クリスマスの奇跡 8

シーン5 夜の村道

お春、泣きながら歩いている。実家の戸の前に立ち。

お春「お父さん、お母さん、私です。お春です。私が、間違っていました。私の過ちを赦し、家に入れてもらえませんか?」

父親の声。

父親「結婚式の前日に、別な男と駆け落ちする様な不届きな娘は、娘であっても、もう娘ではない。お前とは、親子の縁を切る。どこへでも、好きなところに行くといい。」

お春、諦めと仕方のない事だ、という気持ちで。

お春「お父さん、お母さん、間違っていたのは私です。申し訳ありませんでした。育ててくれて、ありがとう。さようなら。」

お春、もう泣いてはいない。トボトボと、歩いている。

お春「私には、もう行くあてもない。育ててくれた、実の両親にさえ見放されたのだから。これから、どうすればいいだろう。いっそ、川にでも身を投げて、死んでしまおうか?」

お春、足を止める。ふと見ると。

お春「おや、灯りが見える。ああ、そうだ。ここは、庄助さんの家じゃないか。自分でも、それとわからずに、ここへ来てしまったんだ。しかし今さら、庄助さんに会わせる顔が、私にはない。ここにいたって、どうなるものでもないから、早く立ち去るとしよう。」

庄助、家から桶を持って、出てくる。

庄助「おっかさん、水がもうないだろう。俺が汲んでくるよ。」

庄助の母親「夜道は、危ないからね。気を付けて、行ってくるんだよ。」

庄助、お春に気付く。駆け寄って。

庄助「どうした、お春。無事だったか!?」

お春が何か言おうとして口を開くと、庄助、それを手で制して。

庄助「もういい、何も言うな、お春。俺には、全てわかっている。俺は新三の様に、キラキラした綺麗事は、何も言えない。しかし、お前を思う気持ちは、お前の親にだって負けはしない。だから、今からでも遅くはない。おっかさんとおまえと三人で、仲良く暮らしていこう。」

お春、信じられずに後ずさりし。

お春「ごめんなさい。私が、間違っていました。全ては、私の心が弱かったせいで、起きたこと。今さら、赦して欲しいなんて、言えません。」

庄助、一歩前に出て。

庄助「いや、お前という女は、何もわかっていない。とりわけ、この俺という男について。俺は、女の弱い心が犯した過ちを、いちいち咎め立てるような、そんな器の小さな男ではない。だから、もういいのだ、お春。お前の目さえ覚めたのだったら、俺には何も言うことはない。さあ家に上がりなさい。おっかさんが心配すると、いけないから。」

お春、感激しながらも、控えめに。

お春「ありがとう、庄助さん。」


庄助、新三とその手下と、対峙している。

新三、肩をいからせながら。

新三「おう、てめぇ。この俺に、一体何の用だ!?」

庄助、意に介さない。

庄助「お前達の悪業は、全て調べ尽くして、お奉行様に申し立ててある。ほら、聞こえないか?お前達を引っ立てに来る、あの役人達の声が。」

新三、動揺を抑えながら。

新三「そんな筈はねぇ。しっかり金は、握らせてあるんだ。そんな筈は…。」

庄助、静かに怒りながら。

庄助「俺たちも、怠慢だったんだ…。お前達みたいな人間の屑を、まとめて村から追い出す事なんて、その気になれば、いつでも出来たのに。そのせいで、多くの人が苦しむ事に、なってしまった…。」

新三、もう動揺を抑える事が出来ない。

新三「何だと、何を言ってやがる!」

庄助、おもむろに新三の胸倉を掴み。

庄助「これは、皆の分。」

強く殴る。

新三、足にきている。

新三「か、勘弁してくれ。俺よりもっと悪い奴だって、いるじゃあねぇか…。」

庄助「これは、お春の分だ!」

もっと、強く殴る。新三、失神する。

手下、飛び上がって。

手下「わあ、アニキがやられた。俺たちは、もうおしまいだ!」