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Black Swan -overload- 2

ゼク達は、カトラナズの国の王都シュメクに住居を構えていた。

カトラナズは平和な国ではあったが、様々な人々が住んでいたし、どこもかしこも清潔で清浄であった訳ではない。
やはり雑多な繁華街があり、冒険者の多くはそこに出入りしていた。
繁華街の外れに"正子"という小さな定食屋があり、ゼクはいつもそこにいた。
"正子"は店の名の通り、マサコというおばあさんが一人でやっている。
安い値段で盛りが多く、肉体労働者が多く集まってくる。
ゼクはそこで、夕飯に「豚の生姜焼き」大盛りを食べながら生ビールを飲んでいた。
「…やはり、ここでしたね。いつも通り。ローランドは?」
ゼクは、生ビールをゴクゴク一気に飲み返事をした。
「女のトコだ…。あいつは、女を口説けない店には出入りしないとよ。」
ゼクは、油で汚れたマンガ雑誌をテーブルの上に広げている。
ソクロはその向かい側に、腰を下ろした。
「おばさん、野菜てんぷら定食一つ、お願します!…今回も、大変でしたね。特に最後は、どうなるかと…。」
ゼクは、マンガ雑誌から顔を上げず、目だけ笑って言った。
「お前を当てにしてたんだよ。これで、俺たちブラック・スワンも10連勝!いい調子だ…、このまま行こうぜ。」
ブラック・スワンは、ゼク達のチーム名だ。
冒険者の中には、常に単独で任務に就く者もあるが、大抵は気心の知れた仲間達とチームを組んでいる。
「売り出し中の新人、ブラック・スワンですからね。酒場"カリオストロ"にも、チラシが貼り出されている。とは言っても、私は冒険者じゃありませんが…。」
ソクロは、正統教会の助祭にあたる。
司祭になる為の修行中で、見聞を広げる為にゼク達に同行しているのだ。
「だんだんとさ、楽で実入りのいい仕事が舞い込んでくる様になるぞ!冒険者なんて、一度売れちまえば後は楽なんだ。あ〜あ、さっさともっと売れてえなあ!」
ゼクはそうは言いながらも、気分がよさそうにビールをあおった。
ソクロは諌めた。
「ゼク、そんな考え方をしてはいけません。人間には、完成などないのです。人生は、常に修行であると…。」
ゼクとソクロの脇にスーツ姿の、明らかに周りから浮いた男が立っていた。
「ゼクさんに、ソクロさん…。ブラック・スワンのお二人ですね?」
ゼクは、マンガから目を離さず無視したが、スーツが随分と高価なことは察していた。
ソクロが、代わって返事をした。
「ええ、そうですよ。それであなたは、どちら様でしょうか?」
男は名刺を取り出し、テーブルの上に置いた。
「私、ザハイム研究所の者でして…。大した物ではありませんが、先ずは一杯奢らせて下さい。」
男は、瓶ビールを一本注文した。
マサコが、グラス三つと瓶ビールの栓を開けて、お盆に乗せて運んでくる。
ソクロも男も手をつけなかったが、ゼクは自分の分だけをグラスに注ぐと、グイッと空けた。
男は、ソクロに語る。
「私も、詳しい話は聞かされてはおりません。しかし、所長のザハイム様直々のご依頼でして…。是非、ブラック・スワンの皆様に、と。」
ゼクは、二の句を告げなかった。
「いいぜ、引き受けてやるよ。詳しい話は、ソクロとしてくれ。俺は、トイレに行ってくる。」
ゼクは、入り口の脇のトイレで用を足すと、そのまま店の外に出て、煙草を吹かした。
星がきれいな夜だった。
子供の頃、星が大好きだったことを思い出す。
俺の心は、あの時比べてどうなっているのだろう…?
そんなことに、思いを馳せていた。
やがて店ののれんをくぐり、スーツの男が顔を出した。
軽く会釈だけを済ませて、立ち去って行く。
ゼクは店の中に戻り、席に着いた。
「すごいじゃないですか、ゼク!あのザハイム研究所からの、それも所長直々の依頼ですよ。いやあ、我々も有名になったのですね。」
ビールは、既にぬるくなっている。
ゼクは、ハッキリと言った。
「ソクロ、よく考えろよ。いくら俺たちが売り出し中だからって、ザハイム研究所なんて、そんなお偉いトコからお声がかかると思ってんのか?こいつは、何か裏がある。それはローランドに探らせるとして、詳しい話を聞かせてくれ!」
ソクロは、依頼の内容は主任研究員の護衛だと告げた。
場所は、シュメクから遠く離れたヘウの村。
旅費も必要経費にも、制限はない。
ただし、任務の達成が絶対条件だと告げて言ったそうだ。
「やっぱりな…。そんな上手い話があるはずない。とにかく、行こう。明日には立つ!」
ソクロは不思議だった。
「ゼク、そこまで考えがまわるなら、何故引き受けたんですか?」
当然の疑問だが、ゼクはまたあの不思議な表情を浮かべていた。
「だから俺は負け惜しみ唾れるウゼェ野郎と、相手を怖がらせて退かせようって態度は気に喰わねーんだよ!!!それだけだ…。」
ソクロは、これは厳しい旅になると、そう予感した。