Black Swan -overload- 10

「何よ、あなた!ついて来ないでったら。」
ハウシンカはプリプリ怒りながら、山道をヘムの村に向かって歩いて行く。
「しょうがねーだろ、これも任務なんだよ。」
ゼクはその少し後を、離れてハウシンカに着いて行く。
ハウシンカは、今日は非番だ。
ふわっとした白のブラウスに、カーキ色のメンズのミリタリーパンツを履いている。
ヘムの村に買い物に行くらしい。
ゼクは、ほっとけよと意見したが、ソクロが生真面目に護衛が必要だと主張したのである。
それで、誰か一人が着いて行くことになり、ゼクがじゃんけんで負けた。
「本当、マナーをしらない人達だわ。プライヴェートな買い物だっていうのに。後をつけてきたりして!」
ゼクは遠慮会釈なく、鼻くそをほじりながら答えた。
「誰が好き好んで、バ◯アのケツなんぞ追い回すかっつーの。」
ハウシンカのトートバッグが、ゼクに向かって飛んだ。
「誰のこといってんの、それ!」
ゼクは、バッグを受け止めながら聞こえないように言った。
「アンタに決まってんだろう…。」
村に入ると、ハウシンカは雑貨屋でアクセサリーを見たり、パン屋を覗いたりした。
勿論、ゼクは店内にまでは入っていかない。
店の外で、煙草を吹かして待っていた。
退屈だ。
何本煙草を吹かしたろう?
ハウシンカはパン屋の中で、あっちのパンを見たりこっちのを見たりしている。
そして、いちいちパンの前に立ち止まっては、店のおばさんと何か話し込んでいるのだ。
ハウシンカは、俺を殺そうとしているのだ。
煙草を吸わせまくって。
ゼクがあくびを噛み殺していると、小さな男の子がゼクを見上げている。
「ほら、あっち行け。見せモンじゃねーんだよ。」
ゼクが追い払おうとすると、子供はこう言った。
「お兄ちゃんが、コルネおじさんを殺したんだ!」
「何…?」
子供は、黒い服を着ている。
…喪服だ。
ゼクが向こうを眺めると、棺とそれを取り囲んでいる人々が見えた。
「お兄ちゃんは、ぼく達を見捨てたんだ!だから、コルネおじさんは殺された!」
一人の、やはり喪服に身を包んだ女性が、駆け寄って来た。
「マグ!何てこと言うの。ごめんなさい、お気になさらないで下さい…。」
マグと呼ばれた男の子は、母親に手を引かれて行った。
ゼクの頭の中に、幼かったあの日が蘇った。
炎に包まれる村。
ゼクをかばって殺された母親。
葬列が、目から離れない。
俺は、何をしている?
俺は、何の為に…?
俺は…?
「あなた、まだいたの?もう帰ってくれたのかと、思ったのに。」
ゼクが振り返ると、ハウシンカが紙包みを抱えて立っていた。
「任務だよ、うるせーな。」
ハウシンカは、紙包みを一つゼクに手渡した。
「待たせてゴメンね。お詫びじゃないけど、これはあなたの分。」
ゼクは受け取りながら、毒づいた。
「礼は言わねーよ。ホントに待ったんだからな。」
ハウシンカは、呆れて言った。
「本当に可愛くないガキね!ま、いいわ。この先に、見晴らしのいい展望台があるらしいから、そこへ行って食べましょ。」
ゼクは、黙って着いて行く。
マグの言葉が、頭から離れない。
ハウシンカが振り返る。
「あのさあ、勘違いしないでよね。私には、セトっていう素敵な恋人がいるんだから。あなたになんて、これっぽっちも興味ないのよ!」
ゼクは、透明な人の様だった。
「そう、だな。そうかもな…。」
ハウシンカは、不思議に思った。
この人は、どんな人間なんだろう?
興味の始まりなのかも知れない…。
「The Robots」 Kraftwerk