
奥さんはピアノ担当で、Roland JUNO-DS61とKorgのKrome61をラックに2段重ねて使っているそうだ。
JUNO-DS61をピアノ音源、Krome61をオルガン音源と使い分けているらしい。
JUNOはタッチが、Kromeは音が好きなんだそう。
あまり機材には詳しくは無いらしく、シンセこそ色々吟味して選んだが、アンプは単に「可愛いから。」と、OrangeCrush100をチョイスし、ケーブルも「赤いから。」とカナレ社製を使用していた。
また、ピアノ奏者ではないが、オルガンのJimmy Smith氏を敬愛している。
どうやらベースにも、シンセ・ベースのエフェクターをかけ…。
シンセサイザーで音作りしたYellow Magic Orchestraモーモールルギャバンのような編成で、…アンビエントなJazzを演奏しているようだから。
「Just Not Enough」は、最近新しいアルバムを自分達のホーム・ページでダウン・ロード出来るようにしたらしい…。
モチロン無料だ、…そのタイトルは「家事・Jazz」。
…ジャズ好きおじさんは、煙草は止めたらしい。
一日一本の…、Villigerという葉巻を吸っているんだそうだ。
安くて、…美味しいのさ。
おじさんは、ニコチンを愛してるんだから…。
そしてそれを…、ちょいとお高いウィスキー「マッカラン12年」とバッティングする。
…そ〜すればもうそこは、天国なのだ。
だからおじさんは言った。
「ロックンロールが好きなら、ブルースを聴いてみなよ。」
ゼロムは、ちょっと違うと考えた。
「そういうのは、アンマリ…。」
おじさんは、ハッキリと迫った。
「君が言ってるのは、ブルース・ロックだろ?違うよ、本当の黒人のブルースさ。試しに、The Blues Brothersを観てごらんよ。あれは、面白いよ!」
ゼロムはバイト帰りに、早速レンタルビデオ店に立ち寄り、件のDVDを借りて観た。
成る程、映画としては面白いし、音楽もいい感じだとは、思った。
「オレが好きなのは、こういうのじゃないんだよな…。」
その時、画面にあの男が現れた…。
King Of Boogieと呼ばれる、John Lee Hooker。
ソウル・フード食堂の前に、小さく座っているただの老人…。
初めは、そう見えた。
しかし彼は、荒々しくギターを掻き鳴らし、唸り声を上げる。
そしてそれは、単調なのだ。
何度も何度も、「boom boom…。」と繰り返すだけ。
ギターも同じだ。
しかし、その単調な繰り返しが、ある空虚な高揚感をもたらす。
それが、圧倒的な説得力を伴って、ゼロムの若いハートを突き抜けた。
「なんだ…、これは?」
ゼロムは、次の日バイト前にCD屋にオレンジのTOMOSを飛ばし、CDを買い漁った。
Sun・House。
Robert・Johnson
Howlin'Wolf
みんな、スマホで検索した。
何もかもが新鮮で、全く知らない世界だ!
そして、ゼロムはThe Rolling StonesだってBuddy Hollyだって、Aerosmithだって、みんなブルースから始まった事を、ジャズおじさんから聞かされる。
彼は見つけたのだ。
自分に足りなかった、「何か」を。
自分では、見つけられなかったルーツを。
インターネットラジオ局Degitally Imported, inc「Jazz Radio」のブルース・チャンネルをチューニングしていた彼は、ピアノ・ブルースやリズム・アンド・ブルースにも目覚めていく!
 
