かぐや姫 後編

二人の生活は、とってもラブラブでした。

かぐや姫「はい、あなた。あ〜ん。」

名無し「もぐもぐ、うん、美味しいよ。君が作ってくれるものは、何でも美味しい。ぼくは、幸せだな。」

かぐや姫「うふふ。結婚って、とっても素敵!こんなに、素敵な事だとわかっていたなら、もっと早くにしていても、良かったのかしら?」

名無し「ひどいなぁ、君は。それは、ぼく以外の男でも、構わないって言ってるのと、おなじだよ?」

かぐや姫「そんな事はない、絶対ないわ!もし、もしよ、あなたが私の前からいなくなってしまったりしたら、私は寂しくて、死んでしまうもの。ねぇあなた、もしそうなったら、あなたどうする?」

名無し「ハハハ、何を言ってるんだい、君は。だってね、よく聞いて。ぼくの目にはね、君以外の女性は、映らないんだ。君以外の女性っていうのは、ぼくにとって、夢や幻、それに影法師みたいな、物なんだから!」

かぐや姫「あなたは、きっと罪深い人だから、可愛い人が何人もいて、その人たち皆んなに、そう言ってるんでしょう?そして、その人達の心を、皆自分の者にしてしまうんだわ。」

名無し「君のヤキモチは、ぼくの心を何より、傷付ける。ぼくの愛は、ただ君だけに注がれている、というのに。ぼくの心を、君に見せてあげられるものなら、見せてあげたい。ぼくの心の中心にある、その玉座には、君のその美しい姿があって、他の何者も、あの天神様だって、近づけやしない。もし、それを君が見たら、もうつまらないヤキモチなんて、妬かなくなって、ぼくの愛をただひたすらに、信じてくれるようになるだろう。」

かぐや姫「わかってる。もちろん、冗談よ。愛してる、名無し。」

名無し「ぼくも愛してるよ、かぐや。じゃあ、ぼくは行ってくる。今日はお屋敷で、音楽の会が催される。きっと、ぼくらにも料理が振舞われるから、夕飯はいらない。それに、夜も遅くなるから、先に寝てるんだよ。」

かぐや姫「何よ、あなたったら!私が心を込めて作った料理より、お屋敷のご馳走の方が、いいっていうの?」

名無し「ごめんよ、かぐや。でも、これは付き合いなんだ。ぼくだって、この家でゆっくりしながら、君の手料理を食べている方が、幸せなんだ。でも、お誘いを断ったりしたら、ぼくは無礼者として、二度と呼ばれないだろう。ぼくの代わりなんて、いくらでもいるんだからさ。」

かぐや姫「なんてね!あなたときたら、何を言っても真面目に、答えてくれる。行ってらっしゃい。起きて、待ってるわ。」

名無し「うん、じゃあ、今度こそ、行ってくるよ。」

しかし、そんな幸せな生活も、長くは続きませんでした。

かつて、かぐや姫自身が語った様に、かぐや姫は、月に帰らなければならない、運命にあったからです。

二人がいつもの様に、イチャイチャしながら、夕飯を食べていると、何の前触れもなく、突然それはやってきました。

将軍「かぐや姫様、お迎えにあがりました!」

かぐや姫「あなたは、月の将軍!どうして。ここへ?」

将軍「おお、私の事を、覚えておいででしたか…。かぐや姫様、今日は暦の上で、八月の十五夜。天神様から、立派にお育ちになったかぐや姫様を、月にお連れせよと、そう仰せつかって、ここに参ったのです。」

かぐや姫「いや…、私は帰ることは出来ない。あなた…。」

名無し「どういう事だろう…?かぐや、事情を話してくれないか。」

将軍「この無礼者!この高貴なる血筋に連なる、かぐや姫様を呼び捨てになさるとは。許せん!そこへ、直れ。叩き斬って、くれる!」かぐや姫「待ってください!この方は、私の夫なのです。」

