こうして伝次郎に、媚薬入りのワインが供されました。
そのワインを飲むと、伝次郎は背筋がゾクゾクし、額から脂汗が流れてきました。
伝次郎「何だべか、この妙な気分は…。何だか、寂しいような、切ないような、生まれて初めて感じる気分だべ。おら一体、どうなっちまっただか…。」
そこに、蛇がやって来て、いいました。
蛇「どうなさいました、伝次郎様?どう致しましょうか。今夜のお相手は誰にするか、お決まりになりましたかな?」
ホールにはやはり、伝次郎と、あのマスクとローブの娘が、残されていました。
伝次郎「う、うん…。そうだでな。よし、決めた!あの娘にするだ。」
蛇「さすがですぞ、伝次郎様!それでこそ、男というものです。それでは、お楽しみを。明日の朝、腰が立たない、なんて事のないように、お気をつけて下さいませ。イ〜ッヒッヒ!」
伝次郎は、娘に手を引かれて、自分の部屋へと戻りました。
部屋のドアを閉めると、娘はすぐ、ローブを脱ごうとしました。
しかし伝次郎は、それを手で制し、こう言いました。
伝次郎「いや、待つだよ、娘さん。おら、そんなつもりで、お前さんを呼んだんじゃねぇだ。何だかおら、今寂しい気持ちでな…。それで、寝付くまで何か物語りでも、してもらおうと思って、来てもらっただよ。」
娘は賢く、知恵のある娘だったので、イエス・キリストの奇跡に預かるおばあさんの話を、語って聞かせました。
伝次郎は、物語りに耳を傾ける内、心地よい眠りに、落ちていました。
こうした事が、幾晩も、幾晩も続きました。
伝次郎は夜になると、決まってマスクの娘を選び、部屋に連れ帰っては、物語りをせがみました。
娘は、必ずそれに応じ、桃太郎や金太郎、それにかぐや姫の物語などを、次々に語って聞かせました。