ルシファーさまお受難 1

ルシファーは、バァル・ベバブの反乱によって、地獄を追われました。
間一髪のところで、助けに来たかぐや姫によって、天神様の住む「鳳の城」に案内され、そこで傷を癒しておりました。
ルシファーは、順調に回復しておりました。
天神様や、その配下の者達の、手厚い看護によって、ようやく一人で歩いたり、日常生活に支障がないくらいまでは、治っていたのです。
しかし、ルシファーにとっては、毎日が退屈でした。
客分である為、特にすることがなかったのです。
とはいえルシファーは、細々した政務に携わりたかった訳では、ありません。
ルシファーにとっては、政治も経済も、チンプンカンプンでした。
ルシファーが望んでいたことは、ただ一つ。
自ら剣を振るって、神秘の力を放って、手強い敵達を、なぎ倒したい。
それだけでした。

天神様「ルシファー殿、貴君にも敗北の時が来たようだ。どんな優れた強者にも、必ず敗北の時は来る…。覚悟召されよ。」
ルシファー「天神よ。貴様には、戦いの趨勢というものが、読めんらしい…。追い詰められているのは、貴様の方だ。今に、吠え面をかくようになるぞ。」
二人は、並んで座り、TVの競馬中継を、観ておりました。
ここは、天神様の自室です。
本来ならば、天神様がルシファーの部屋に出向くのが、筋であると、二人とも考えてはいたのですが、天神様の体はとても大きかったので、ルシファーの部屋には、入り切れなかったのです。
天神様は、自分の体に合わせて作らせた、特注の巨大なTV画面を、食い入るように見詰めながら、呻き声を上げました。
天神様「ムム、何といういう事だ!またしても、わしが負けるのか?ほれほれ、がんばりなさい!あと少しなんだから。あーッ!もうだめだ。何という事だ…。」
ルシファーは、勝ち誇って言いました。
ルシファー「これが、当然の結果だ!勝利するのは、常に私だ。私には、敗北など似つかわしくない…。」
ルシファーの脳裏に、伝次郎の姿が、一瞬よぎりました。
結局、ルシファーの賭けていた馬が、1着2着を飾りました。
二人が賭けていたのは、お金ではありません。
天神様の後宮に沢山いる、女性達です。
天神様は、肩を落として言いました。
天神様「ルシファー殿。貴君の賭け事の相手を務めるには、私では不足のようだ。貴君の勝負勘は、素晴らしい。まるで全ての戦いの勝敗が、貴君にはあらかじめ、分かっているかのようだ…。」
ルシファーは、当然の様に言いました。
ルシファー「戦いを生業とする者が、馬の気持ちぐらい汲み取れなくて、どうやって戦場から、帰ってくるのだ。戦いで、武勲を立てられるか否か、それはいい馬に巡り会えるかどうかに、かかっているのだ!」
天神様は、楽しそうに言いました。
天神様「ほう…。馬とは、そんなにいいものなのか。わしも、戦いの場に赴いた事は何度もあるが、それほど馬に頓着した事はない…。」
ルシファーは、一瞥して言いました。
ルシファー「貴様、女を好むか?」
天神様は、間を置かず答えました。
天神様「無論。」
ルシファーは、軽蔑した様に言い放ちました。
ルシファー「ならば、憶えておくがいい!戦士にとっての、真の伴侶とは、名馬に他ならん。女など、その場限りの快楽を得る為の、道具に過ぎん。しかし、名馬は違う。この身が戦場に臨んだ際、どんな危機を切り抜ける時も、どんな苦難を乗り越える時も、常に供をするのは、名馬なのだから。名馬は、勇気ある戦士を、決して裏切ることはない。そもそも、馬にすら裏切られるような奴は、余程の間抜けか、脳足りんに違いない。」
天神様は感服した様に、頷いて言いました。
天神様「貴君は、骨の髄から戦を好むのだな。そういう男こそ、真に類いまれなる勇敢な戦士であるに、違いない。」