Black Swan -overload- 16

夜、ブラック・スワンは夕食を食べた後、甲板で酒を飲んでいた。

ゼクとローランドは、船に積んであるラム酒
ソクロは、自分の持っているカルヴァドスだ。
武田邦彦氏の著書「早死したくなければ、タバコはやめないほうがいい」を眺めながら、チビリチビリと舐める様に飲んでいる。
「ソクロ、…俺は神様には詳しくねーんだが。」
…ソクロは本から目を離さずに答える。
「何です…、私にお話出来る事なら何でもお答えしますよ。」
ゼクは、ラム酒をぐぃとあおった…。
「俺達の神様、…主イエスってのは今何やってんだ?」
…ソクロはギクリとして、ゼクに目を向ける。
「それはですねぇ…、どうしても聞きたいですか?」
煙草を取り出し、ゼクは火を点けた…。
「何だよ教会の秘密なのか、…言いたくなけりゃ別にいいぜ。」
…大きく手を振って、否定するソクロ。
「いやそんな事はないです…、ただこれは神の御名と同じで軽々しく語ってはならないと教えられているので。いいですか…?」
うつむいて…、ソクロは厳かに語り始めた。
「…首都シュメクに、"聖杯"とゆうBarがあるんです。主はそこでマスターをされています…。」
「何だよ、…それのどこが秘密なんだ?」
…ゼクは、美味そうに煙草の煙を吐き出した。
「その店ではあるワイン…、その名は知らされてはいません。を注文すると、主イエスから慰めてもらえるんだそうです…。」
ピンと来たゼクは、…ニヤリと笑う。
「…そりゃあ、ずい分な色男だな。」
ソクロは…、困ったように眉をしかめ言葉を続ける。
「そのワインの名は、ある種の仕事に就いている女性達の秘密なんです…。それは、…多分ゼクさんの方がご存知でしょう。…彼女達が、仕事でイヤな想いをさせられると。そのワインを…、注文しにやって来るんだそうですよ。」
笑うのを止め急に真顔になったゼクは、甲板に短くなった煙草を擦りつけた…。
「そりゃ、…結構な御業だな。…俺も精々、抱いた女性が駆け込まれねーように気をつけるさ。」
だから…、ソクロは安堵している。
「それはともかく、今回の任務は最初こそ大変でしたが…。今の所は順調ですね。」
ゼクはグラスを傾け、再び一気に飲み干す。
「まだ油断は出来ねーな。ザハイムが、何を考えてるのかわかんねーし。」
ソクロは、ほんのり赤い顔で言った。
「聖コノン騎士団はどうですか?あそこのセトさんは、なかなか優秀じゃないですか。」
ゼクは飲むと、顔が白くなる。
「セトか…。何か狙いはあるんだろうが、まあ信用できるだろう。」
ソクロは、酒を手酌で継ぎ足した。
「彼は、シロだと考えてます?」
ゼクは、煙草に火を点ける。
「多分、あいつは任務に忠実なだけだ。ガウェインの部下だろ?それなら、問題はないさ…。」
ソクロは、気分が良さそうだ。
「それならば、私もやりやすいです。人を疑うのは、難しいですよ。」
ゼクは、長く煙を吐き出した。
「俺だって、神様じゃねーんだ。全部わかってるわけじゃねーからさ。」
ソクロは、微笑んだ。
「それでも、やはり…。」
「ミミカちゃ〜ん!!」
ローランドは、突然立ち上がって夜空に吠える。
ゼクもソクロも、驚いてしまった。
「あー、びっくりしました。」
「何だよ、急に。」
ローランドは、グラスに残っていた酒を一気に飲み干すと、二人に向かってまくし立てた。
「ど〜してミミカちゃんは、俺のこのピュアな気持ちをわかってくれないんだ!このパールのイヤリングだって、俺が精魂込めて手作りしたっていうのに…。」
ゼクはニヤリと笑い、グラスを傾ける。
「や〜っぱ、そーだったか。」
ソクロは、真面目な顔で聞いていた。
「そうだったんですか…。でもローランドさん、それは店で買ったって言ってましたよね?」
ローランドは、うつむいた。
「だって、お前…。」
ソクロは、その顔を覗き込む。
「だって、何です?」
ローランドは、顔をクシャクシャに歪めて、吐き出す様に言った。
「恥ずかしいじゃねぇか!」
ゼクは、吹き出してしまう。
「何だよ、気持ちわりーなあ…。」
ソクロは、ゼクを諌めた。
「そんなことを言ってはいけません、ゼクさん。ローランドさん、そんなに真剣だったんですか…。それにしても、その技術はどこで?」
ゼクは、煙草を軽く吹かす。
「こいつの親父は、騎士団に武器や甲冑を納めてる最大手の、デ・シーカ工房の社長だよ。聞いたことあるだろ?」
ソクロは、ローランドの方に向き直った。
「それはともかく…。ちゃんと伝えなければいけませんよ。そのことをちゃんと伝えれば、大丈夫。ミミカさんは、気立てのいいお嬢さんですからわかってくれます…。」
ローランドは、泣いている。
「俺だってさ、女なんか百人は抱いてきたよ…。でも、今回はそういうんじゃねぇんだ。言葉が出てこなくてさ。彼女の前に出ると、頭が真っ白になっちまう…。」
ゼクは、黙って聞いていた。
ソクロは、ローランドの肩に手を置いて、慰める様に語りかけた。
「ローランドさん、私が手伝います…。二人で、その気持ちをミミカさんに伝えましょう。」
ローランドはソクロに伴われて、まだ食堂に残って本を読んでいたミミカの所に行く。
ローランドは、三つのことを誓った。
一つは、このパールのイヤリングは手作りだということ。
一つは、生まれて初めて本気で人を好きになったこと。
一つは、浮気なんて絶対しないし、君以外の女性とは話さないということ。
ソクロは、ローランドに聖書に手を置かせ、神の名の元に誓わせた。
ミミカは、アルコールの匂いには当然気付いている。
お酒の勢いか…、ダメな人。
ミミカは、「お友達からなら…」と返事をした。
ローランドは、天に昇る様な夢見心地だった。