お掃除おばさん 2

ヨハネは、いそいそと部屋に戻りました。

そして、棚からチョコレートの箱を取り出し、可愛い包装紙でラッピングしたのです。
ヨハネは、こういうマメな作業が、大好きでした。
ヨハネ「よし、これでいい。女性の気を引くなら、甘くて美味しい物が、一番だ!」
ヨハネは、贈り物を持って、マグダレーナに近づきました。
ヨハネ「ねぇ、マグダレーナ。こんにちは。今日も、いい天気だねぇ。」
マグダレーナは、警戒心を露わにして、答えました。
マグダレーナ「あら、珍しい。私の事を、名前で呼ぶなんて。いつもだったら、おばさん、おばさんって、バカにしたように、言うのに。どうかした?何か、悪い物でも食べたんじゃなくて?」
ヨハネは、イラッとしましたが、明るく言いました。
ヨハネ「これあげるよ、マグダレーナ。これはね、地上じゃ有名な、ベルギーのチョコレートなんだ。とても美味しくて、ほっぺたが落ちるよ。ずっと、とって置いたんだんだけど、君に食べて貰いたくて、出して来たんだ…。」
マグダレーナは、不快感を隠そうとは、しませんでした。
マグダレーナ「あなたはね、いつもそうやって軽薄な事ばかり、口にする!それが、私は気に食わないんです。大体ね、私は甘い物なんて食べないし、そんなに美味しいなら、ご自分で食べなさいな!」
ヨハネは、この女の頭の中には、コンクリートでも詰まっているんだろう、と思いました。
 
ペトロはペトロで、チャンスを窺っていました。
そしてその時は、比較的簡単に来たのです。
ある時マグダレーナは、ゴミを満載にした、重たい台車を押していました。
それを、見かけたペトロは、ここぞとばかりに、話しかけました。
ペトロ「マグダレーナ、重たいだろう?私が押すよ。何、力には自信があるんだ。普段から、鍛えているからね…。」
しかしマグダレーナは、譲りませんでした。
マグダレーナ「ペトロさん、これは私の仕事です!あなたには、あなたの仕事があり、私には私仕事がある。余計な手出しは、しないでください!」
ペトロは、そんなに簡単には、引っ込みませんでした。
ペトロ「でも、マグダレーナ。君は、女性だろう?こんなに重い物を押すなんて、女性には厳しい。私に、任せてくれたまえ。ほら、大して苦もなく、押して行ける。」
マグダレーナは、ヒステリックに叫びました。
マグダレーナ「ペトロさん!あなたは、私を無能扱いするんですか!?掃除なんて、誰でも出来る。あなたは、そう考えるかも知れない。でもね、私は誇りを持って、やってるんです。私はね、私の力で、やり遂げるんですよ!わかりましたか?わかったら、さっさとその手をどけて、あなたの仕事に、戻りなさい!」
ペトロは、こいつには感受性というものが、ないのだ、と思いました。
 
ペトロとヨハネは、また偶然行き合い、結果を報告しあいました。
ペトロ「どうだい、首尾は?私の方は、どうもダメだ…。」
ヨハネ「ぼくも、そうです。こっ酷く、撥ね付けられましたよ。」
二人は、お互いの顔を見合わせて、笑いました。
ペトロ「だがまあ、私にはまだ、取っておきの手があるんだ。これさえあれば、あの皮を剥いたじゃがいもみたいな顔した、マグタレーナも、くらりとくると思うよ。」
ヨハネ「そりゃあ、いい!でもね、まだぼくも、奥の手は出してないんです。これで口説けないなら、あいつは、女らしいのは言葉使いだけで、その心は男のそれに違いない。」
二人は、ニヤニヤ笑うと、お互いの健闘を祈って、別れました。