お掃除おばさん 5

マグダレーナは、ペトロの部屋に行きました。

そして、例の小瓶が欲しいと、頼みました。
ペトロは、もうそんな物の事は、すっかり忘れていて、少し経って、思い出しました。
ペトロ「ああ、あれか。構わんが…、どういう風の吹き回しかね?あの時は、何の興味も、示さなかったのに。」
マグダレーナは、目を伏せながら、言いました。
マグダレーナ「ええ、私が付けたって、何にもならないって、わかってます…。でも少しでも、何かが変われば。女の性ですよ…。」
ペトロは、訳がわからず、ただボンヤリ聞いていました。
 
マグダレーナは、次にヨハネの所に、行きました。
そして、「春の嵐」を貸して欲しいと、言いました。
ヨハネは、もう次の詩作に取り掛かっていて、「春の嵐」には、もう何の興味もなかったのです。
ヨハネ「いいですよ。まあ、もうすぐ製本されるんで、それからでも…。貸しますよ。それにしても、何です、急に?あんなに拒んでたのに、自分からそんな事を言うなんて…?」
マグダレーナは、溜息を吐き、静かに言いました。
マグダレーナ「恋って、どんなものなんでしょう?」
ヨハネ「えっ、何ですって?鯉は、淡水魚ですよ。」
ヨハネは、聞き違いかと思って、変な事を言ってしまいました。
マグタレーナ「あなたは詩人だから、よくお分かりでしょう。でも、私は知らない…。それがどんなものか、知ってみたくてね。」
ヨハネは、マグダレーナは遂に気が狂ってしまったんだ、と思って恐れました。
 
ペトロはヨハネを探し、ヨハネはペトロを探しました。
そして、いつもの廊下で、出会ったのです。
ペトロ「おい、ヨハネ!今日、マグダレーナに会ったか?」
ヨハネ「会ったも何も、遂にあのおばさん、頭がおかしくなったんですよ!」
ペトロ「やっぱり、そうか!こっちでも、そうだったんだ…。どうしよう?いたずらが、過ぎたんだろうか?」
ヨハネ「いや、あれはもう終わった事ですし、あれから随分経ちますから、関係ないですよ。」
ペトロは、不安そうに言いました。
ペトロ「でも、万が一という事も、あるし…。どうだろう、二人で様子を見に、行かないか?」
ヨハネ「いいですよ。今の時間なら、きっと中庭でお茶してるから、ちょうどいい…。それにしてもペトロさん、意外と、気が小さいんですね。」
二人は、中庭に向かいました。
果たしてマグダレーナは、お茶を飲んでいました。
二人は、手頃な茂みを見つけると、そこに潜んで、様子を窺いました。
ヨハネ春の嵐を、読んでる。でも、どうせ後で文句をつけるんだろうな…。」
ペトロ「ヨハネ、よく見ろ。あれは本当に、マグダレーナなのか?それにしては…?」
それは確かに、本を読むマグダレーナでした。
しかし二人の、いや皆んなの知っている、マグダレーナではありませんでした。
大変、美しかったのです。
切れ長の眼。
潤いを含んだ唇。
しまった、顎のライン。
くびれた腰に、上品に張った小ぶりな胸。
長く、しなやかに伸びて、組まれた脚…。
誰だって言われなければ、マグダレーナだとは、気付かないでしょう。
ペトロ「美しい…。何て、美しいんだ。」
ペトロは見つめていると、胸が熱くなる思いでした。
ヨハネ「ああ…、あの泥を塗ったのか。でも、中身は変わらないからなあ。」
その時マグダレーナは、二人に気づきました。
マグタレーナ「どなた?覗きなんて、趣味が良くないこと…。」
ヨハネは、おかしくて笑いそうに、なりました。
たかだか泥を塗って、綺麗になったくらいで、その気になっちゃって…。
そうヨハネは、思ったのです。
二人は、茂みから出ました。
マグダレーナは、二人だとわかると、安心したように微笑み、話し始めました。
マグダレーナ「ヨハネさん、春の嵐、読ませて頂きました。素敵な物語を、どうもありがとう。」
ヨハネは、マグダレーナを軽蔑しました。
あれだけ、ボロクソにこき下ろしておいて、その変わり身は何だい?
そう、思ったのです。
マグタレーナは、続けました。
マグダレーナ「互いに、強く惹きつけられながらも、種族の違い、生き方の違いが、二人を引き裂いてしまう。でも、初恋って、そんなものよね…。アベルくんは、純情だけど、不器用。ノアちゃんは、どんどん大人になってしまう。でも、きっとそういう思いが、二人を本当の大人にしていくの。きっと、そうよ。そうすれば、人の痛みや悲しみのわかる、素敵な大人に、育っていくわ…。恋は、それでいいの。満たされる、満たされないなんて、関係ない。人を好きになる、それだけで心はもう、満たされているのよ…。」
ヨハネの心から、マグダレーナに対する有耶無耶は消えていき、温もりが腹の底から、湧いてくるのがわかりました。
マグダレーナ「お二人さん。幾つになっても、恋なさいな…。私も、そういたしましょう。」
ヨハネは、自分の気持ちが、よくわかりませんでした。
これは、恋なのか?
ヨハネは、自分の想いがわからず、混乱しました。
マグダレーナ「では、御機嫌よう。」
マグダレーナは、背筋をスラリとのばし、遠くを見つめながら、いってしまいました。
後には、二人が残されました。
 
