我等キリシタン 後編

二人は部屋に戻り、する事も無いので、寝る事にしました。

パウロは、電気を消しました。
パウロ「おやすみ、マルタリア。」
マルタリア「おやすみなさい…。」
パウロは、布団の中に潜り込みましたが、寝付くことが出来ませんでした。
窓の外では、スズムシやコオロギが、涼し気な声で、鳴いています。
その音がパウロにとって、やけに耳につくのでした。
時間が経つにつれて、パウロは段々寂しい気持ちになりました。
今、この世界に残っているのは自分だけで、他の人達は皆、違う世界に行ってしまった、そんな気持ちだったのです。
あまりに不安になったパウロは、マルタリアを呼びました。
パウロ「おい!マルタリア…。」
マルタリアは、すぐ返事をしました。
マルタリア「私、まだ起きてるよ…。」
パウロは、普段とは違う調子で、話し始めました。
パウロ「マルタリア、わしは何だか寂しいんじゃ…。キリスト様は、いつもわっしを見守ってくれてる。それは、充分分かっているのに、どうしてこんな気持ちに、なるんじゃろう…?」
マルタリアは、優しく諭すように、言いました。
マルタリア「わかるよ、パウロ…。私も、時々そういう気持ちになる…。」
パウロには、いつもの勢いは、ありませんでした。
パウロ「お前とわっしの事も、そうじゃあ…。わっしは、仕事しかしとらん。お前は、ゲームしかせん。これでわっしら、一緒にいる意味、あるんかのう…。」
マルタリアは、きっぱりと言い切りました。
マルタリア「あるよ。私、パウロの事、好きだもん。」
パウロは、モゴモゴと何かを言いましたが、明確な返事はせず、やがて寝てしまいました。
 
翌朝、二人は女将の親切に、お礼を言って、宿を後にしました。
一度来た道ですから、パウロは迷ったしませんでした。
マルタリアは、バルーンファイトで遊んでいました。
パウロ「まだ時間もあるし、どこかによるか、マルタリア?」
マルタリアのキャラクターは、ナマズに飲まれていました。
マルタリア「うん…。」
パウロは、続けました。
パウロ「この近くに、有名な大きなお寺があるんじゃが、そこに行くか?」
マルタリアのキャラクターは、風船を一つ割られてしまいました。
流石のパウロも、マルタリアの様子がおかしい事に、気付きました。
パウロ「どうする?お前が決めて、いいんじゃぞ。」
マルタリアは、敵キャラクターに上空を取られていました。どうしても、上を取りかえすことが、出来ません。
マルタリア「うん…。」
パウロは、それきり黙りました。
マルタリアも、何人も撃墜された後、スイッチを切ってしまいました。
窓の外は、本当に紅葉が綺麗でした。
やがてマルタリアは、泣き始めました。
鼻水を、ダラダラ垂らしながら。
マルタリアは、赤ちゃんの様な体型でしたから、本当に赤ちゃんの様でした。
パウロは、しばらく黙っていました。
しかし、覚悟を決めたのです。
パウロ「なあ、マルタリア…。」
マルタリアは、泣き続けました。
それは、泣くというより、慟哭に近かったのです。
パウロは、車を止めました。
そして、言ったのです。
パウロ「マルタリア、わっしの妻になってくれ。」
パウロが開けた小箱からは、とても小さな可愛らしい宝石が、燦然と輝いていました。
マルタリアは、鼻をちーんと、勢いよくかみました。
パウロは、言いました。
パウロ「すまなかったんじゃ、マルタリア…。二千年も待たしてしまった。わっしは、何度も言おう言おうと、思っとったんじゃが、言えんかった。情けない、本当にわっしは情けない男じゃあ。マルタリア、頼む!頼むから、この情けないわっしを、これからも支えてくれい。」
マルタリアは、小さな小箱を手に取ると、コートの内ポケットに、しまいました。
そして、だから…ゲーム機のスイッチを入れると、アイスクライマーを始めました。
マルタリアの操るポポは、どんどん天井を崩し、登って行きました。
そして、コンドルの足に、見事掴まったのです。
 
テーマ曲 「ワンダーボーイⅢ・Drgon's trap〜Dezert zone〜」 シンタン/Michael Geyre
 
 
 
 
 
 
おまけ
どうも、こんにちは。
オートマールスム(白)です。
好きな飲み屋は、HUBです。
この作品の元ネタは、二ノ宮知子先生の 「のだめカンタービレ
本当はマルタリアの遊ぶゲームに「ギャラガ」や「マッピー」、「ディグ・ダグ」「パック・マン」等々を登場させたかったんですが、そんなスペースはありませんでした。
好きだったなぁ、namcoT
モロにTVゲーム世代であるぼくにとって、子供心にナムコが一番好きでした。
昔のTVゲームは、本当にサウンドが秀逸な作品が多くて…。
今のぼくの音楽に対する耳を創ってくれたのは、この頃のゲーム・サウンドなんでしょうねぇ。
ぼくの好きな、BGMです。
「メトロ・クロス」 大野木宣幸
この作品は、ヤンキー(元)君と、オタクちゃんの、恋愛の話なんです。
パウロは、世界が狭過ぎる。
マルタリアは、感情が表現出来ない。
だから、何も噛み合わない。
でも、ぼくとしては、とても好きなカップルです。
愛っていうのは、本当に不思議な物です。
説明できないし、理由もない。
多分、説明したり理由をつけられるのは、愛じゃないんです。
それは、利益や打算であって。
だから、これでいいんだ、と思っています。