遥かなる旅 4

二人は、ギリシャから近い、大きな街にやって来ました。
ここで、悲しみの山に向かう為の、準備をする為です。
アベルは、素直に驚きました。
アベル「うわあ、すごい人出ですね!ぼくは田舎育ちで、人混みには慣れていないから、人当たりしてしまいそうですよ…。」
エリヤは、苦々しげに言いました。
エリヤ「わしだって、慣れてはおらん…。いや、慣れてはおるが、慣れんのだ。ではアベル、干し肉を買い込むとしよう。ほら、そっちの店じゃよ…。アベルアベル!はぐれるなよ。」
二人は、人混みを掻き分けて、買い物を続けました。

二人は小さな食堂で、休憩がてら昼食をとりました。
アベルは、上機嫌で言いました。
アベル「エリヤ様…。どうなさったんですか?こんな騒がしい所で、昼ご飯をたべたり、旅の準備を入念にしたり…。カルナから、聞いています。エリヤ様は途中どこにもよらず、ギリシャまで真っ直ぐ旅をしたそうですね。そして、その間食べていたのは、パンにピーナツバターだけだったとか…。」
エリヤは、不服そうに言いました。
エリヤ「一度、よったじゃろう…。あの子がどうしても、ベッドで寝たいと言って。忘れてしまったのか?」
アベルは、苦笑して言いました。
アベル「それ、一回きりでしょう?エリヤ様…。エリヤ様も、モーゼ様の様に、いい宿をとったり、お祈りをして色々なものを頂けば、もっと、旅が快適になるのではないでしょうか?」
エリヤは、サラダにフォークを差しながら言いました。
エリヤ「うん?まあ、モーゼにはモーゼの、わしにはわしに合ったやり方が、あるんじゃ…。アベル?人生に、正解なんてないんじゃから、各々自分に合った生き方をすればいい…。そして、わしは基本的に人嫌いじゃ。出来るだけ、人を避ける。そして、自分の内から湧いてくる想念に、一人身を委ねていたいんじゃよ。」
アベルは、エリヤを真っ直ぐ見詰めて、言いました。
アベル「でも今回は、ぼくを連れて行ってくれた…。足手まといになると、煩わしくなると、わかっていて。」
エリヤは、笑って流しました。
エリヤ「そんな事は、ないよ…。お前さんは、色々役に立ってくれている。物事の段取りを踏むんでも、重い荷物を運ぶんでも…。わしはどっちも、苦手じゃからのう。」
アベルは、エリヤが本音を語ってくれない事が、少し不満でした。

二人は、荷物を抱えて、裏通りを行きました。
二人の今の話題は、より多くの荷物を運ぶ為に、馬を買うかどうかでした。
アベル「エリヤ様、長旅に無理は禁物です。確かに馬は、高い…。でも、出した金額以上の価値は、きっとありますよ。」
エリヤ「わしは単純に、もっと荷物を減らせばよい、と思うんじゃが…。」
その時、二人は突然、呼び止められました。
二人が振り向くと、そこには色の浅黒い、いかつい顔の男が、立っておりました。
男は低い、野太い声で言いました。
男「そこの二人!抱えている荷物を、全部その場に置いて、そのまま行っちまいな。そうすりゃ、嫌な思いをせずに、もう一度楽しく買い物が、出来るだろうよ!」
アベルが、周りを見回すと、三、四人の似たような雰囲気の男達が、二人を取り囲んでいました。
アベルは、エリヤに言いました。
アベル「エリヤ様、ここはぼくに任せて下さい。ギリシャの男がどんな物か、よくご存知ですよね?ぼくらは普段から、文武に両道たれと厳しく、育てられている。その技、今こそお目にかけましょう!」
エリヤは、まるで他人事のように、ふむふむと聞いていました。
男は、ドスを聞かせて、脅しにかかりました。
男「逆らうのか?それならお前達は、痛い思いをした挙句に、結局全てを失う事になるぞ!どうやら、あんまり頭が良くないらしいな…。」
アベルは、気を吐きました。
アベル「そんな事を言って、お前は臆病風に吹かれたんたんだろう!弱い犬ほど、よく吠えると言う。さあ、かかって来い!ぼくの体は小さいが、そんな事、技の優劣には、少しも関係ないって事を、今日、学んで帰るがいい。」
その時エリヤは、アベルの肩に手をかけ、言いました。
エリヤ「待ちなさい、アベル。わしらの持ち物は、この男達に、全部やってしまうことにしよう…。」
アベルは驚いて、目を丸くしました。