Black Swan -overload- 34

医務室は、いっぱいだった。

だからゼクは、自室で治療を受けている。
とは言っても、大きな外傷があった訳ではない。
額の傷も軽く、体力を消耗していただけだ。
念のためということで、医師は安静を命じた。
ゼクは、ソニーウォークマンでJoao Gilbertoのアルバム「Um Encontro」を聴きながらベッドに寝転んでいる。
「つまんねー…。」
ゼクは、取り立てて趣味を持っていなかった。
だから、こうなってしまうとすることがない。
唯一望むことと言えば、煙草が吸いたい。
それぐらいのものだ。
外に出ようとすれば、誰か騎士に声を掛けて着いて来てもらわなければならず、消耗している今、それは本当に面倒くさかった。
「オナニーでも、するか。」
荷物の中からポルノ雑誌を取り出していると、誰かが扉をノックする。
「はいよ、開いてるぜ。」
ゼクは雑誌を取り出して、ベッドの上に投げた。
「…こんにちは。」
ハウシンカだった。
「何の用だよ?小言は、今は勘弁してくれ。」
ハウシンカは、目を伏せている。
首からは、ゼクが買ったネックレスをしていた。
「そんなんじゃないわ…。座ってもいい?」
ゼクは、ベッドに腰掛けた。
ハウシンカはまだゼクが一度も使ったことのない、部屋に備え付けの椅子を引いてきてベッドの前で座った。
「そんなの、見てるの?嫌ね。」
ゼクは相手にせず、ベッドの上に寝転んだ。
ハウシンカはそれきり、何も言わない。
何か言いたそうではあったが、ゼクが何か言うのを待ってるのかも知れなかった。
「俺は、煙草吸いに行くぜ?我慢出来ねー…。」
ハウシンカは、吐き捨てる様に言った。
「そこで、吸えば?」
ゼクは、イライラした。
そこで本当に窓を開けて、煙草に火を点けた。
下で巡回している騎士と目が合ったが、館内禁煙はザハイムのルールだ。
そのまま行ってしまう。
ハウシンカは無理に話題を探して、話し始めた。
「あなたって、戦うのが怖くないの?」
ゼクは煙草の煙を吐き出した。
「俺にとっては、日常だ。それが、当たり前だからな。」
ハウシンカは、そんな言い方は嫌だった。
「嘘よ…。セトは、怖いって言ってたわ。」
ゼクは首を傾げて、煙草を二、三回吹かす。
「怖かねーとは言ってねーよ。怖いのが、俺には普通なんだ。そうじゃないと、抱けない…。」
ハウシンカは、首を横に振った。
「あなたは、普通の生活に憧れたりしない?いつも同じ時間に起きて、同じ時間に出発する。同じ家に帰って来て、そこには同じ家族がいるの…。」
ゼクは、即答した。
「無理だな。俺の柄じゃねーよ。」
ハウシンカは立ち上がって言う。
「じゃあ、今だけそう思って。」
そのままゼクに覆いかぶさる様に、キスをした。
ハウシンカは永く唇を重ねた後、舌を差し込む。
首をかき抱き、愛撫する様に舌を這わせた。
そして離れると、言った。
「どう?これが、ちうちう💗よ。」
ハウシンカはゼクの隣、ベッドの上に座る。
ポルノ雑誌を放り投げた。
「こんなのより、本当のの女性の方がいいでしょ?」
ゼクは、吹き出してしまった。
腹を抱えて大笑いし、ベッド上にひっくり返る。
「あー、おもしれー!こんなに笑ったのは、久し振りだぜ。」
ハウシンカは憮然としている。
「あなたって、最…。」
ゼクは、唇を塞いだ。
ハウシンカは息が出来ない。
そのまま優しく、抱き締める様にベッド上に仰向けにされてしまった。
「まだ、早いとは思うけどな…。戦いの後は、抱かずにはいられねーからよ。」
ハウシンカは、か細い声で言った。
「愛してるって言って…。それだけ、お願い…。」
ゼクは、ため息を吐く。
「今さら、何言ってんだよ…。」
一瞬だけ、ちゃんとした顔をした。
