Black Swan -overload- 12

今は、聖コノン騎士団の作戦会議が行われている。
砦の会議室に隊長クラスの騎士達が集まり、テーブルを囲んでいた。
指揮官の騎士が、テーブル上の地図を指揮棒で指し示しながら、隊長達に現状を説明する。
「今回の、ザハイム研究所発掘現場への二個中隊の派遣は、同地の我々の駐屯地としての確保がその目的である。」
指揮官の騎士は、テーブルの周りをゆっくりと歩く。
「ザハイム研究所は、長く我々騎士団への協力を拒んできた…。しかし、今回は救助要請があり、これはザハイム研究所本部も承認している。」
セトは、あごを撫でさすりながら聞いていた。
「我々は直ちに同地へと資材を送り、この地点…。」
指揮官の騎士は、ゼク達が降り立った小さな港を示す。
「この港を、物資搬入用の軍港とする。また、ザハイム研究所発掘現場は、事実上の前線基地である。我々の攻撃目標は…。」
セトは、スッと立ち上がった。
「ぼくから説明しよう。ポイントはここ…。」
ヘムの村からそう遠くない、森の広がっているある地点を指差す。
「ルカーシの報告によると、そのポイント付近での小競り合いが続いている。聖コノン騎士団が撃破した黒き騎士達の数だけでも、二十騎に及ぶが攻撃が止む様子はない。恐らく…。」
騎士達はざわめき出す。
セトは、そんな騎士達を一喝する様に宣言した。
「小型であることが予想されるが、このポイントにサモン・ジェネレーター(召喚用魔法陣)が設営されている!」
指揮官は、後を継いだ。
「我々の目的は、このサモン・ジェネレーターの破壊である。各員…。」
会議は終わり、騎士達は次々と退席していく。
ルカーシは、会議室を出て行くセトを追った。
「先ほどの話ですが、本当ですか?ザハイム研究所の発掘現場に私達を派遣したのは、ハウシンカ様をお守りする為ではなく…。」
セトは、振り返らずに言った。
「どちらにせよ、あの土地は守るよ。言っただろう?前線基地に使うんだ。それが、ガウェイン将軍の命令だからね…。」
ルカーシは、うつむいて苦しげに言った。
「ガウェイン様ですか…。ハウシンカ様が実の娘であっても?」
セトは、振り返って微笑んだ。
セトの瞳は不思議と澄んでいて、曇りはない。
「ガウェイン将軍は、とても優しい方だ。だけど、公私混同に惑わされたりする方ではないよ…。」
ルカーシは、もう何も言えなかった。
ハウシンカは、今日は非番だ。
護衛は、ソクロ。
宿舎の入り口で、ハウシンカは何度も腕時計を覗き込んではソワソワしている。
「何か楽しいことでも、これからあるんですか?」
ソクロは、穏やかに話しかけた。
「な、何にもないわよ。別に普通の休み…。でも少しだけ、いいことがあるかしら?」
向こうから誰かがゆっくりと馬に乗ってやって来る。
「セトー!」
ハウシンカは駆け寄って、馬を降りたセトに抱きつく。
「遅かったじゃない…。私、随分待ったんだから!」
セトは、優しくハウシンカを引き離すと、笑顔で謝った。
「ごめん、ごめん…。作戦会議が、少し長引いてね。最近多いんだ。ほら、君の所にも黒き騎士達が現れてるだろ?」
ハウシンカは、すねてみせた。
「それは、そうだけど…。」
セトは、ハウシンカを促して馬に乗せた。
「ヘムの村に行って、ご飯でも食べよう。ソクロくん、いつもありがとう。ハウシンカのことを、これからも頼むよ。」
ソクロは微笑んで、確認する。
「じゃあ、今日は護衛は必要ないですね…。ではよろしくお願いします、セトさん。」
セトはゆっくりと馬を進めて、発掘現場を出て行った。
「でね、ゼクはこう言うのよ。俺は、お前みたいなオバさんのお尻は追いかけない!だって、ひどいと思わない?」
セトは、笑いながら相づちを打っている。
「だから私、持ってたバッグを投げつけてやったわ!あれで、少しは懲りるといいんだけど…。」
ハウシンカは、話し続けた。
「それに彼ったら、ほら、ウチの研究員でトルカって娘がいるじゃない?彼女に言い寄ってるらしいのよ。どうも、二人の関係が怪しいって噂になってるの。」
セトは、笑って流した。
「彼がそんなことするとは、思えないけどね。」
「本当なのよ!どうも、トルカの方もいい気になっちゃってるみたいで、困ったものね。仕事は仕事。プライヴェートはプライヴェートで、しっかり分けて欲しいわ…。」
セトは、言った。
「随分、ゼクくんの話題が多いね。彼のこと、気に入った?」
ハウシンカは、驚いて目を丸くする。
「とんでもない!あんなバカな男、これまでに会ったこともないわ。下品で図々しくて…、あなたとは全然違うもの。」
ハウシンカはセトの裾を引いて、そっと目を閉じた。
セトは、ゆっくり時間を掛けて接吻する。
展望台に着き、二人は馬を降りた。
「前に会ってから、一月経っちゃったわねぇ。どうしても忙しいし、シフトが合わないから。」
セトは穏やかな日の光の中で、のんびりと体を伸ばしている。
「寂しいとは、思わない?」
間があった。
セトは、何かを探したがそれが見つからなかった様に答えた。
「そうだね。少しだけ…。」
ハウシンカは、セトの方を見なかった。
「あなたってとても優しいけど…、何でもそうだね、そうだねって、本当の本心はどこにあるの?って、時々考える…。」
セトは、なだめる様に馬の体をさすってやっていた。
ハウシンカは足元に咲いている、白詰草をいじった。
やがてハウシンカは、後ろからセトを抱き締めて、ポツリと漏らした。
「今日、抱いてほしいの…。」
セトは、何かを見ていた。
それは、多分自分が望まない何かなのだと、ハウシンカもうっすら気がついている。
「無理だよ…。昼ごはんを食べたら、帰らないと。今は砦にルカーシがいないから、やることが増えてしまってね。」
セトは、ハウシンカから体を離すと、快活に言った。
「さ、昼ごはんを食べに行こう!君の、オススメなんだろう?」
ハウシンカは、こらえた。
「そうね、私もお腹がペコペコだわ!」