将軍「夫ですと!?何をいってらっじるんですかかぐや姫様!あなた様が長じた暁には、この私があなた様を、貰い受けると、そう天神様が仰せになったでは、ありませんか!」

かぐや姫「わかりました。私が、すべてお話します。名無しにも、将軍にも…。」

かぐや姫は、二人にこれまでの経緯を、全て語って聞かせました。

名無し「そういう訳だったのか…。だったら月へお帰りよ、かぐや。」

かぐや姫「何て、ひどい仰りよう!あなたが、私に聞かせてくれた愛の言葉は、全て嘘偽りだったのですね?」

名無し「いや、そうじゃないよ。だって君は、元々天の出身で、これからは月に行くことに、なるんだろう?だったら、そこへ戻った方がいい。かぐや、人間はね、いや、君は天の者だけど、生まれ故郷や、実の親というものを、捨てたり、無しにしたりは出来ないんだ。いつかは、そこへ帰らなきゃいけない。それは、生きとし生けるものの、定めなんだ。」

かぐや姫「私は、あなたといたいの!離れるなんて、絶対嫌!…そうだわ、将軍、この名無しも一緒に月へ行く、それならどうかしら?」

将軍「何を仰います、かぐや姫様!人間が、天に上げられるためには、余程の大事業を成し遂げるか、天に届くほどの功績がないと、いけません。大体、こんなどこの馬の骨ともわからぬ輩を…。天の国の、品格に関わりますぞ!」

名無し「そうだよ、かぐや。ぼくは、何でもない男だ。天の国には、行けないよ。」

かぐや姫は、ニヤリと笑って、澄まし顔で言いました。

かぐや姫「ちょっとあなた。笛を吹いて、差し上げて。」

名無し「何を言ってるんだい、こんな時に?笛なんて吹いたって、何にもならないじゃないか。」

かぐや姫「いいから、今すぐに!とにかく、吹いて。」

名無しは笛を取り出し、吹き始めました。

それは、朝靄の中、葉っぱから、小さな雫が、ぼたりと落ちる様な、そんな静かな音色でした。

将軍は感極まって、涙を流しながら言いました。

将軍「おお…、何という素晴らしい音色だ!こんなに、複雑な味わいの音色は、天の国でも聴いた事がない。おい、お主。名無しとか、言ったな?天の国まで、我らに同行せよ!これは早速、天神様に報告せねばいかん。お主は、そこで天神様に、笛の腕を披露するのだ。それだけの腕があれば、きっと天の楽団に、招かれるに違いない。かぐや姫様、上手くやりましたな!しかし、これから、この先が本番ですぞ。」

かぐや姫「やったぁ!じゃあ、早く支度して、行きましょう。」

名無し「そうだね。天神様に、聴いて頂くのか…。緊張するな。」

こうして、二人は天神様の御前に、出ることになりました。

かぐや姫「ああ….緊張する。ねぇあなた。お父様は、とっても怖いお方なのよ。でもあなたなら、きっとやれる。がんばって!」

名無し「うん、やれるだけのことは、やってみる。二人で暮らそう、かぐや。」

かぐや姫「うん!」

「天神様の、御成!」

天神様が、姿を現しました。天神様は、山のように大きく、ジャングルのように立派な顎鬚を、たくわえていました。キラキラと輝く着物を着て、宝石を散りばめた王冠を被っています。身に付けている物は、とても華やかでしたが、その目には、笑いというものが、全くありませんでした。

天神様「久しぶりだな、かぐや。元気にしていたか?」

かぐや姫「はい、お父様。お父様も、恙無くお過ごしになられていたようで…、何よりの事です。」

天神様「残念だが、わしには時間というものが、あまりない。お前が、我が娘の、夫になったという、名無しという男か。先ずは、本当の名前を、聞かせてもらおう。」

名無し「天神様に、申し上げます。私には、本当の名前は、ございません。聞けば私は、生まれてすぐ、川のほとりに打ち捨てられていたとか…。それ以来私は、一人で食べる物を見つけ、住むところを探し、と全て一人で、成してきました。誰一人、私に名を付けてくれる者は、無かったのです。」

天神様「そうか…、それは気の毒な事だ。」

しかし、気の毒そうな様子は、これっぽっちもありませんでした。

天神様「名無し、お前に問おう。お前は、我が娘のどこを、愛しておるのだ?」

名無し「お答えしましょう。有体に言えば、全てです。一体愛に、ここを好む、そこが気に食わぬ、といったことがありましょうか?そんな物は、ありはしないのです。愛に、理由や意味は、存在しません。私が

