Black Swan -overload- 40

ザハイムとハウシンカは、赤き竜の頭に乗り発掘現場の上空にいた。

「さあ、そろそろ行きましょう…。楽しみね。ウズウズしちゃう。」
ザハイムは長い舌で、唇を舐める。
ハウシンカは、そんな様子を黙って見つめていた。
赤き竜は、ゆっくりと下降していく。
発掘現場の人々も、赤き竜が降りてくることに気づいた様だ。
研究員やヘムの村の中住人達は建物の中に避難し、武装した騎士達が駆け出してくる。
その中には、もちろんセトもいた。
「総員、攻撃は控えろ!まともにやり合っても、勝ち目はない…。むやみに刺激するな!」
セトは、大声で騎士達に呼び掛ける。
騎士達は大きな輪を描く様に、赤き竜を取り囲んだ。
その中心に、赤き竜は大きな地響きを立てて着地した。
「パーティーの始まりよ…。さ、私達は主賓なんだから。おめかししなくちゃ、恥ずかしいわ。」
ザハイムに手を取られたハウシンカの体は宙に浮かび上がり、騎士達の真ん中に降り立つ。
ハウシンカは、セトに向かって叫んだ。
「セト!ゼクが、ゼクが大変なの…。このままじゃ死んじゃうわ!」
セトは息を吸って、気を落ち着ける。
「ゼクくんは大丈夫だ…。既に搬送してある。医務室で手当てを受けているんだ。しかし君は、何故…?」
ハウシンカは、口ごもった。
「何故って…。私はゼクを殺すって言われて、それで仕方なく…。」
ザハイムは、二人の間に割って入った。
「そんなことどうでもいいじゃない?後で、ゆっくりお話させてあげるから…。そんなことより、私の研究員達を呼び集めてちょうだい。」
セトは、苦々しげに言った。
「ぼくが、従うとでも…?」
ザハイムは、ニッコリと微笑んだ。
「あなたに、状況が理解出来ているならね?」
セトは、ザハイム研究員達を呼んだ。
彼らを前にして、ザハイムは指をパチンと鳴らす。
地面に描かれた魔法陣のうえに、神聖な四つの聖遺物が現れた。
「これをセットなさい…。いつも、やっていた様に。急いでね?私は、もう待ちくたびれちゃったわ。」
研究員達はお互いに顔を見合わせていたが、一人、また一人と聖遺物を手に取り、転送機へと向かう。
ザハイムはセトの方へ向き直ると、明るく言った。
「じゃあ、この間に二人の関係を整理しましょうか?色々と、こじれちゃってるみたいだから…。」
ザハイムはハウシンカの喉元を押さえると、ハウシンカに呼び掛けた。
「先ず、ハウンシンカから…。ハウシンカ、あなたが好きなのは一体誰?」
ハウシンカは、首を激しく振って叫んだ。
「そんなこと言える訳ない…!」
ザハイムは、腕に力を込めた。
だが、ハウシンカは言わない。
ハウシンカの顔色が、青く変わった。
「彼女から、手を離せ!!」
セトが剣を抜くと、その足元に七色の光が走る。
「くそっ!」
セトは、踏み込めなかった。
「早く、そんな物はしまいなさい。」
セトは止むを得ず、剣を鞘に収める。
「もう…。強情ね!じゃあ、こういうのはどう?」
ザハイムはハウシンカの喉元から手を離し、その手で乳房を鷲掴みにする。
ハウシンカは激しくむせた。
それが収まるのを待って、ハウシンカの唇を舌でゆっくりと舐める。
「このまま、続けて欲しいのかしら、この娘ったら…。いいわよ、そこの元彼に最後まで見せてあげる?」
ハウシンカの背筋に冷たい物が疾る。
その頬を、涙が伝った。
「ゼク…。ゼクよ!ゴメン、セト。私はゼクが好きなの…。」
セトは、何も言わなかった。
「あら、何にも言わないの?そうよね、自分がしてることを振り返ったら、今更言うことなんて…。」
セトは、悔しそうに身を震わせている。
「あなただって、正義漢ぶってるけど…。私、というよりこの赤き竜よね。この赤き竜の報告が入った時、一番最初に何をしたの?」
セトは、ザハイムを睨みつける。
「あら、怖い顔…。そんな顔も出来るのね。言ってあげましょうか?あなたの部屋に、誰が隠れているのか。嫌ね、16のガキなんか部屋に連れ込んで…。そういうの、公私混同って言わない?」
セトは、剣に手を掛けた。
「彼女に、エマに手を出す様なことがあれば…。」
ザハイムは、見下す様に言う。
「ほら、本音が出た…。ハウシンカの時とは、随分違う剣幕ね?このロリコンさんは。」
そこにミミカが、ゆっくりと歩いて来た。
「所長…。いえ、ザハイムさん。私達で出来る準備は整いました。後は、主任の指示と"真理の書"か必要になります…。」
ザハイムは、ハウシンカに告げた。
「あらかじめ言っとくけど、この場にいる全員を焼き殺されたくないなら早くしてね。私は、あんまり気が長くないの…。いい加減、理解してちょうだい?」
ハウシンカはうつむいたまま、転送機へと向かう。