エリヤとカルナは、歩き続けていました。
カルナ「おじいさーん、あたし達いつまで歩くの?もう、飽きたー。」
エリヤ「うん…。もうじき、ギリシャに入るな。わし達が向かっているのは、ギリシャの神々の一人、パーンの所じゃよ。そこに、お前さんを待ってる人が、おるでな…。」
カルナは、いつもの調子でいいました。
カルナ「バッカじゃない?あたし、ギリシャに知り合いなんて、一人もいなーい。」
一方モーゼも、準備を進めていました。
モーゼ「遅れていた、船の準備も整った。カイン、よくお聞き。これから、この船に乗って、ギリシャへ行く。そして、牧畜の神、パーンのところに行くんだ。パーンは、ギリシャの出来事に、広く通じているから、きっとお前の、お父さんやお母さんについても、何かわかるだろう。」
しかしカインは、返事をする代わりに、大きなオナラをしました。
エリヤは、パーンの家のドアを、ノックしました。
パーン「はい、お入りください…。これはエリヤ様、ご無沙汰しております。」
エリヤとカルナは、家の中に通され、パーンと共に、テーブルを囲みました。
パーン「おい、アベル。お客様だよ。エリヤ様と、ええと…。」
アベルは、エリヤの名前を聞いて、大喜びで飛び出して来ました。
アベル「エリヤ様!お久しぶりです。」
アベルは、エリヤの事を大変、尊敬しておりました。
アベル「また、色々なお話を、聞かせて下さい!エリヤ様のお話は、本当に為になります。それになにより、面白くて…、ぼくはエリヤ様から聞いた話を、よく一人で思い返すんです。そして、これはこういう意味だろうか、いやああいう意味に違いない、とやってるんです。おや、こちらの女性は…?」
アベルとカルナの、視線が絡み合った時、そこに火花が飛び散りました。
エリヤは、何も知らない様な顔をして、のほほんと座っておりました。
アベル「ノア…?いや、ノアじゃない。ノアは、死んだんだ…。でも、似ている。この感じ…。」
カルナ「アベル…。聞いた事がある、その響き。でも、思い出せない…。あなたは、誰?なぜ、こんなにもあたしの心を、かき乱すの?」
モーゼ「失礼…。誰もいないんだろうか?ノックは、したんだが…。あっ!」
二人は、お互いを強く求め合い、激しく抱き合いました。
それを見たカインは、立ったまま、小便を垂れました。
アベル「ノア…。君は、ノアなんだね?ぼくには、わかる。このつぶらな瞳、白いうなじ…。」
カルナ「アベル…、アベル…。あたし、恥ずかしい。汚れてるの、あたし。体も、心も…。」
アベル「いいんだ、ノア。ぼくには、これまでの君なんて、関係ない。ぼく達は、これからを築いていくんだから…。」
アベルはカルナに、熱く口づけしました。
モーゼはよくわからず、エリヤに助け舟を求めました。
モーゼ「エリヤ様、これはどういう事でしょう?」
エリヤ「うむ。お前さんも、知っておろう…。アベルとノアの、恋の行方を。この女、カルナの魂は、生まれ変わったノアの、それなんじゃ…。確かに、カルナの物腰や言い様は、ノアのそれとは、違う。それは、環境の所為もあるし、本人の隠されていた、資質でもある。」
その時、パーンが叫びました。
パーン「カイン!お前は、カインじゃないか!」
パーンが、カインを抱きしめると、カインは大きな音を立てて、鼻水をすすりました。
パーン「ありがとうございます、モーゼ様…。このカインは、生まれて間もない頃、人さらいにさらわれてしまって、それ以来行方もわからず…。よかったなあ、カイン!」
カインも、心の奥底で、何かを感じ取ったのか、涙を流しました。
モーゼ「う〜ん。私にはよくわからないんですが、これでよかったんでしょうか?」
エリヤは、染み染み言いました。
エリヤ「うん、まあ、そういう事よ…。あまり、理屈で考えるな。しかしわしは、お前さんに話があってな…。」
そう言われて、とっさにモーゼは、身構えました。
しかしエリヤは、頭を深々と下げて、こう言いました。
エリヤ「いや、モーゼ君。わしは今まで、君の事を侮っておった。しかし、君はカインを、ちゃんとここまで、連れてきてくれた。きっと、聖霊のお導きじゃろう…。それにな。」
エリヤは、頭を掻きながら、続けました。
エリヤ「規律や律法というものも、必要なんじゃなぁ…。わしは、骨身に沁み行ったよ。確かにこのカルナの、胸の内には、清らかな愛の炎が、宿っておる。しかし…、正直わしの手には負えんよ。随分、くたびれた。」
モーゼは、感激しながら、言いました。
モーゼ「いえ、エリヤ様。それは、私の言うべき事でしょう。人の魂の本質を、一目で見抜くなど、とても私にはできません。私が、カインをここに連れてきたのは、単なる偶然に過ぎません。それに…。」
モーゼは、疲れた笑みを、浮かべました。
モーゼ「カインに、随分教えられました。人が生きるということは、とても理屈では、割り切れないと…。子供の世話というものは、本当に大変なんですね。私は、私が母にかけた苦労を思うと、とても頭が上がりませんよ。」
エリヤは、嬉しそうにいいました。
エリヤ「いや、わしらはこの旅で、お互い重要な事を、学んだようじゃな…。では、これから二人で、ゼウスとヘラの元を訪れ、与えられた務めを、果たすとしようかの。」
モーゼも、清々しい思いで、頷きました。
モーゼ「はい、そういたしましょう!」
オリュンポスの山へと、向かう道すがら、エリヤはぼやきました。
エリヤ「しかしイエス殿も、人が悪い。こんないたずらをするなら、何か一言、声を掛けて欲しかったわい。」
モーゼは、すかさず反論しました。
モーゼ「エリヤ様、それは違います。これこそが、キリスト様の尊い知恵なのです。それがあなたには、わからないんですか?」
エリヤは、うるさそうに言いました。
エリヤ「若造。わかっていないのは、お前さんの方じゃ。わしはな、イエス殿の真心を、痛い程感じておるよ。だからこそ、悪態を吐くのじゃ。その男の…。」
二人の話は、いつまでも尽きないようでした。
テーマ曲 「君のほんの少しの愛で」 世武裕子
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(白)です。
好きな洋服のブランドは、ALL ORDINARIES。
人物の名前は…。
旧約聖書より、カイン。
あとの、カトル、マイワ、ルシロは適当です。
寝てたら、思い付きました。
この作品は、異なる価値観を持った、二人の人間が、旅を通じて、お互いの存在を、認めて行いく、という内容です。
どちらかが偉かったり、どちらかが物分かりがいい。
そうならないように、気をつけました。
ぼくにとっても、あなたにとっても、きっとこういう相手が、いる筈です。
そういう相手は、自分にとって、かけがえのない人だったり、しますよね。
因みに、エリヤが飲んでいるウィスキーは、アイリッシュ・ウィスキーのジェムソンです。
結構高いじゃんって、思いました?
ぼくも普段は、もっと安いの飲んでます。
それでは、さようなら👋。