再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その28

「で…、結局。そのアイス・ティー、おれが買い取るコトになっちゃったワケよ…」

16号沿いの、…深夜のファミリー・レストラン。…先日の「コーヒー庵」での失敗を、笑いながら純平に話す良太。

「ははは…、そりゃ災難だ。だが、店長のゆ〜のにも一理ある…。小さくとも、…お店にとって損失は損失だからな」

…「マイルド・セブン」の灰を、純平は灰皿に落とした。

「まぁ…、おれもそ〜考えたよ。だから、支払ったんだ…。だけど店長の厳しさは、…悪意とは違う気がする」

…良太は、味わいも香りも「コーヒー庵」で。店長が淹れるコーヒーとは比較にならない…、お代わり自由のコーヒーをごくごく飲み干す。

「やっぱり、お前もそ〜想ったか…。おれもあの店長の淹れる、…コーヒーの美味さは知ってる。…あんなゆいお仕事為さる方が、そんなツまらない意地悪するハズがない」

続けざまに…、も〜一本「マイルド・セブン」に火を点ける純平。

「正社員の伊藤さん、ほらあのいつもホールにいる…。あの人は、…おれに。…"君を買ってるからだよ"、なんてゆってたケドあの人優しいからなぁ。純平…、おれ煙草買って来る」

店員さんに一言告げて、入口に備えつけてある…。自動販売機で、…良太は新しい「セブン・スター」を購入した。

…「だが、昨今の世の中じゃ。そ〜ゆう方は…、やりにくかろ〜。気骨のある方が、最近めっきり少なくなった…。それに代わって、…自分の出世しか頭に無い。…小モノばかりが、やたら跳梁してるからな。お前はゆいバイト先見つけたよ…、良太」

純平は、コーヒーを飲も〜として…。中身が、…空なのに気づく。

…「確かに、"コーヒー庵"でのアルバイトは楽しい。最近…、正社員の伊藤さんが。"好きな音楽かけてゆいよ"って、ゆったから…。勝美さんのお父さんに作ってもらった、…Jazzのカセット・テープ持ち込んでるんだ」

…良太のコーヒー・カップも、空なのを純平は見つけた。

「お前…、何でお代わり頼まないんだ?」

良太は驚いて、「セブン・スター」の灰がポロリと落ちる…。

「あっ、…やっちゃった。…いや、店員さん忙しそ〜だろ。落ち着いたら…、と想って」

落とした灰を、良太はおしぼりで拭った…。

「お前、…自分が接客のアルバイトしてるからって。…気を遣ってど〜する、今はお客さんだろ」

純平も…、そ〜ゆったモノの店員さんが。別のテーブルで、注文を取り終わるのを待つ…。

「ところで、…全然話題にのぼらんが。…大学はど〜したんだ、お前?」

あまり聞かれたくないな…、と思う良太。

「えっ、現在ラグビー・サークルから…。猛烈な勧誘受けてる、…ウチの大学ラグビー強いから」

…やって来た店員さんに、純平はコーヒーのお代わりを頼んだ。

「やったらゆいじゃないか…、また柔道とは目先が変わって。楽しいかもわからん、モノは試しだ…」

良太は、…「セブン・スター」のソフト・パックを開ける。

…「も〜スポーツはい〜よ、とはゆってもやりたい"何か"があるワケじゃないし。何なら…、バンドでも演るか」

「セブン・スター」に火を点け、煙を吐き出す良太であった…。

 

 

 

 

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その27

…「じゃぼく、外でお昼食べて来るから。あ〜おなか空いた、…じゃ良太くん。しばらく、お一人でホールよろしく…」

それだけゆい残すと…、正社員の伊藤さんは車でどこかへ。…お昼やすみに、出かけてしまった。9月の「コーヒー庵」、…良太初めてのホール独り立ちである。

「緊張するな、ど〜しょう…。何もないのを…、祈るしかない」

…とはゆえ、キッチンには店長がいるのだし。レジ業務も、…店長がやってくれるのだから。と良太は、そ〜考えて自分を落ち着けよ〜とした…。

「良太…、しっかりしろよ」

…キッチンから、店長が檄を飛ばす。これからの時間は、…お昼時程。忙しくはないが、何分喫茶店だから…。食事時からは外れても…、混む時はそれなりに混むのだ。…そして、今日はまさにそんな日だったのである。