ギターも、それなりに達者になったある日、ゼロムは気持ちよくギターを弾いていた。
お気に入りのエフェクターは、MAXON TBO9。
少し高かったが、バイト代を貯めて奮発した。
滑らかな絹の様なオーヴァー・ドライブで、ヴィンテージのロックンロールを演るには最高だ!と一人悦に入っている。
その時、気づく。
「あれ…、これって。」
あるフレーズを、繰り返してみたのだ。
気持ちいい…。
彼は、それをパソコンに録音しておいた。
「これって、リフだよな?」
彼は、幾つかのリフを録音した。
そして、それがある程度貯まってくると、良さそうなの見繕って、続けて演奏してみたのだ。
旋律と旋律が連続し、ある感興を催した。
彼は、考えた。
「これ、曲だよな。スゲー…!」
ゼロムは、学校に行きたいと思った。
学校には、軽音部がある。
そこで仲間を作って、ベースやドラムを着けてもらえば…。
彼は、母にその事を告げた。
ラクは、涙を流した。
ゼロムは、自分のアンプが欲しいと考えている。
心は決まっていた、YAMAHAのTHRだ…。
 
ゼロムは、月に一度はファロムに会いに行った。
野沢温泉村に宿を取り、ファロムはそこまで一人で出掛けてきた。
一っ風呂浴びた後、旅館でファロムに打ち開けた。
「…オレさ、曲を書いてるんだ。」
ファロムは、無邪気に喜んだ。
「すごーい!聴かせて、聴かせて!」
ゼロムはスマホを取り出し、録音した曲を再生した。
「どうだい?これが、ロックンロールだよ…!」
ファロムは、よくわからなかったが「いいよ、すごく!」と言ってくれた。
「何ていう、タイトルなの?」
ゼロムは、言葉が喉につかえた。
「Flower…って、言うんだ。」
ファロムは、笑って言った。
「ふ〜ん、ロマンチックだね…。」
本当は、ファロムの為に書いた曲だ。
だが、それはまだ言えない。
「詩はないの?」
ファロムは、聞いた。
Flowerには、ゼロムの鼻歌しか入っていない。
「詞はさ、思い浮かばないんだ…。メロディーは書けるんだけど。」
ファロムは、ニヤリと笑った。
「じゃあ、あたし書いてみるよ!!」
ゼロムは驚いて、目を丸くした。
「本当かよ?結構、難しいぜ。」
ファロムは、大きな声で言った。
「いいよ、やってみる。あたしも、何かはじめたいモン!」
本当は、ゼロムの為に何かしたかったからだが、それはまだ口には出来ない。
二人は、早速ノートを買いに行き、旅館に戻って色々な言葉を、思い付くままに書き付けていった。
 
書きかけの「Flower」
あたしはコーヒーを淹れる。
あなたは美味しいと言う。
あたしは本の事話す。
あなたは楽しいと聞く。
ホントはそう思ってない。
ホントは違ってる。
あなたの想いは。
その優しさに気持ちがほだされる。
二人でいるといつもあたしが。
話してばっかり。
あなたは俯いていて。
頷くだけなの。
私は。
ホントは。
あなたの心を見つけたいだけ。
 
ファロムは、顔を上げると言った。
「…あたし、歌っちゃおうかな〜!意外と才能、あるかもよ?」
ゼロムは、ファロムを見詰めて言う。
「バンド名は、考えてある…。Offtones(おふとん)って言うんだ。」
ゼロムは思った。
結び目は解けようとしている。
それは、決して難しい事ではない。
例え、平坦な道のりではなかったとしても…。
…だから。
 
テーマ曲「ロックンロールは鳴り止まないっ」 神聖かまってちゃん
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(青)です。
この作品の元ネタは、吉田聡先生の「スローニン」です。
だから…、キャラクターのモデルは…。
ゼロム…の子さん。イメージ
「Can't stop me」 ProleteR
ラフィーネ…野宮真貴さん。イメージ
「Hub-Tones」 Kamasi Washigton
ファロム…さこやんさんです。イメージ
「SEU PAI」 Arto Lindsay
この作品は、満足しています。
書いていて、一番楽しかった作品です。
入院生活が始まった直後に、下書きしているので、今読み返すと所々朦朧としている…。
作品として、語り尽くした感があるので、あまり書く事がありませんね。
勿論、実話ではありません。
こんなに素敵な青春は、送ってません。
送ってないから、書けるんです!
それでは、失礼します。