Bkack Swan -overload- 21

ブラック・スワンとハウシンカ、トルカの五人は首都シュメクに到着した。
街の入り口、門の所に迎えの者が来ている。
騎士、それも将軍直属の者だ。
「ハウシンカ様ですね。ガウェイン様がお呼びです…。」
ハウシンカは静かに頷き、迎えの騎士の馬に乗り込む。
「取り敢えず、俺が行くぜ。」
ゼクは慌てて同行した。
騎士とハウシンカは、シュメクの高級住宅地といえる区画に入って行った。
「おいおい、スゲートコに入ってくな…。」
豪華な建物が並んでいる通りを進むと、その最奥部に一際巨大な邸宅があった。
「ゼク、ここで待ってて…。」
ハウシンカは馬を降り、騎士に手を取られて中に入って行く。
「おいおい、ハウシンカって…。」
ハウシンカは、ガウェインの書斎に通された。
「お久し振りです、お父様。」
ガウェインは、窓の外を眺めている。
「何の御用でしょうか。」
ガウェインは、ハウシンカの方に振り向くと切り出した。
「ハウシンカ、ザハイム研究所は辞めなさい。今すぐに。」
ハウシンカは驚いた。
何を言っているのか、わからない。
「ザハイムは、正常ではない。いずれ、お前の身にも危険が及ぶだろう。そうなる前に、ザハイムから離れておくことだ。わかったね?」
ハウシンカは、ようやく口を開いた。
「何を言ってるんです、一体何故…?」
ガウェインは、淡々と続けた。
「すまないな、詳しいことは話してやれん。しかし、大体の調べはついている。時期が来れば、お前もやがてわかるだろう。」
ハウシンカは、抵抗した。
「私達は、ただ研究をしているだけで…。」
ガウェインは、穏やかに諭している。
「今問題になるのは、お前達研究員のモラルではない。ザハイムの意図だ。そして、そこから考え得る現実的な可能性。それは既にカトラナズの国の平和を、脅かす段階に入っている。」
ハウシンカは、自分の言いたいことが言葉にならないもどかしさを感じている。
「聖遺物を、平和な目的の為に…。」
ガウェインは、断じた。
「事態は既に、進行し過ぎている。あまりにも後手に回ってしまった。我々は、じき動く。それまでに安全な所にいなさい。わかってくれ、ハウシンカ…。」
ハウシンカは、自分でも体が熱くなるのがわかった。
「お父様…。お父様は、そうやって何でも自分で決めておしまいになる。私個人の意志は、あなたにとって何なのですか?」
ガウェインは窓の方を向き、表情を隠した。
「個人の意志…。もう手遅れだ、ハウシンカ。お前が想像しているより、あの人物はずっと邪悪なんだ。それは…。」
ハウシンカは自分の結論を、ガウェインに突き付けた。
「私は、ザハイム研究所の人間です。これからも、研究所の一研究員として、ザハイム研究所の側に立ちその利益を図りたいと考えています。」
ハウシンカは頭を下げると、書斎を後にした。
ガウェインは使用人を呼び、一通の親書を手渡す。
「これを、セトの元にいるルカーシに…。信頼出来る者にな。」
ゼクは、のんきに声を掛けた。
「おー、どうだった?お前、スゲー金持ちなんだな!」
ハウシンカは、プリプリ怒っている。
「そんなことどうだっていいでしょ、下らない!」
ゼクは、面食らった。
「何怒ってんだよ?何か、言われたのか。」
ハウシンカは、こんな軽薄な男に話したいとは思わなかった。
しかし、腹が立って腹が立って、話さずにはいられない。
「何か、何てものじゃないわ!いきなり、私にザハイム研究所を辞めろって言うのよ!」
ハウシンカは先程の顛末を、ゼクにまくし立てた。
ゼクは、思案しながら答える。
「そうか…。将軍は、何か掴んでるだな?これで、騎士は味方につくか…。少しは、やりやすくなるだろう。」
ハウシンカは、イライラしている。
「あなた、まだそんなこと言ってるの?私達と一緒にいて、何かおかしいところが少しでもあった?不審なことをしてた?少しは、考えてよ!」
ゼクは、ガウェインと同じことを言った。
「研究員達は、みんな熱心にやってるだろう。
でも、ザハイムはどうかな?」
ハウシンカは、爆発しそうだった。
「私達の研究は、利益の為じゃない!純粋に、学術的なものよ!」
ゼクは、ピシャリと言った。
「聖遺物には、現実的な力がある。そして、その影響が及ぶ範囲は、相当広いだろう…。その意味を、わかってるのか?」
ハウシンカは、もう訳がわからなかった。
「聖遺物は、聖三位一体の力を受け取る器じゃない。聖三位一体は、善なのよ。それでも、何か起こるっていうの?」
ゼクは、鋭い目をした。
「ハウシンカ、その世界には完全なんてない…。善が、仮に絶対的な善だったとしても、世界を滅ぼす可能性はあるだろう。この世界は、バランスで成り立ってる。いいか?善意だって、それだけじゃ何かを滅ぼすだけなんだ…。」
ハウシンカは、体の力がスーッと抜けていった。
「あなたは、私の味方じゃない…。あなたは、わかってくれない!」
ゼクは、ハウシンカの頬を引っ叩く。
一息吐くと、ゆっくり語った。
「お前は、親父さんの親心がわかってねー。」
ハウシンカは、目に涙を浮かべて喚いた。
「あなたみたいな風来坊に、私の何がわかるって言うの!?お父様の所為で、私や母様がどんな思いをしてきたか、あなたになんてわかりっこない!!」
ハウシンカは、駆け出した。
「待てよ、おい!」
ゼクは後を追ったが、地理がわからない。
やがてハウシンカに撒かれてしまった。
「くそっ、どこに行った?全く、30才になっても親離れしてねーんだからな!」
ゼクは、道端に唾を吐いた。