何故、かぐや姫様を愛するのか?それはかぐや姫様が、かぐや姫様だから、でございます。」

天神様は、眉一つ動かさずに、言いました。

天神様「わかった。では、再び問おう。お前は娘と、どんな家庭を、築こうというのか?」

名無し「お答えします、天神様。私達の家庭は、愛し愛される、喜びに満ちた物になるでしょう。愛とは、蜜の様に甘い物。ただ、虫の集めた蜜は舌先でしか、味わう事は出来ません。しかし愛とは、心で味わう蜜なのです。そしてその蜜は、心の奥底から、次から次へと、湧き溢れて来るのです。」

天神様は、面白そうな様子は一つもなく、言いました。

天神様「わかった。では、三度問おう。お前は、お前が死ぬ時まで、娘を愛せるのか?」

名無し「私は、かぐや姫様の為ならば、どんな問いにも、お答えいたしましょう。真実の愛に、時間などありません。かぐや姫様は、天の者。私は、人間です。私は先に、死ぬでしょう。それでも、二人の間に育まれた愛の絆は、決して絶えることはないのです。天神様は、よくご存知でしょう。心とは、不滅のもの。そうであれば、心から湧きいづる愛もまた、不滅なのです。」

天神様「わかった。ではお前の、楽の腕を見せてもらおう。」

名無し「わかりました。それでは、ご覧に入れましょう。」

それは、蒸し暑い真夏の夜に、篝火をずっと眺めている様な、そんな狂おしい音色でした。

名無し「今の曲は私めの、この場限りの即興に、ございます。あえて名を付けるなら、愛の喜びとでも、しておきましょう。」

天神様は、何の様子も変わらないまま、こう言いました。

天神様「わかった。娘は、お前に与えよう。また、お前には天の楽団の長の地位を、与える。以後、我が耳を楽しませよ。それから、かぐや。」

かぐや姫は、嬉しくてウキウキしていました。

かぐや姫「はい、お父様!」

天神様「お前の持つ命の薬を、この者に与える事を許す。それから、名を付けてやれ…。お前がな。」

かぐや姫は、もう嬉しいのが隠しきれません。

かぐや姫「はい、お父様!仰せのままに!」

こうして二人は、天神様の前を退きました。

かぐや姫「もう、最高!!でもお父様、怖かったでしょう?」

名無し「さすがに君のお父さんだから、立派なお方だよ。」

かぐや姫「そうかしら…?少しぐらいは、笑ってくださればいいのに。でも、命の薬を上げていいって、言ってわね。これさえあれば、あなたももう死ぬ事はなくなるわ。私達、ずっと一緒にいられるのよ!」

名無し「ねぇ、かぐや。ぼくの名前は、どうするの?」

かぐや姫「いけない、忘れてた!そうねぇ…、仁っていうのは、どうかしら。素敵じゃない?」

名無しは、にっこり笑って、言いました。

仁「仁か…。いいね、いい名前だ。ぼくはこれから、そう名乗ってやって行こう。」

かぐや姫「仁、愛してる。」

仁「ぼくもだよ、かぐや。もう、離さないよ。」

かぐや姫「あら、そんな訳にはいかないわ!だって、ご飯も食べなきゃいけないし、それに何より月に行かなきゃ。」

仁「君は、せっかちだなぁ。そんな事は、後回しでいいんだよ。せっかく、一緒になれたんだから、もう少しこうしていよう。」

かぐや姫「だって…、あなたったら、そんなに強く抱きしめるんですもの。私…。」

仁「どうしたんだい、かぐや?気分でも悪いのかい。すこし、休もうか…。」

かぐや姫「ええ、そうさせていただきます。あなたも、来て…。」

仁「うん、そうしよう。大丈夫かい、本当に。心配だなあ…。」

二人はいつまでも、愛し合いましたとさ、やれやれ。

 

テーマ曲 「MinorityGreenday

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

どうも、こんにちは。

オートマールスムです。

好きな葉巻は、モンテクリストNo.2。

この作品の元ネタは、近藤喜文監督の「耳をすませば

キャラクターの名前は…。

ナムコの「鉄拳4」より、仁。

と、なっております。

好きな曲です。…

「Islands」 The xx

https://youtu.be/PElhV8z7I60

かぐや姫ですかあ…。
何にも、憶えてません。
ただ、ある夜勤の晩、ある入所者が、オムツいじりをしました。
ベッドの上は、尿でびっしょりです。
それの後片付けや、着替えしている最中に、名無し君と天神様のやりとりが、思い浮かんで、ディスポしたまま、必死にメモった記憶があります。
仕事は、ちゃんとやりましょう。

それでは、さようなら👋