読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Black Swan -overload- 36

セトとハウシンカは、二人きりで部屋にいた。
セトは静かに、しかし断固とした口調で要求した。
「ハウシンカ…。これで、最後。君へのお願いは、これで最後にしよう。ぼくは、君を傷つけたくない。"真理の書"を渡してくれ。…君が持ってるんだろう?」
ハウシンカは、ゆっくり首を横に振った。
「渡さないわ…。これは、私の全て。私の誇りよ。」
セトは下を向いたまま、表情を見せない。
「君の気持ちは、わかった。こちらとしても、取るべき手段を取らせてもらおう。後悔しても、もう遅いんだ…。」
ハウシンカは、セトを真っ直ぐ見詰めた。
「もしかしたら、私が意地を張ったって結果は同じことかも知れない。でも、譲れない…。あなたがわかってくれても、くれなくても、私は譲れないのよ!」
セトは返事をせず、部屋を出た。
部屋の外には、待機させておいたルカーシが指示を待っている。
「後は頼む。人を集めて、捜索してくれ…。その間、ハウシンカの話し相手にでもなってくれないか?」
ルカーシは、敬礼した。
「ハッ!了解しました。」
それから数分後、ゼクの部屋の扉をノックした者がある…。
「何だ、ルカーシか…。何の用だよ?」
ルカーシは辺りの様子を伺うと、素早く部屋の中に入った。
「ゼクくん、時間がない。用件に入ろう…。」
ゼクは既に、何かを嗅ぎつけている。
「仕事の依頼だ。ただしこれはブラック・スワンではなく、君個人への依頼になる。やってくれるか?」
ゼクは、甲冑に着替えを始めた。
「いいぜ、やるよ…。すぐなんだろ?」
ルカーシは少しだけ、緊張がほぐれた。
「流石に、話が早い。」
ルカーシは椅子に腰掛けると、詳しい話をする。
「仕事の内容は、単純だ…。ハウシンカ様を連れて、このオルト島を脱出してほしい。」
ゼクは、さすがに驚いた様だ。
「騎士団相手か…。メンドくせーな。」
ルカーシは、話を続ける。
「ハウシンカ様には、もう話をつけてある。…一も二もなく承諾されたよ。」
ゼクは、籠手を装着した。
「ふーん、そうか…。」
ルカーシは、椅子から立ち上がる。
「どこに向かうのか、それはハウシンカ様に聞いて欲しい。必要な物は、全て港町ミルムで受け取ってくれ。この親書が、証明書代わりだ…。」
ルカーシはゼクに歩み寄り、両手を握った。
「すまない、ゼク君。ハウシンカ様を、よろしく頼む!」
ゼクは、既に準備を整えている。
「ま、俺の都合もあるしな…。」
ゼクとハウシンカは、ルカーシの手引きで発掘現場を脱出した。
さすがにルカーシは聖コノン騎士団の副長だけあって、トラブルなく外に出ることが出来た。
二人は大きく迂回する山道を通って、港町ミルムに向かう。
ルカーシは、却って人の多いミルムから船に乗ったほうが素性を隠しやすいと考えたのだ。
「全く、お前ときたら…。自分がやってること、わかってるのかよ?」
ゼクは、ハウシンカに話しかける。
「ごめんなさい…、私のわがままにつき合わせちゃって。でも、どうしても抑えられなかったの。」
ゼクは拍子抜けした。
いつものハウシンカなら、ポンポンと威勢のいい返事が帰ってくる…。
「で、どうするんだ。オルト島を出て、どこへ行く?」
ハウシンカは、下を向いた。
「シュメク…。首都シュメクに向かうわ。」
ゼクは呆れる。
「何だよ!親父のところに行くなら、セトに相談すればいいじゃねーか。」
ハウシンカは、顔を上げて言った。
「違うのよ…。ザハイム研究所の本部へ行くの!」
ゼクは、ハウシンカの「何か」に気づく。
「どうするんだ?そんな所に行って…。」
ハウシンカは何かをこらえる様に、言葉を絞り出した。
「私、確かめたいの…。自分の目で。ザハイムという人が、本当に何を考えているのか…。ちゃんと話をしたい。その答えによってはこれは、"真理の書"は…。」
ゼクはハウシンカの方を向き、ゆっくりと話す。
「わかった…。でもな、騎士団を相手にするんだ。厳しい旅になるぜ?覚悟はしろよな。」
ハウシンカは、朗らかな笑みを浮かべた。
「私、がんばる…。足手まといには、ならないから。」
ゼクは、ため息を吐いた。