「"ほどよいバランスのコーヒー"、…一杯出るぞ良太」

良太は、ホールとキッチンを結ぶカウンターから…。ホット・コーヒーを受け取ろ〜とすると…、お客さんがまた入店された。…これで3組目である、も〜良太の頭はいっぱいいっぱいだ。

「いらっしゃいませ、…お客さま。少々お待ち下さい、ただ今お冷やお持ち致します…」

コーヒーが冷めてしまっては…、と良太は先ず急いでホット・コーヒーを。…1人目のお客さんに、持ってゆく。それから3組目の、…お客さんのテーブルにお冷やを3つ運び。そして2組目の、お客さんのご注文を受けた…。

「ご注文繰り返させていただきます…、アイス・コーヒーお二つ。…ミル・クレープお一つ、いちごのショート。ケーキお一つで、…お間違いございませんか?」

携帯した端末を操作し、今の注文を送信する…。そこから…、さらに3組目のお客さんから呼ばれて注文をうけたまわり。…そのあと、2組目のお客さんにアイス・コーヒーをお持ちしたのだが。

「ウチじゃないよ、…"何か"の間違いでしょ〜?ウチは、アイス・コーヒーとアイス・ティーだから…」

が〜ん…、と良太は大ショックを受けた。…しかし、モタモタしてるヒマはない。慌てて店長に報告し、…アイス・ティ〜を一杯淹れてもらった。まだまだ忙しく立ち回り、よ〜やく一段落してから…。良太は一服しよ〜と…、休憩室の前の。…お客さんから陰になってる場所で、ポケットから。「セブン・スター」を取り出す、…するとカウンターのうえに置きっ放しになってゆた。アイス・ティーを、キッチンから指差して店長はゆった…。

「そのアイス・ティーは…、お前の責任だぞ。…お前、買い取れよ良太」

えっ、…と想うが。店長の語る内容は、全く正論であるから…。とレジを打ってもらい…、お金を支払う良太。

… (ウチの、アイス・ティー美味しいな)

「セブン・スター」を吹かしながら、…ヌルくなったアイス・ティーを。悲しみと共に飲んでいるウチに、正社員の伊藤さんが帰って来た…。

「ど〜だった良太くん…、楽勝だったろ〜?」

良太は、早速今の出来事を正社員の伊藤さんに話す…。良太の話に、…正社員の伊藤さんはこ〜答えた。

…「ぼく、店長とは付き合い長いから。店長の感情表現は…、初めてだとわかりづらいんだ。あの人、"このコ見込みあるな"と品定めしたら…。厳しく当たって、…鍛えよ〜とするのさ。それが、…店長流の人の育て方なんだよね。他のコ達は、買い取ってなんかいないよ…」

正社員の伊藤さんの…、答えは良太にはピンと来ない。…しかし良太は、自分をよいしょしても。何にもならないな…、とは考えた。

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その26

ビッグ・リボウスキ、とっても面白かったですね…」

月日は9月に入った…、まだまだ残暑が厳しい頃。…良太は、勝美を誘い銀座までデートに来てゆる。「シネスイッチ銀座」から出て来た、…良太と勝美。

「単館モノの映画って、おれ初めて観るけれども…。やっぱり独特の世界だ…、でも楽しめたよ」

…「ビッグ・リボウスキ」は、良太のアルバイト先である。「コーヒー庵」の正社員の伊藤さん、…おススメの映画だった。正社員の伊藤さんは、大の映画好きなのである…。

「勝美さん…、そこのドトール寄ってかない?…おれ、ちょっと煙草吹かしたいんだ」

時刻は午後3時過ぎ、…ティー・タイムにはちょうどよかった。良太はアイス・コーヒー勝美はアイス・ココア、そして二人で食べよ〜と…。チーズ・ケーキを…、割り勘で注文する。

…「ビッグ・リボウスキは、現代のアメリカが舞台なのに。すごく不思議でさ、…まるでファンタジー映画みたいだ」

テーブルを挟んで、向かい合わせに座り…。それぞれの飲みモノを口にしながら…、先程観た映画の感想を述べ合った。…ちなみに、このあとのデート・プランは。良太には特にない、…このままこのドトールで。何となく、時間を潰そ〜と想ってゆる…。ところが…、勝美が。

