金太郎 後編

それから、十年の月日が経ちました。

熊八の洞穴に、大きな声が響き渡りました。

金太郎「おい、熊公!俺だ、俺のこの声を、お前は憶えているか!?」

熊八は、片足を引き摺りながら、洞穴の入口へと、向かいました。

熊八「一体だれだ?全く騒々しいったら、ありはしない。私のこの逞しかった右足は、三年前に獲物をとろうして、谷へ足を滑らせて以来、使い物にならないというのに…。ここまで出てくるのだって、どれだけ厄介な事なのか、全く分かっていないのだろう…。おお、懐かしい!お前は金太郎では、ないか。」

金太郎は、胸を張って答えました。

金太郎「それは、昔の名だ、熊公!今の俺は、坂田金時と名乗っている。俺はこれから、都に鬼の征伐に行ってくる。生きて帰れるかどうか、それはわからん。だからその前に、お前の天の酒の味を、味わいに来たのだ!」

二人は、洞穴の奥深くで、酒を酌み交わし始めました。

熊八「そうか、お前は立派になったのだな…。私は、足を悪くしてからは、まるでダメだ。かつては山の王として、誰からも恐れられたものだが、今では誰もついてこない。天女様をお守りする役目も、解かれてしまった。何とか、その日その日を食う分だけは、獲物を捕らえてはいるが、それもいつまで続けられるか…。」

金太郎「熊公、それは俺も変わらんよ。俺も、お偉い連中に、いいように使われているだけさ。この命がいつまでもつのか、俺にだって、見当がつかん。」
金時は、杯を置き、こう言いました。
金時「なあ、熊公。幼かったあの日、俺の俺自身という物を、見出してくれたのは、お前だけだ。お前には、本当に感謝している。男にとって、自分を知っていてくれるという、それ以上の事は、ないものだ。だから、熊公、しけたことを言うのはよせ。このいっぱいの酒が美味い。それで何が悪い?男なんて、所詮そんな物だ。熊公、今は酔おう。酔って酔って、浮世のうさを今だけでも、忘れるのだ。そうしたら、俺は旅に出る。」
金時は、急に真面目な顔をして、こう言いました。
金時「よし、俺は一度しか言わんから、耳の穴をかっぽじって聞け。」
金時は、ちょっと間を置き
金時「俺の友、熊八よ。俺の無事を、祈っていてくれ。」
熊八は、驚いてがぶりと、酒を煽り
熊八「友か…。俺は、その言葉を、ずっと待っていたような、そんな気がする。よし、この熊八、もう一度奮い立って、一旗上げてやるとしよう!」
金時は、心底嬉しそうに、子供のようにはしゃいで。
金時「その意気だ、熊公。まあ、とにかく今夜は酔え。酔いつぶれるまで、二人で飲みあかそうではないか!」
 
テーマ曲 「悲しみは地下鉄で」 モーモールルギャバン
 
 
 
 
 
 
 
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスムです。
もう、オッサンです。
この作品の元ネタは、王⭐️欣太先生の「蒼天航路
キャラクターの名前は…。
何となく、熊八です。
蒼天航路的なね、英雄というものを、書きたかったんですが…。
出来については
言わないでください。
楽進が、好きでした。
最初に出てきた時の、「戦場から、生きて帰ってくるのは、運が良かったからだが、力尽きて斃れるのは、力が無かったからだ。」(アレンジしてます。)という、セリフに、しびれました。
以来、肝に命じています。
それでは、さようなら👋。