ルシファーが、地獄に去ってしまったことで、館はもはや失われようと、していました。
あちこちが、ぐにゃぐにゃと歪み、どんどん崩れていきます。
その中心で、伝次郎は呆けた様に、ボンヤリとしていました。
そこに、アリスが飛び込んできました。
アリス「逃げましょう、伝次郎様!この館は、ルシファーが倒された事で、もはや存在できないのです。このまま、ここに留まれば巻き込まれて、地獄に堕ちる事になりましょう!」
伝次郎「でも、ここに残っている者は、沢山いるだ…。そいつらを、助けねぇと。」
アリスは、叫びました。
アリス「それは、その者たち自身が、決める事でございます。伝次郎様、あなたは私を、妻に迎えると、約束して下さったでは、ありませんか!その約束、今こそ果たして頂きますよ。」
伝次郎は我に返り、答えました。
伝次郎「うん、そうだったべ。じゃあ、急ぐとするべよ!」
二人は、ルシファーの館を、飛び出しました。
館は、音を立てて崩れ去り、地獄に引き摺り込まれて、行きました。
二人は、辺りを見回しましたが、館から出て来たのは、二人だけのようです。
アリスの体が、輝き始めました。
アリス「伝次郎様…、どうやらここで、お別れの様でございます。
私は、私の生きていた時代に、戻らなければなりません。そして、そこで私は、静かに死を迎えるのです。」
伝次郎は、言いました。
伝次郎「それは、おらも同じだ。
アリスは、にっこり微笑んで、言いました。
アリス「でも、私は悲しくなんて、ありません。私の胸には、いつもあなたの面影が、宿っているのですから…。」
伝次郎、黙って頷きました。
アリス「伝次郎様、ご無礼、お許し下さい。」
アリスは伝次郎に、そっと接吻しました。
アリス「これだけの罪を犯した私が、こんな事を言うのは、図々しいとわかっています。でも、伝次郎様。きっと、天国で会いましょう!偉大な神アッラーは、きっと全ての罪を赦して下さいますでしょう…。ではさようなら、伝次郎様!ああ…、私は、あなたに愛して頂くのが、待ち切れない…。」
輝きは失われ、アリスの姿はもう、そこにはありませんでした。
伝次郎は、呟きました。
伝次郎「アッラーって、何だべかな…?よくわかんねぇけど、きっとお前さんは、極楽へ行けるだよ。おらは、無理だべ。おっ母より、早く死んじまうんだから…。親より、早く死ぬ事程、不孝な事はないべ。でもおら、お前さんにまた会いたいだな…。お前さんといると、おら随分気分がええ。」
伝次郎は、天を仰ぎました。
伝次郎「これが、愛っちゅうもんだべか…。こそばゆい様な、ほっとする様な…、何とも妙なもんだ。」
伝次郎は、戦場に向かって、歩き出しました。
伝次郎「さあおら、死にに行くべか!おらの仲間たちが待ってる、あの場所に。おっ母、アリス、見ていろよ。おら、立派に死んでやるだからな!」
どうも、こんにちは。