…「良太くん、私このあと。三越デパートが、…見てみたいです」

と、申し出た…。モチロン…、良太には断る理由はないから。…「セブン・スター」を、都合二本吹かしたらドトールを出た。歩いてすぐの、…三越デパートの入口では。あの有名な、ライオン像が待ち構えている…。

「おれ…、何か緊張して来ちゃった。…春日部の、西武デパートとは勢いが違う」

三越デパートの、…高級なたたずまいに。圧倒される良太、勝美はそれ程気にならないのか…。先頭を切って…、中に入ってゆった。

「うわっ、…すごいなこのくつ下。1足3万円だって、普段どんな生活してるんだろ〜…?」

良太は…、とんちんかんな感動を覚えているが。…こ〜したいわゆる、ラグジュアリーなブランドに。心のどこかで、…憧れる勝美。

「すいません、試着してみたいんですが…」

デニムのひざ丈スカートを手に…、勝美は店員さんに申し出る。…勝美は、店員さんに試着室に案内され。しばらくして、…カーテンが開くと。良太でもはっきりわかる程、華やかな勝美の姿があった…。

「うんうん…、やっぱりセンスゆいね。…それに、可愛いから何着ても似合っちゃう」

良太が、…そのデニムのひざ丈スカートを。売り場に戻す際、何となくタグが目に入る…。価格は3万円を余裕で超える…、良太はおしっこをチビりそ〜になった。

…さまざまな婦人ブランド・ショップを、覗き歩くウチ。とある店舗の前で、…足を止め少し時間をかけて。「何か」を手に取り、真剣なまな差しで見詰めてゆる…。

(あれバンダナかな…、違う違う何つったっけ?)

…それは、一枚のスカーフだった。白地に、…濃いブルーとオレンジでチェック柄になっている。勝美は、しばらくするとそのスカーフを…。棚に戻して…、先へ進んだ。…スカーフとは、何に使うモノなのか?よく知らない良太、…しかし勝美さんが。そのスカーフを、本当に心から望んでゆるのはわかる…。手にしてみると…、肌触りもなかなかだ。…値段を確認すると、大体17000円。当然だが、…そんな金額持ち歩いているハズもない。取り敢えず、そのスカーフのカタチを目に焼きつけ…。売り場の位置を確認すると…、良太は勝美のあとを追った。

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その25

「まずいまずい…、このままじゃ間に合わないぞぅ」

大宮駅から発車した、湘南新宿ライン下りに揺られて…。良太は、…ただやきもきする。…ちょうど梅雨の季節で、大学生活にもアルバイトも。それなりに…、なじんで来た頃だ。

「もっとスピード出してくれても、構わないのに…。それにしたって、…そもそも大学までが遠過ぎるんだよ」

…ここまで約2ヶ月強、毎日のよ〜に。良太は大学に通うが…、乗り継ぎにしくじると。下手をすれば、2時間30分ぐらいかかってしまう…。だから、…今日のよ〜に一限目に。間に合わせよ〜とすれば。…朝5:00から起きなくてはならないのだ。

「あぁ神さま…、日本の人口が。現在からその半分になれば、こんなに電車混まないのに…」

そのうえただでさえ、…ジメジメうっとおしいこの時期に。…電車の乗車率は、当然100%を裕に超過している。良太のうんざりは…、ピークに到達しよ〜としてゆた。J.R.新宿駅で下車すると、今度は向かう先の京王線の…。乗車口から、…大量の通勤・通学客がドッと押し寄せて来る。

…「おれは、も〜ど〜にもならん。ど〜せ間に合わないし…、授業は午後からとゆ〜コトで」

良太は、そのままフラッと…。新宿の街に出てしまった、…とはゆえまだ9:00前だから。…どこのお店も開いていない、しばらく当てどもなく歩いてゆると。一軒のゲーム・センターが営業していた…、店舗は地下である。

「こんな時間からゲームやってる人いるんだ、大丈夫かいな…?」

当然、…自分もその一人に。なろ〜としてゆるのであるが。…何にせよ雨風さえしのげれば、と地下へ続く階段を降りていった。店内には、二、三人であるが…、お客さんがゆる。並んでいるゲーム機を眺めながら、店内をうろついていると…。良太が高校生の頃、…ずい分遊んだ「メタル・スラッグ」が置いてあった。

