場所は、東南アジアの日本軍の、陣地。
そこに、伝次郎という名の、若い兵隊がおりました。
その頃、日本軍は劣勢で、物資が行き届いて、おりませんでした。
その為兵隊さんたちは、勇ましく戦っておりましたが、皆お腹を空かせていたのです。
勿論伝次郎も、例外ではありませんでした。
ある、真夏の蒸し暑い夜…。
伝次郎「あ〜、腹が減っただ。こんなに腹が減ってたら、眠れる物も眠れねぇ。ちょっくら、ここを抜け出して、食いもん探してくべぇ!」
兵隊「おい、伝次郎!どこへ、行く?命令もないのに、勝手に陣地を抜け出して、バレたら後でどうなるか、わからんぞ。下手すりゃ、殺されるかも知れんのだから、黙って寝ていろよ。」
伝次郎「おら、ちょっくら食べ物を、探してくるだよ。なぁに、殺されたって構やしねぇ。どうせここにいたって、ひもじくて死んじまうんだから、だったら一か八か、食いもんを探しに行った方が、まだ生きる望みは、あるっちゅうモンだべ!」
伝次郎は、首尾よく陣地を抜け出し、ジャングルに入って行きました。
しかし、ジャングルに入ってはみたものの、食べられそうな物は、皆取られていて、めぼしい物は何も残っていませんでした。
伝次郎「なぁんにも、ねぇだなぁ…。あるのは、草ばっかりだべ。いよいよ、おらの腹も、ひもじくなってきただ。これぁ早く見つけねぇと、おら、行き倒れになっちまうだ。おーい、おーい!食べ物よーい。あったら、返事しろーい!」
伝次郎は、ジャングルの奥へ、奥へと、どんどん分入って、行きます。
そうすると、突然視界が開け、そこには…。
伝次郎「何だべ、こりゃあ!?」
そこには、豪華な西洋風の建物が、煌々と灯りを焚いて、建っていました。
伝次郎「しまっただ!おら、うっかりして、アメさんの陣地の方に、出ちまっただよ。こりゃ、命が危ねぇだ。とっとと、引っ返すだよ…。」
蛇「ようこそ、いらっしゃいました!伝次郎様。」
大きな、はっきりとした声で、伝次郎は呼び止められました。
伝次郎「誰だべ、おらを呼ぶのは?そうか、わかっただ!アメさんは、出来のいいレーダーか何かで、おらの名前まで、突き止めてるだな?こりゃ、いかん。おら、逃げ切れるだか。観念しどきか、来たのかも知れんて…。」
ひょろりと細長い体つきの、身なりの綺麗な男が、近づいてきて、言いました。
蛇「伝次郎様、勘違いなさらないで下さい。私は、西洋の者には違いありませんが、アメリカ軍ではありません。伝次郎様、知っておられますか?我らの神、イエス・キリスト様を…。」
伝次郎「キリストって言ったら、アメさんの神様だべ。」
蛇「確かに、そうに違いありません。しかし、私の主人ルシファー様は、そのキリスト様の教えに基づき、戦いに疲れた戦士の魂を、癒すべく、館にお招きしておるのです。今宵、あなた様のお名前も、お客様のリストに、入っております。是非、我らの館にお出でになって下さい。そして、そのお疲れを、充分にお取り下さい!」
伝次郎「お前さん、何て名前だ?」
蛇「これは、失礼いたしました。私は、蛇、そう主人から呼ばれております。」
こうして伝次郎は、不思議なルシファーの館へと招かれ、足を踏み入れました。