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Black Swan -overload- 7

ゼクは、登山道の脇の茂みに潜んでいた。

みんなを配置してから、約一時間…。
馬の蹄が地面を蹴る音が響いてきた。
「来たな。」
針金のトラップは、成功だ。
目の前で二騎落馬した。
ゼクは飛び出そうとするが、再び蹄の音が聞こえてくる。
ゼクが茂みの中から様子を伺っていると、彼らの掲げている松明が目の前で跳ねた。
「行ったか…。上手くやれよ。」
ゼクは茂みから飛び出し、落馬した黒き騎士に近づく。
地面に落ちて燃え広がった松明の明かりが、彼らの顔を照らし出す。
ケルトンとグールだ。
ゼクは、不屍の者が嫌いだった。
「ちっ、メンドくせー。」
首から下げていたカトラナズの証「太陽を抱く月」を引き千切り、グールの胸に乗せて刀の柄で押し付ける。
「太陽を抱く月」は、小さな円い黄金の淵の中にルビーをはめ込んだ物だ。
グールの体は、しゅうしゅうと煙を放ち始め、「太陽を抱く月」も燃え始めた。
グールの体が燃える臭いに、顔をしかめる。
「太陽を抱く月」が燃え尽きる頃、グールの体は土に還った。
もう一体のスケルトンは、立ち上がろうとしている。
ゼクは背後から斬り、脊髄を断った。
こうしておけば、スケルトンは体を形成出来なくなる。
ゼクは、バラバラになったスケルトンの残骸を、崖から放り投げて捨ててしまった。
再び、茂みに潜む。
蹄の音は聞こえない。
だが、まだ油断は出来ない。
あの嫌な予感も、去ってはいない。
「ゼクさん、ゼクさん…?」
人の声だ。
顔を出すと、ゼクが伝令役に指名した、警備兵長のトクラだ。
「何だ?」
「作戦は順調です。ローランドさんの側は六騎討ち取って、怪我人も出てません。」
ゼクは、安堵した。
「そうか…。みんなに伝えてくれ。陽が昇り切ったら、撤収だ。恐らくは、夜襲だからな…。」
トクラは少し不安そうだ。
「わかりました。でもいいんですかね、私、戦わなくて…。警備兵の長として、不名誉じゃないですか…?」
ゼクは、穏やかに言った。
「戦いの時、一番大事なのはお互いへの連絡なんだ。責任は、重いぜ?がんばってくれよ!」
トクラは、朗らかに笑った。
「わかりました。ゼクさんも、無理せずに!」
トクラは去り、ゼクは残る。
陽が昇り始めている。
もう少しの辛抱だ…。
ゼクは自分に言い聞かせるが、嫌な予感は無くならない。
それから、再び時間が経った。
辺りはすっかり明るくなり、ゼク自身、戻ることを考え始めた時、奴は現れた。
ゼクは、嫌な予感が実現したことを知る。
奴は、巨大な牡牛に乗っていた。
奴自身も巨大だった。
ゼクは、針金のトラップにかかってくれることを期待した。
しかし奴は、針金の前で手綱を引くと、手にした矛でそれを斬った。
ゼクは理解していた。
奴を通してはならない、と。
確実に、死者が出るからだ。
ゼクは茂みから姿を現し、名乗りを上げた。
「よう、大将!俺はゼクだ。今日の作戦は、みんな俺が仕切ってる。気に食わないって言いたいなら、文句は聞くぜ!」
ゼクは、白刃を抜き放った。
奴は言った。
「我が名は、狗香炉(イヌ・コーロ)。面白い知恵だな。針金を使うとは…。いいアイディアだ。相手をしてやろう。」
狗香炉と名乗った奴は、牡牛を進めるとゼクの目の前で降りた。
奴は、こう言った。
「降りてやろう、小僧。そうでなければ、お前に勝ち目は無いものな!」
ゼクは、嫌な予感を完全に理解した。
奴は手強いのだ。
それは、間違いない。
「ちっ、メンドくせー!!」
両者は、対峙した。
空気が震えている…。