…「うわっ、懐かしい。そっか…、このお店古いゲーム揃えてんだな」

自動販売機で缶コーヒーを買うと、早速「メタル・スラッグ」に50円玉を投入する…。「セブン・スター」に火を点け、…缶コーヒーのプルタブを開けた良太。

…「おれこのゲームクリア出来るから、楽勝さね」

高校時代に散々遊んだ…、「メタル・スラッグ」だが。こ〜して再び向かうと、当時の悲喜こもごもが思い返されて…。何とも感慨深かった、…ゲームが始まると。…すぐに遊び方を思い出す、アクション・ゲームとゆ〜のは。だから廃れてしまったのだが…、慣れてしまえば。50円で1時間以上潰れる。煙草を吹かし缶コーヒーをすすり、何も考えず…。ひたすらプレイする1時間、…それは大学入学してから。…ずっと遠い通勤に追われてゆた、良太には至上の幸福であった。やがて最後の敵を倒し…、「メタル・スラッグ」はエンディングを迎える。

「まぁ、腕は落ちてないな…。おれも、…まだまだやれるってコトよ」

…お店の隅にあるカウンターでは、店員さんが。常連客っぽい人と話し込んでいた。このお店は…、そんなに口うるさくなかろ〜。そ〜判断した良太は、「メタル・スラッグ」のゲーム機の前に座ったまま…。も〜一本、…煙草に火を点ける。…ゲーム・センター特有の、何台モノゲーム機から発せられる。ガチャガチャとした喧騒が…、コトの他心地ゆかった。

(やっぱ古いゲームはゆいなぁ、おっ「XXミッション」あるジャン…)

良太は、…煙草の煙で真っ白になった店内に。…「XXミッション」を発見する、あれはクリアまではいかないが。相当先まで進めるから…、あれが済んだら。大学へゆこ〜、良太はそ〜想った。

 

梅雨の都心、早朝ゲーム・センターのテーマ…

「しんしんしん」 はっぴいえんど

https://youtu.be/MysJbvKOMbk

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その24

「こんにちわ初めまして、岡崎良太ですよろしくお願いします…」

茶店「コーヒー庵」の店舗裏側にある…、職員用通用口を良太は潜る。

…「おいっ伊藤、良太が来たから対応してやれ」

キッチンにゆる、店長はすぐに気づき…。ホールで接客している…、正社員さんを呼んだ。

…「お〜待ってたよ良太くん、ぼくはホールをまとめてる伊藤。君のトレーナーを務めるから、…取り敢えずユニフォームに着替えて。これ、あとで読んどいてね…」

正社員の伊藤さんは…、良太にユニフォームと社訓の小冊子を渡す。…すぐにユニフォームに着替え、店内に出る良太。

「色々話さなきゃならいコトは、…あるんだケド。論より証拠で、演ってみた方が早いから…。今コーヒー二つ…、お客さんに運ぶのね。…着いて来て、見といて」

キッチンから、…店長の声が響いた。

「コク深いコーヒーとほどよいバランスのコーヒー、入ったぞ…」

キッチンとホールを接ぐ…、カウンターにホット・コーヒーが二つ置かれる。

…「ゆくよ、良太くん」

丸いトレーを片手に取り、…正社員の伊藤さんは。ホット・コーヒーを二つのせて、歩き出す…。向かう先は…、テーブルに向かい合わせに座る。…ビジネス・スーツを着た、サラリー・マン風の二人だ。

「お待たせ致しました、…コク深いコーヒーのお客さまこちらになります」

コーヒー・カップの取手を右側にし、テーブルのうえ…。左側に座る…、お客さんの前に「コク深いコーヒー」を。…音も無く静かに、サッと置く。それを右に座る、…お客さんにも繰り返し。カウンターの前に、戻る正社員の伊藤さんと着いていく良太…。

「ぼく…、ちょっと煙草吹かすから」

…店内と休憩室を結ぶドアの前が、ちょ〜ど影になってゆて。お客さんからは見えない、…灰皿を手に。そこに立つと、正社員の伊藤さんは煙草に火を点けた…。

「コーヒー・カップは…、取手が右側になるよ〜にね。…あとは、音を立てないぐらいかな。カンタンでしょ、…次のお客さんは良太くんに運んでみよっか?」

しばらくすると、主婦とおぼしき三人組の女性達が…。「コーヒー庵」にやって来る…、正社員の伊藤さんは席に案内する。…主婦とおぼしき三人組の女性達は、おしゃべりしながら。メニューに目を通し、…やがて呼び鈴を鳴らした。

