桃太郎 中編

桃太郎が、旅路を急いでいると、向こうから、犬がやってきました。

犬「桃太郎さん、桃太郎さん、何か食べる物が頂ければ、あなたのおともをして、共に鬼と戦いましょう。」

桃太郎「うん、犬の分際で、見上げた根性だ。よしよし、この大事な吉備団子を、お前に一つやろう。これを食べて、共に鬼達を、征伐しよう。」

犬「えっ、あなたは何を言ってるんですか!?今時、吉備団子何かで、命を貼る、そんな犬がいると思っているんですか?桃太郎さん、あなたは、おとぎ話の読み過ぎです。失礼ですが、田舎のご出身でしょう?よくいるんですよ、そういう人が。困りましたね。私をお供にしたいなら、お寿司ぐらいはご馳走してくれないと…。えっ、ダメですよ、回転してるのなんて!ちゃあんと、板前さんが握ってくれたのでないと、今時の犬は舌も肥えてるんですから。TVのコマーシャルでも、いろいろやっているでしょう。色々と、豪華なやつが。」

桃太郎「こいつは、畜生の分際で、何て事を抜かすんだろう。私だって、寿司なんて食べたことないのに。しかし今は、一人でも多くの仲間が必要だ。ここは、グッとこらえて…。犬さん、私はお金の持ち合わせが余り無いから、今すぐという訳にはいかない。でも、鬼達を征伐して、金銀財宝を手にしたら、そこからきっと支払おうと思う。だからそれまで、待ってくれないか?」

犬「ああ、田舎者ってのは、本当に図々しい。普通はこういうのは、先払いと相場が決まってるのに、ま、いいでしょう。じゃあ、私はあなたのお供をしましょう。私がいれば、百人力ですよ。私の鼻は、どんな些細な、怪しい臭いも、嗅ぎ分けるんだから。」

桃太郎「何て勿体つけた、嫌らしい犬だろう…。ありがとう、犬さん。恩にきるよ。では、鬼ヶ島に向かって、出発するとしよう。」

今度は向こうから、猿がやってまいりました。

「おっ、いいところに来た!俺は今、腹が空いて仕方がないんだ。何か食べ物を恵んでくれたら、一緒に鬼が島だって何だって、行ってやるんだがなあ。」

桃太郎「それは、素晴らしい提案だ。こちらとしても、願っても叶うまい。じゃあ猿さん、この吉備団子を一つ上げよう。それで、あなたの腹が満たされるか、私にはわからないが…。」

猿「この、すっとこどっこい!一昨日来やがれってんだ!たかが吉備団子一つで、命を賭けろって、あなたはそうおっしゃるんですかい?バカを言っちゃいけない。こちらが猿だからって、あなたはなめてかかってるでしょう。そうは問屋が、卸さねえ!もうちっと、ましな食い物をよこなけりゃ、あなたのお供は出来ませんよ。」

桃太郎「じゃあ、何をあなたに差し出せば、あなたはお供をしてくれるのですか?」

猿「こちとら、江戸っ子でぇ。江戸っ子の好きな食いもんといや、天ぷらときまってる。だが、こっにはそんじょそこらの猿とは、訳が違うんだ。俺様に、お供してほしけりゃ、銀座の高級な料亭で、腹一杯食わしてくれなけりゃ、勘定があわねぇや!」

桃太郎「またか…。近頃の畜生どもときたら。人間が面白がって、美味いものを食わすから、贅沢になるんだ。しかし、ここは忍耐だ。私には鬼達を征伐するという、崇高な志があるんだから…。わかったよ、猿さん。今すぐとはいかないが、鬼達を征伐したら、きっとそれらをお前にご馳走しよう。それなら、着いてきてくれるだろうか?」

猿「ちっ、仕様がねえ…。しけた野郎だ。こっちは、今腹が減って仕方ないっていうのに。わかりましたよ、桃太郎さん、あなたに着いて行きましょう。俺様ほど、使い物になるお供は、他にいないってもんだ!

高いところに登ったり、小さな隙間にもぐりこんだり、あなたの知恵次第で、どんな活躍でもしてみせますよ。」

桃太郎「ありがとう、恩に着るよ。では、鬼ヶ島に向かって、出発しよう。」

今度は、向こうから雉がやってきました。

雉「桃太郎さぁ〜ん、この雉はあなた様の忠実なお供。ここで、あなた様が来るのを、今か今かと、待っておりました。」

桃太郎「うんうん、これは気分がいい。私も長い事旅をしてきたが、こんなところにまで、私の名声は行き渡っているのか。雉さん、じゃあこの吉備団子をあげるから、私に着いてきてくれるかい?」

雉「この、頓馬のうすのろ野郎!そんな物で釣られる、間抜けな獣がいるもんか!」

桃太郎「何だか、嫌な予感がする…。このけだものにも、高い食べ物をふっかけられるんじゃ、ないだろうか…?」

雉「桃太郎さん、何をそんなに嫌そうな顔をしてるんですか?私が食べたい物はね、この杉戸町の名物なんです。」

桃太郎「ああ、よかった。それならきっと、佃煮とか最中とかの類だろう。よしよし、わかった。なんだって、私がご馳走してあげよう。言ってみなさい。」

雉「私が食べたいのは、高⚪︎屋の鰻です。それも個室で、松のコースで。」

桃太郎「こいつらは…!揃いも揃って、私をバカにしているのか?全くどいつもこいつも、贅沢な食い物ばかり食べたがって!」

雉「あれぇ〜、桃太郎さぁん。私、何かおかしい事、言いました?だって、あなたに着いていくということは、切った張ったの、修羅場をくぐり抜けるということ、それならそれ相応の対価を頂きませんと…。」

桃太郎「いかん、私とした事が。堪忍袋の尾が切れそうだ。しかし、よく思い起こさねばならん。村では、二人が私の帰りを待っている…。その為には、何としても鬼を、鬼を…。よく、わかったよ。でも、残念ながら、今ご馳走するわけにはいかない。だから、世間でよくいう、出世払いにしてもらえないだろうか?いいかい、あなたの働きには、必ず報いるから…。」

雉「今の話を書面にして、あなたのサインを下さい。」

桃太郎「この、馬鹿野郎!」