シーン 2お春(若い頃)の実家
お春、目を覚まして、ぼんやりと辺りを見回す。
お春「おや、ここはどこだろう?私の家ではないようだ…。どこか懐かしく、見覚えはあるのだが。」
お春、ハッとして。
お春「そういえばあの人形、あれは私が幼い頃、どうしてもと私がねだって、両親が買ってくれたものだ。それにあの花嫁衣装、あれは私の母が一生に一度の事だからと、仕立ててくれた物だ。」
お春、気付いて。
お春「ああ、そうだ。ここは、私の生まれ育った家だ。あの頃と、何も変わらない。いや、私があの頃に戻ったのか?」
お春、立ち上がって、鏡を覗き込む。
お春「ここに鏡がある。これで、私の顔を見てみよう。おお、やはりそうだ!私は若返っている。昨日、あのキリストとかいう男の言ったことは、本当だったのだ。だとすると…、今はいつなんだろう?」
お春、再び着物を見る。
お春「あそこに、私の花嫁衣装があるということは、結婚式の前なんだろう。こうしてはいられない。早く新三さんの元へ、急がなくては。」
お春の母親、台所から居間を覗き。
母「あら、お春、起きたの?あなたときたら…、いつも、こんな時間まで寝ていて。仕様のない娘。本当に大丈夫かしら、こんなに不束な娘を、庄助さんの処にやってしまって…。」
お春、気まずそうに。
お春「お母さん、行ってきます。」
母、驚いて。
母「どうしたの、あなた。行ってきますなんて、何のつもり?これから、明日の結婚式の準備をしなくちゃいけないじゃないの。今からだって、遅いくらいだわ。」
お春、言いたくなさそうに。
お春「私にはどうしても、果たさなければならない想いがあります。」
母親、強い口調で。
母「何を言うの、この娘は。全く、いい加減にしなさい。庄助さんのどこが不満なの?あんなにしっかりした男性は、探したって見つからない。あなたがそんな事をすれば、親子の縁を切ります。それであなたは、この先どうやって、やって行くっていうの?」
お春、振り切るように。
お春「それでもいい。私はあなた達の、言うなりにはならない!」
母親、取り乱して。
母「あれぇ、この娘は親を捨てる気だ!あなた、あなた、早く来てください。お春が、お春が…。」
お春、家を飛び出す。