「良太くん、一応全部見といて…。いずれ時間帯によっては…、一人でお任せするコトもあるから」

…良太を連れて、注文を取る正社員の伊藤さん。カウンターの前に戻り待っていると、…キッチンから店長が二人を呼ぶ。

「さわやかな酸味のコーヒー二つとレモン・ティー、出るぞ…」

正社員の伊藤さんは…、にこっと笑った。

…「よしっ、じゃあ演ってみよ〜か。先ず、…そこの丸トレーを取って」

カウンターのうえに、丸トレーを置くと…。お客さんの飲みモノ三つを…、丸トレーにのせて。…良太は、丸トレーの両端を両手で支えて持ち上げる。主婦とおぼしき三人組の、…お客さんの待つテーブルの脇に立つと。お客さんに、正社員の伊藤さんは声をかける…。

「お客さま…、こちらの岡崎は今日が勤務始めてでして」

…すると、奥の席に座る女性が気がついたよ〜だった。

「あら、…岡崎さん家の良太くんじゃない」

良太は、あいさつを済ませると…。正社員の伊藤さんの指示に従い…、お客さまにお声がけする。

…「お待たせ致しました、さわやかな酸味のコーヒーのお客さま」

うっ、…と想う良太。全然、声が出てない…。

「それ…、私の」

…手を挙げるお客さんの前に、良太はホット・コーヒーを運んだ。カチャリ、…しまった。緊張してしまって、体が思うよ〜に動かない良太である…。

 

 

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その23

…「あぁこれだこれ、あとは経済学概論の教科書と」

参加はしなかったが、…大学の入学式も終わり。今日はキャンパス内に、設けられた…。特設会場に…、良太は教科書を買いに来てゆる。

…「こ〜んな分厚いの、荷物が増えるだけジャン?カンベンしてよ、…こっちは持って帰らにゃならんのだから」

良太は、経済学部に入学したのだ…。経済について学ぼう…、とゆ〜意欲があったワケではない。…第一志望は、同じ大学の。文学部史学科だったのだが、…残念ながら。不合格だった為、すべり止めの経済学部に通うコトとなった…。

「うわっ…、全部合わせると。…こんなになるのか、こりゃ純平に送ってもらって正解だった」

レジで、…生協組合の学生相手に。お金を払う、全部で2万円を超える出費に驚く良太(モチロン自分で出してはいない)…。購入した教科書を…、持参した大きなボストン・バッグに詰めると。…車で待ってゆる、純平の元へと向かう。

「おっ、…思ったより早かったな。何だ缶コーヒーおごって来れるのか、悪い悪い…」

キャンパス近くの…、車の来ない路地で。…路上駐車してる、純平の緑のコペンに良太は乗り込んだ。

「ま今日は、…教科書買うだけだし。そんなんより、帰りに新宿寄ったり出来ないだろ〜か…?」

純平は…、ハッキリ困った顔をする。

…「お前な、新宿とか渋谷みたいな。都心なんてのは、…車でいくトコじゃないんだ。道は混むうえ、駐車料金はべらぼうに高いわ…」

うっすらと想像してゆたので…、取り立てて落胆はしない良太。

…「やっぱ無理か、まぁゆいよ。ど〜せ、…これから毎日のよ〜に通うんだ。新宿には、Disk Unionたくさんあるだろ〜…。早く…、覗いてみたかったんだよ」

…ふところからお財布を取り出し、良太は中身を確認した。

「それは置いといて、…どっかでお昼ごはん食べよ〜ゼ?今日は、送ってもらったお礼におれが出すから…」

緑のコペンを…、発車させる純平。

…「珍しいじゃないか良太、お前がお金持ってるなんて」

良太は、…「セブン・スター」をくわえ火を点ける。

「何、今日の教科書代の残りさ…。ウチのお袋が気にしてるんだ…、"いつも純平くんにお世話になって申し訳ない"って」

…30分程車を走らせて、道沿いの適当なファミリー・レストランに。純平は、…車を乗り入れた。店員さんに案内され、テーブルに着く良太と純平…。

「せっかく…、お前のおごりなんだから。…何か美味いモノ食いたいが、何しろ土地勘が働かん」

全国チェーンのファミリー・レストランだから、…どこでもメニューは同じである。メニュー表を眺めながら、ボヤく純平…。注文を済ませると…、二人は早速それぞれの煙草を吹かした。