この日からマグダレーナは、誰に対しても、上品で愛想よく、接するようになりました。
それから、伝次郎とマグダレーナは、廊下ですれ違いました。
マグダレーナ「こんにちは、伝次郎さん。」
伝次郎「こんにちは…、誰だお前さん?」
マグダレーナは、ドキッとしました。
マグダレーナ「私…、マグダレーナですよ。」
伝次郎は、驚きました。
伝次郎「あんれ、まあ!べっぴんさんに、なっちまって、どうしただ?おらあ何だか、緊張してドキドキするだな…。」
マグダレーナは、嬉しくなりました。
マグタレーナ「何も変わっていませんよ。私は、私です。」
伝次郎は、涼し気に言いました。
伝次郎「でも、お前さんが綺麗になったのは、心の綺麗さの現れだから、それでよかんべ…。」
マグダレーナは、もう満足していました。
マグダレーナ「アリスさんは、どうしました?もう、会えました?」
伝次郎も、嬉しそうでした。
伝次郎「今エリヤさんの、裁判を受けてるトコだで。途中まで聞いてたんだが、大丈夫そうだべ。まあ、一安心だべな。」
マグダレーナは、静かな気持ちで言いました。
マグダレーナ「それは、よかったですね。じゃあ、私はこれで、失礼します。」
伝次郎「何かと、世話になっただな。これからも、よろしく頼むよ。」
マグダレーナ「はい!」
マグダレーナの笑顔には、一点の曇りもありませんでした。
 
 
 
テーマ曲 「The Rainy day」 The Caraway
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(白)です。
好きなお笑いコンビ(芸人さん、トリオ)は、内村光良さん、さまぁ〜ず、TIM、サンドウィッチマン東京03ふかわりょうさん、、出川哲朗さん、オアシズ
コントのライブDVDをレンタルして、観ています。
元ネタは、宮崎駿監督の「紅の豚」。
音楽の力は、やっぱり偉大です。
この作品は、ラストに悲しい気分が欲しかった。
でも、マグダレーナの心は、晴れている。
だから、言葉では描写出来ないんです。
それが、最後にあの素晴らしい曲がかかることで、共有できる。
モーモールルギャバンの「悲しみは地下鉄で」、最高ですよね〜。
ここのテーマ曲は、…最後まで迷いました。
…最初は悲しい曲をかけるコトで一捻りして「彼女の態度は明るいケド実は悲しいんだよ」と演出するつもりだったんです。
ところがお客さんの反応を察するに…、ど〜もそれはわかり切っている。
だからさらにもう一回転させて、明るい喜びを歌ってもらって…。
逆にその悲しみを浮かび上がらせる、…そんな演出が可能なのでは?とチャレンジしています。
ああ、後、美しくなったマグダレーナのモデルは、モデルの梨花さんです。
きれいですよね。
自立した、強い女性ですし。
ああいう感じを、思い浮かべて下さい。
全然、描写できなかった…。
それでは、さようなら👋。