オープニング…
「Oui Oui」 Buffalo Daughter
Buffalo Daughter - Oui Oui - YouTube
…ハウシンカは、妊娠していた。
それは勿論、…ゼクとの子供で。
国立聖三身一体研究所の仕事は…、まだ続けている。
当然の事だが、ゼクはほとんど家には帰って来なかった…。
冒険者の仕事が忙しく…、ほうぼうを旅して回っていたのだ。
…ハウシンカにとって、それが寂しくないと言えばウソになる。
仕事が忙しいのはありがたい事だったが、一緒にいたい時もあったのだ…。
その点、…同僚のトルカがうらやましく思えてしまう。
…ローランドは既に冒険者を辞めていて、デ・シーカ工房を継いでいたから…仕事が終われば家に帰って来る。
トルカが妊娠したという話は…、まだ聞かない。
ある晩、ハウシンカは夢を見ていた…。
あちこちで花が咲き乱れる、…草原を歩いていた。
…気分が良かった。
日常の憂さを全て忘れられる様な…、そんな情景だった。
しばらく行くと、少年が立っていた…。
少年は…旅人の様な衣装に身を包み、…遠くを見詰めていた。
「あなたの名前は、ニル…。」
ハウシンカは…、思わず口にする。
…何故と問われても、これは夢なのだから答えようがない。
「…あなたは、ぼくに名前を着けて下さった。だからぼくは、…あなたを親しい人として歓迎しようと想う。」
ニルと名着けられた少年は、懐から笛を取り出すと…流れる様な息吹でそれを奏でた…。
ニルの笛に…まるで操られる様に…、ハウシンカの記憶は鮮やかに蘇り…その過去が走馬灯の様に映し出されていった。
…翌日ハウシンカは、国立聖三身一体研究所に出勤する。
ハウシンカの胸には…もう既に聖三身一体のお徴は無く、…ゼクから以前もらった崇高善メローミルネのそれが光っていた。
「おはようございます…、主任。体調は、…どうですか?」
トルカは挨拶をすると、ハウシンカの体調をいたわった…。
…あの冒険の旅が終わってから、トルカとは大分親しくなっていた。
ハウシンカは何事かあると…、トルカに相談を持ちかけている。
「…昨日、変わった夢を見ちゃって。」
ハウシンカは、昨日見た夢の話をトルカにする…。
トルカは黙って聞いていたが、…口を開くとこう言った。
「だから…きっと…、いい夢ですよ。産まれて来る赤ちゃんが、…お母さんにあいさつにやって来たんじゃないですか?」
…ハウシンカにとって、トルカのこうしたある種のファンシーな解釈は…もう鼻につかなかった。
むしろ、…彼女の人柄の良さを示している様に感じられる。
次の日も…、同じ様な夢を見た。
ニルの吹く笛の音に合わせる様に、古い記憶が蘇った…。
…幼い頃のハウシンカ。
父であるガウェインも、…ゼクと同じだった。
時折しか帰って来ない父を…、ハウシンカは楽しみに待った。
ある時ガウェインは、瞳の青い人形を抱えて帰って来た…。
…幼いハウシンカは大層喜んで、その人形にメルリンちゃんと名着けて大切にした。
いつに間にか笛を吹く事を止めていたニルは…、ハウシンカに向き直って言う。
「あなたは、愛されている…。…多くの人達から、確かにだから。」
翌日…正統教会に提出するレポートをまとめているハウシンカに、…トルカがやって来て話しかけた。
「夢、…まだ見ます?」
こういう娘なのだ…。
いつも他人の心配をしていて…、自分の事は後回し。
「…見るわ。昨日は、こうだったの…。」
…だからハウシンカの胸に、母になる自信が…少しずつ育って行く。
テーマ曲…
「Ocean Of Night」 Editors
Editors - Ocean Of Night (Official Video) - YouTube
おまけ
こんにちは、森沢修蔵です…。
この作品は…、以前構想したアイディアが余っていたので…書いてみました。
妊娠という…割と男であるぼくにとって縁遠いモティーフを選んで書いてみましたが、…どうだったでしょうか?
…とても短いハナシですが、ある種の情景は描けたかなとは考えています。
久し振りなんですが…、やっぱりたまにはみなさんに読んでもらいたいなと想って…つい書いてしまいました。
そういえば…。
このブログの表題…、ootmarsumとは何なのか…わからない方もいらっしゃるかも知れませんね。
…ぼくの愛喫している、煙草の銘柄から取ってるんです。
その名も、…STAD OOTMARSUM。
だからぼくは、(白)を喫っています…。
とっても美味しい…、手巻き煙草です。
それでは、失礼します👋。