気になる二人

オープニング…

「少女ジャンプ」 東京カランコロン

東京カランコロン「少女ジャンプ」 - YouTube

 

西澤龍平(ゼロム)と坂本美姫(ファロム)が長野県の藤沢村でそッと結ばれてから、数年の月日が流れた。

二人の現在は…。

龍平は運送会社の倉庫で正社員として働き、美姫は大学生に成っていた。

龍平が高校時代に軽音楽部の友人達と立ち上げたバンド、「くつしたず」は幾度かのメンバー・チェンジを繰り返し今に至る。

「くつしたず」は地元ではそこそこ有名な存在になっていて、小さなライブ・ハウスなら満員に出来た。

あれから龍平は実力を付け、バンドのメイン・ソング・ライターとしてもギタリストとしても日々奮闘している。

メインのギターは、相変わらずジャパニーズ・ヴィンテージのTokai Silver Starだ…。

龍平のTokai Silver Starは、主に電気系統とペグ・ブリッジ周りをカスタムしている。

ギターの価値もわかる様になってきた。

それなりに色々試してはみたのだが、何のかんのと言って結局これに落ち着くのである。

美姫は作詞はしていたが、ステージに上がる事はなかった。

さて、美姫は昔からある古〜い喫茶店で人を待っていた。

その人物は龍平ではない。

龍平の運送会社での同僚で、美姫と共通の友人でもある石塚虎彦である。

「だからもう…、遅いなぁ。」

美姫が腕時計に目をやると、待ち合わせの時間から15分が経過していた。

「いつもなんだよね。まぁ私が呼び出してるから、あまり文句は言えないんだけど…。」

するとカランカランと喫茶店のドアが開き、ディスク・ユニオンのレコード・バッグをパンパンに膨らませた虎彦が入って来る。

「おう!悪かったな…。ユニオン(ディスク・ユニオン)を、三件ハシゴしててな。時間が掛かっちまったよ。」

美姫は、プリプリとほほを膨らませた。

「もう、遅ーい!!15分も待たせて…。私を何だと思ってるの?」

虎彦は早速ゴールデン・バットを取り出すと、火を点ける。

「だから謝ってるじゃないか…。悪かったな、でも15分だろ?死ぬワケじゃあるまいし、小さな事にコダワるなよ。」

これだ…。と美姫は思った。

虎彦は、時間の感覚に疎い。

「レコードよりさ、友達の方が大事でしょ?」

やって来た店員さんに、虎彦はブレンド・コーヒーを注文する。

「いや…。レコードの方がいいさ。レコードは、ペチャクチャおしゃべりしないしワガママを言う事もない。針を落とせば、素直に美しい音楽を流す…。」

虎彦はレコードであれば、何のジャンルだろうと構わなかった。

ジャズ、エレクトロ、オルタナティヴ…。

何でもいい。

レコードの音色が好きだったのだ。

「その話は、まぁいいんだケド…。あのね、龍平のコトなの。」

虎彦は、おしぼりで入念に手を拭いている。

「どうした、痴話ゲンカか…?犬も食わないとは、よく言ったモノだ。それにしても珍しいな。あんな誠実な男が…。」

美姫は、首を横にブルブルと振るった。

「違うの…。そんなんじゃないの!!龍平はいつも優しいし…。」

虎彦は、置いてあるマッチをポケットに二つ入れる。

「じゃあ、何だ…。会社では、一番よく働くよ。人の二倍は働くな。アイツが来てから、ずい分と助かってるよ…。」

美姫はうつむいて、ポツリポツリと切り出した。

「あのさ…。何か最近、元気ないと思わない?」

運ばれて来たコーヒーに、虎彦は口を付ける。

「そりゃあ、疲れてるだろうよ。平日はウチで仕事だし、休日はライヴだろ?いくら若いったって、限界はあるからな…。」

美姫はもう一度、首をブルブル振るう。

「そうじゃなくて…。何かさ、後ろめたいから優しいっていうか。いつもと違うっていうか…。」

虎彦は、美姫の悩みをさほど汲み取らなかった。

「後ろめたい?おいおい…。そう回りくどく言われても、何の事だかさっぱりわからんよ。ハッキリ言ってくれ。何がおかしいんだ?」

美姫は、そッと打ち開ける様に呟いた。

「龍平…、きっと他に好きなコがいるの…。わかるでしょ?」

虎彦は、コーヒーにムセた。

「お前バカか、またそんな!?あんな一本気な奴を捉まえて…。男として言わせてもらうがな、アイツが浮気するなんて金輪際存在しない!!」

虎彦の断定に、美姫は食い下がる。

「だって、…だから証拠があるモン!!」

虎彦は、テーブルをバン!と音を立てて叩いた。

「そんなモンあるか!!この話はオシマイだ!」

美姫は下を向いたまま、まだ何かをブツブツ言っている。

そんな美姫の様子を見て、虎彦はニヤリと笑った。

「ホラな…。これを見ろ。」

それは何と!!

Cannonball Adderleyの名盤、Somethin' Elseだったのだ!

「これはな…。オリジナル盤なんだぜ?それが見ろよ…。」

虎彦はSomethin' Elseのジャケットに、手を入れる…。

「ホラ、見ろよ…。ここだよ、ここ!!ここのインナー・スリーブがちょこっと裂けてるだろ?たったこれだけの傷で…。幾らだと思う?」

虎彦の話は尽きる事を知らない…!

 

テーマ曲…

「Take The A Train」 Duke Ellington

Duke Ellington, "Take the A Train" - YouTube