Black Swan -overload- 1

オープニング・テーマ…
「イカリを揚げよう」 明和電機

ここは、王ダヴィドの治めるカトラナズの国。
人々の記憶の中にある、もう一つの現実である。
その国で、彼らは冒険者と呼ばれていた。
依頼主から任務を引き受け、その達成と共に報酬を受け取る。
人々から、尊敬される仕事ではない。
任務は、様々だ。
花壇に水をやったり幼子の面倒を見るものから、巨人と戦ったり竜退治まである。
そんな仕事が存在した理由は、簡単だ。
正規の騎士の数が足りず、また行政にも完全というものはなく、行き渡らなかった為である。
彼らは、社会の隙間を埋めていた。
自らの命を懸けて。
そんな若者達の物語である。
一台の駅馬車が疾走している。
次の駅を目指してだろう。
その脇を、三騎並走している。
護衛に就いている冒険者達、剣士ゼク、盗賊ローランド、冒険者ではないが共に旅をしている正統教会の助祭であるソクロの三人だ。
ゼクは、ローランドに話しかけた。
「なあこのまま、何にもなかったら丸儲けだぜ?何にも起きなくたって、金はもらえるんだ!こんなに上手い話は、ないよな。」
ローランドは、ニヤリと笑って答える。
「確かにここまでは、順調だ。まだ、油断は出来んがな。お前の言う通り、何かあっても無くても報酬は一緒なんだ。どうせなら何もない方が、オレだっていいさ!」
ソクロは、二人を諫めようとした。
「二人共、そんなこと言うもんじゃありませんよ。仕事というのは、神聖なものです。気持ちを注いで打ち込めば、それだけ人生は充実するのですよ…。」
その時、駅馬車の乗客から悲鳴が上がった。
三人が振り返ると、遠くに砂塵が上がっている。
その中に、黒い甲冑が見えた。
ゼクは、ローランドに尋ねた。
「あれさあ、囮だと思うか?」
ローランドは、バカにした様に返事をする。
「こんな小さな駅馬車に乗ってる積荷を奪うのに、そんなご大層なことするか?」
ゼクは、快活に笑った。
「よし、それなら決まりだ!!」
ゼクは先ず、駅馬車の御者に伝える。
「あんた達は、このまま行けよ!出来たら、もう少し急いでさ。俺たちが、この場は食い止める。」
ゼクは振り返ると、二人に伝えた。
「ローランドは、距離をとって飛竜を撃ち落としてくれ!俺は、アイツが嫌いなんだ。面倒臭くてな。ソクロは、俺と一緒に黒き騎士に突っ込むぞ!倒さなくたっていい。せいぜい引っ掻き回して、時間を稼ぐんだ!」
「…。」
ローランドは、無言で離れていく。
ソクロは、大声で返事をした。
「あなたの指示に従いますよ、ゼクさん!」
ゼクは、叫んだ。
「よし、行くぞ!」
ゼクとソクロは馬首をとって返し、黒き騎士達に向けた。
黒き騎士は五騎。
黒き騎士とは言っても、その中身は一様ではない。
不屍の術によって腐った体を得たさまよえる魂であったり、地獄から喚び出された悪鬼、自然に存在する動物に悪霊が取り憑いた魔物であったり、様々だ。
お互いに全速力で接近している。
距離はあっという間に縮まり、すぐ目と鼻の先だ。
ゼクは肩から下げている刀を、ソクロは背負っている槌をそれぞれ手にした。
両者は、正面から激突した。
ゼクは鋭く刀を振り下ろし、一体の悪鬼の首をはねた。
ソクロも一撃を加えたが、致命傷にはならないようだ。
ゼクとソクロは、そのまま駆け抜けた。
ゼクの読み通りである。
黒き騎士達は向きを変えて、ゼク達に向かって来た。
一方のローランドは、鼻歌を歌いながら飛竜に狙いをつけていた。
歌っていたのは、V.Galloの「Lonely Boy」。
そのまま何気なく、ボウガンを発射する。
命中だ。
一匹の飛竜が、地に堕ちる。
ローランドは歌いながら、二射目の準備を始めた。
ゼクとソクロは二手に分かれ、機動力で黒き騎士達を翻弄した。
止めこそ刺さないが、黒き騎士達は確実に消耗し混乱している。
駅馬車は、かなり遠くまで引き離せた様だ。
ゼクは、そろそろ引き上げてもいいだろう、と考えていた。
その時である。
一体の黒き騎士が、異様な叫び声を上げてゼクに立ち向かった。
他の騎士に比べて一回り体が大きく、不恰好なかぶとから覗く醜い顔は、悪鬼である。
ソクロは、咄嗟に叫んだ。
「ゼク!もういいでしょう、引き上げますよ。挑発に乗らないで!」
だが、既に手遅れだ。
ゼクは猛然と突進し、あろうことか正面から馬を馬にぶつけた。
両者の馬が同時に倒れ、ゼクと悪鬼は揉み合いになった。
ソクロは、知っていた。
ゼクは、こういう時に見たことのない表情を浮かべる。
恍惚とも陶酔とも違う…。
狂気なのかも知れないと考えると、恐ろしく感じるのである。
ゼクは上に成り、切っ先で喉笛を突くとそのまま首を斬り落とした。
その首を掲げ、周りを睨みつけた。
「…まだ、やるのかよ?」
ゼクは揉み合いで消耗していて、肩で荒く息をしている。
残った三人の騎士達は、当然取り囲んで殺すつもりでいた。
「言わんこっちゃ、ないでしょう!!」
ソクロは急いで割って入り、ゼクに向かって手を差し伸べた。
ゼクもその手を掴むと、ソクロの馬に飛び乗り脱出した。
ソクロは馬を全速力で走らせたが、騎士達は追ってはこない様だ。
「さっきの悪鬼が、指揮官だったみたいですね。」
ゼクは、宙を見上げてボヤいた。
「あーいう時にさ、気で圧倒して後ずさる敵達!みたいなのに、憧れるんだけどなー。」
ソクロは、ゼクという人間に好意を持っている自分を知っていた。
しかし、まだその器を計りかねている…。