「愛してるよ。気持ちは、もうずっと固まってたんだ。」
ゼクは、軽く口づけした後激しく抱いた。
戦いで人を傷付けた苦しみに立ち向かうには、そうするしかない…。
敵を斬る、その手応えは手に残って消えないのだ。
斬られた者の「怨み」は、斬った者の心に刻まれる。
痛みは、…伝わって来る。
その行為がどれだけ義しく正当であっても、「人殺し」には違いが無かった…。
同じ手が乳房を掴む、秘部を弄ぶ。
その「傷」にエロスから立ち昇る香気が、癒す様に染み込んでいく。
人を殺した「罪」が、人を愛する事で赦されるのか?
それは、誰にも答えられない…。
「ゴメン、ゼク。お願い…、舐めて。」
ゼクは、ハウシンカの薔薇の蕾に実った柘榴の実を口にした。
たわわな実りから、たっぷりとしたバターのよ〜な悦びの果汁が溢れ出す。
ハウシンカの赤く染まり芳しく香る引き締まった「女性」を、ずっと美しく愛おしいと信じた。
その悦びが、束の間それを忘れさせた。
忘れなければ、夜を越えられない。
「私にもおとのさまがちゅきちゅきだからちゅ〜ペットをさせて…。いや?」
ゼクは首を横に振り、ハウシンカは上になってゼクの陰茎を口に含む。
熱が、舌を伝わってきた…。
薄くて透明な液体が、先端から溢れている。
切ない気持ちで、舌を這わせる。
やがてゼクは、ハウシンカを仰向けに寝かせて愛し始めた。
「く、苦しい…。」
ハウシンカは呻く。
「痛いか…?」
ゼクは、ハウシンカに声を掛けた…。
「ううん、いいの…。気持ちいい…。」
ハウシンカは、激しく声を挙げた。
自分の気持ちを、声にしたかった。
部屋の外には、見張りの騎士がいる。
きっと聞こえるだろう…。
それでも構わなかった。
初めて、プライドを捨てたのだ。
心に兆した、大切な「何か」を取ったのだ。
そんなこと、大したことじゃないわ…。
「私も…、私も愛してるゼク。」
ハウシンカは自分が存在する実感を、ゼクの愛撫と挿入、そして繰り返される接吻から感じていた。
「…そんなコト、わかってるよ。」
ゼクという異物に、自分が少しずつ溶け出していくのがわかる。
溶け出した心が、悦楽の噴水として溢れて流れるのだ。
それが再び形成される時…。
それはもう自分であっても、自分一人ではない。
彼は彼であっても、彼だけではない。
「愛してるって言って…ゼク、お願い!!」
「別に構わねーよ、何度でも言ってやるさ…。…愛してるハウシンカ、誰よりも。俺が愛してるのは、お前だけだぜ…。」
波の様に迫り上がってくる甘く貴い感情が、ハウシンカを溺れさせる。
それと同時に…、愛に充たされるコトで本当の自己に向き合う本当に怖い気持ち…。
ゼクは、ハウシンカを本当に守りたいと思った。
そして全てが変わり…、何も変わらないだろう。
恋愛、友愛、親子愛に作品への愛と他にも様々あるが…。
そう、…愛だけが真実なのだ。
愛し合っていれば…、きっと何とかなると信じて!!
現在を生きよう…。
未来はきっと、そこにあるから!
愛が、明日への足掛かりになる!!!
それは、もう少しだ…。
だから…、やがてハウシンカがオルガズムを迎えると同時にゼクもピュッピュした。
「そんなことより踊ろうゼ」 ザ・チャレンジ
 
おまけ
さすがにセリフの途中で解説を入れると興ざめだと想うので…、ここで少し補足を。
「おとのさま」は英語なら「My prince」でしょうね中国語なら「君子」かな、訳されたい方がいらっしゃるならばこれを元に…。
ぼくとしてはこのゆい方、…世界中に浸透して欲しいですね。
…女性が愛されたいダーリンのおチ◯チンをどう呼ぶか?、それは「愛」に於いて非常に重要な問題だとぼくは考えるのです。
だから、おチ◯チンは拳銃のメタファーではありません…、「愛のシンボル🥳」です!!!