…「しっかし、おれも。こんな遠い大学、…よく受験したモンだ。ここしか合格しなかったから、しょ〜がないけれど…。この道程を毎日通うのかと想うと…、現在から気が重いなぁ」

…運ばれて来たホット・コーヒーを、良太はすする。

「ホントにそ〜だな、…おれは車の運転は。趣味みたいなモンだから、たまの遠乗りも悪い気分じゃないが…。この距離を…、毎日々々満員電車に揺られて通うんだ。…相当な根性だぞ、大丈夫か良太?」

良太にとって、…今のトコロ唯一の救いは。通学の途上に、新宿駅が挟まるコトだろ〜…。新宿の街ならば…、きっと自分が求める。…JazzのC.D.や書籍が、見つかるに違いない。

 

 

再臨物語again〜春馬町より愛を込めて〜 その22

「二人揃って…、合格出来てよかったですね」

合格発表から、二、三週間経って…。今日の良太と勝美は、…権現堂公園でお花見である。…トート・バッグからお弁当箱を取り出し、包みを開く勝美。

「おれは…、大して勉強してないモノ。単に、ランク下げただけだから…。でも、…勝美さんは努力して勝ち取った成果だよ。…よく、がんばったよね」

良太は缶の「サッポロ黒ラベル」500mℓ…、勝美はカップに注いだ甘酒で乾杯した。

「そんなコトないです、良太くんもがんばったでしょ〜…?」

勝美の作ってくれた、…お弁当から良太は厚焼き卵をツまむ。

…「いや、正直。おれ大学には…、あまり興味がないんだ。こ〜ゆうお仕事しよ〜、みたいなのがなかったから…。取り敢えず、…進学しただけだモノ」

…「サッポロ黒ラベル」の500mℓ缶を、グイッとあおる良太。

「その点…、勝美さんはえらいよ。勉強は一生懸命やったし、お料理やお掃除はこなすし…。おれなんか、…足許にも及ばない」

…勝美も、クイッと甘酒を飲み下した。

「…」

良太にど〜声をかけてゆいのか…、勝美はわからない。確かに、自分は生活の労苦を日々やっつけている…。だけども、…良太の「人生の悩み」だって。…カタチになって顕われないだけで、充分に価値あるのではないか。と…、勝美は想ってゆたのだ。

「ところで勝美さん、大学に入学したらアルバイトはど〜するの…?」

温かくはないのだが、…まだ寒いから。…勝美は今日、おでんを持って来ている。良太は…、大根をはしで崩し口に運んだ。

「近くのスイミング・クラブで、子供達に…。水泳を教える、…アルバイトの募集があるので。…それに、応募しよ〜かと」

「やっぱり勝美さんだ…、子供が好きなんだね。ピッタリのアルバイトだよ、よかったよかった…」

そ〜ゆわれてしまうと、…なかなか聞き返しづらかったが。…良太からは、明るい答えが戻って来る。

「おれ…、近所の喫茶店で接客やろ〜と想ってるの。そこは、勤務中でも煙草O.K.で…。何より、…お店のオーディオで好きな音楽かけてゆいんだって。…そりゃヘビメタとかは、マズいケド。Jazzなら大歓迎だって…、店長ゆってた」

勝美にも、明るい気持ちが灯った…。良太が、…自分を大切にしてくれるのは。…モチロン嬉しかったが、良太自身が望んで。打ち込める「何か」が…、例えアルバイトであっても。社会に、見つかったのだから…。

「高校生の頃から、…よく純平と通ってたお店でさ。…何時間たむろしても、イヤな顔しないでくれてたの。店長も…、Soulっつったかな。昔の黒人ポップスが好きで、よくかけてた…」

話してるウチに、…良太の顔にも笑いが戻って来た。

…「もし何なら、帰りに少し寄ってこ〜か?おれのは…、既に本決まりなんだよ。あとは大学生活始まったら、シフトを具体的に決めるだけ…」

勝美も、…笑顔でうなずく。

…「あ〜、この昆布美味しいなぁ。子供の頃から…、おでん好きだケド。ど〜にもこの昆布だけは、邪魔な気がしてたんだ…。でも、…勝美さんのおでんの昆布は美味し〜」

…こんな平和な時間が、少しでも長く続くのを。勝美は…、祈るよ〜な気持ちだった。良太も、このささやかなシアワセを…。神さまに、…感謝している。