Black Swan -overload- 16

夜、ブラック・スワンは夕食を食べた後、甲板で酒を飲んでいた。
ゼクとローランドは、船に積んであるラム酒
ソクロは、自分の持っているカルヴァドスだ。
雑誌「東洋経済」を眺めながら、チビリチビリと舐める様に飲んでいる。
「今回の任務は、最初こそ大変でしたが…。今の所は順調ですね。」
ゼクはグラスを傾け、一気に飲み干す。
「まだ油断は出来ねーな。ザハイムが、何を考えてるのかわかんねーし。」
ソクロは、ほんのり赤い顔で言った。
「聖コノン騎士団はどうですか?あそこのセトさんは、なかなか優秀じゃないですか。」
ゼクは飲むと、顔が白くなる。
「セトか…。何か狙いはあるんだろうが、まあ信用できるだろう。」
ソクロは、酒を手酌で継ぎ足した。
「彼は、シロだと考えてます?」
ゼクは、煙草に火を点ける。
「多分、あいつは任務に忠実なだけだ。ガウェインの部下だろ?それなら、問題はないさ…。」
ソクロは、気分が良さそうだ。
「それならば、私もやりやすいです。人を疑うのは、難しいですよ。」
ゼクは、長く煙を吐き出した。
「俺だって、神様じゃねーんだ。全部わかってるわけじゃねーからさ。」
ソクロは、微笑んだ。
「それでも、やはり…。」
「トルカちゃ〜ん!!」
ローランドは、突然立ち上がって夜空に吠える。
ゼクもソクロも、驚いてしまった。
「あー、びっくりしました。」
「何だよ、急に。」
ローランドは、グラスに残っていた酒を一気に飲み干すと、二人に向かってまくし立てた。
「ど〜してトルカちゃんは、俺のこのピュアな気持ちをわかってくれないんだ!このパールのイヤリングだって、俺が精魂込めて手作りしたっていうのに…。」
ゼクはニヤリと笑い、グラスを傾ける。
「や〜っぱ、そーだったか。」
ソクロは、真面目な顔で聞いていた。
「そうだったんですか…。でもローランドさん、それは店で買ったって言ってましたよね?」
ローランドは、うつむいた。
「だって、お前…。」
ソクロは、その顔を覗き込む。
「だって、何です?」
ローランドは、顔をクシャクシャに歪めて、吐き出す様に言った。
「恥ずかしいじゃねぇか!」
ゼクは、吹き出してしまう。
「何だよ、気持ちわりーなあ…。」
ソクロは、ゼクを諌めた。
「そんなことを言ってはいけません、ゼクさん。ローランドさん、そんなに真剣だったんですか…。それにしても、その技術はどこで?」
ゼクは、煙草を軽く吹かす。
「こいつの親父は、騎士団に武器や甲冑を納めてる最大手の、デ・シーカ工房の社長だよ。聞いたことあるだろ?」
ソクロは、ローランドの方に向き直った。
「それはともかく…。ちゃんと伝えなければいけませんよ。そのことをちゃんと伝えれば、大丈夫。トルカさんは、気立てのいいお嬢さんですからわかってくれます…。」
ローランドは、泣いている。
「俺だってさ、女なんか百人は抱いてきたよ…。でも、今回はそういうんじゃねぇんだ。言葉が出てこなくてさ。彼女の前に出ると、頭が真っ白になっちまう…。」
ゼクは、黙って聞いていた。
ソクロは、ローランドの肩に手を置いて、慰める様に語りかけた。
「ローランドさん、私が手伝います…。二人で、その気持ちをトルカさんに伝えましょう。」
ローランドはソクロに伴われて、まだ食堂に残って本を読んでいたトルカの所に行く。
ローランドは、三つのことを誓った。
一つは、このパールのイヤリングは手作りだということ。
一つは、生まれて初めて本気で人を好きになったこと。
一つは、浮気なんて絶対しないし、君以外の女性とは話さないということ。
ソクロは、ローランドに聖書に手を置かせ、神の名の元に誓わせた。
トルカは、アルコールの匂いには当然気付いている。
お酒の勢いか…、ダメな人。
トルカは、「お友達からなら…」と返事をした。
ローランドは、天に昇る様な夢見心地だった。